”危険水域”続く岸田政権  

新しい年・2024年は、元日に能登半島を震源地とする大地震に襲われ、発災から2週間余りたった今も多くの人が避難所での生活を続けている。

一方、年末から続いている自民党の裏金事件をめぐる東京地検特捜部の捜査は、大詰めの段階を迎えており、近く立件の方針が明らかになる見通しだ。

こうした大きな災害や事件が相次ぐ中で、国民は政治の対応をどのように受け止めているのだろうか?NHKの1月の世論調査がまとまったので、このデータを基に分析してみたい。

 支持率下げ止まりも、危険ライン続く

まず、内閣支持率からみていきたい。岸田内閣の支持率は、先月より3ポイント上がって26%だったのに対し、不支持率は2ポイント下がって56%となった。

岸田内閣の支持率は、去年11月に29%、12月に23%と政権発足以降、最低の水準を更新してきたが、今回は26%、ようやく下落に歯止めがかかった。但し、3%程度の上昇なので、誤差の範囲、事実上、横ばい状態だ。

岸田内閣は、支持率より不支持率が上回る「逆転状態」が、去年7月から7か月続いている。また、政権運営に当たって危険ラインとされる30%を3か月連続で下回っており、危険水域が続いているというのが実態だ。

さらに、支持率の中身をみても、政権の基盤である自民支持層のうち、岸田内閣を支持している割合は、5割に止まっている。安倍政権や、岸田政権の発足当初は7割から8割に達していたので、政権の求心力が大きく落ち込んでいる。

このため、岸田首相が秋の自民党総裁選で再選をめざすためには、自民支持層の支持を回復させないと、再選の道は相当難しいのが実状だ。

 災害対応、初期段階は一定の評価

次に、能登半島地震への対応だ。政府のこれまでの対応について、◇「大いに評価する」が6%、「ある程度評価する」が49%で、合わせて「評価する」は55%だ。

これに対して、「余り評価しない」は31%、「全く評価しない」は9%で、合わせて「評価しない」は40%となった。

このように地震対応について、「評価する」が過半数を上回ったことが、今回、内閣支持率の下落に歯止めをかけることができた主な要因だ。

但し、能登半島地震は16日時点で死者が222人に上ったほか、未だに被害の全容がつかめておらず、道路、水道などインフラ施設の復旧のめどもついていない。

厳しい寒さが続く中で、避難している人は1万6千人余りに上っており、避難所などで体調を崩して亡くなる災害関連死が増えることが懸念されている。こうした救援・復旧の進み具合で、政府の対応の評価は大きく変わる可能性がある。

 自民党の政治刷新、8割が信用せず

自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる裏金事件を受けて、岸田首相は自民党に「政治刷新本部」を立ち上げ、再発防止や派閥のあり方などについて検討を始めた。

世論調査では、こうした取り組みが「国民の信頼回復につながると思うか」尋ねた。結果は◇「つながる」が13%に止まったのに対して、「つながらない」は78%に上った。国民の8割は、政治刷新の取り組みを信用していないことになる。

この「つながらない」と答えた人を支持層別にみてみると◇野党支持層では88%に上ったほか、◇無党派層で85%、◇自民支持層でも66%にも達している。

「刷新本部」は、本部長を岸田首相自ら務めるほか、最高顧問には、麻生派を率いる麻生副総裁と、無派閥の菅元首相が就任。党の役員もメンバーに入るので、各派閥のトップや幹部が顔をそろえた。

38人のメンバーのうち、安倍派が最も多い10人を占め、このうち9人は裏金のキックバックを受けていることが明らかになった。党内から「なんで、こんなバカなことをやるのか。規則破り、法律違反者に新たな規則づくりを委ねるようなもの。国民の理解が得られるはずがない」と厳しい声を聞く。

今から34年前のリクルート事件の際には、当時の竹下首相は党に「政治改革委員会」を設け、会長にベテランの後藤田正晴氏に就任を要請した。有識者の声を聞くため、首相官邸に私的諮問機関である賢人会議を立ち上げたほか、選挙制度審議会に選挙制度を検討してもらうなど3本柱で対応した。

このうち、後藤田氏は自民党の若手議員に自由に議論させ、その内容は後の政治改革大綱につながった。今回の岸田首相の「政治刷新本部」は、焦点の派閥のあり方を含め、国民の多くを納得させるような改革案をまとめることができるのか、危惧する見方は多い。

 2つの危機対応、舞台は通常国会へ

以上、みてきたように新年の政治は、当面、2つの危機対応が求められている。1つは、能登半島地震への対応だ。災害関連死などを防ぎ、早期の復旧・復興のめどをつけられるのか。自衛隊、警察、消防などの部隊の投入や展開などの危機対応は適切だったのか、検証や議論が必要だ。

もう1つは、裏金事件の真相究明と国民の政治不信の高まりへの対応だ。会計責任者とともに、国会議員、派閥の幹部の立件はどうなるのか、近く東京地検特捜部の結論が出される見通しだ。

検察当局の捜査とは別に、政治の場でも事実関係の解明と、議員や派閥幹部の責任が議論されることになる。そのうえで、再発防止策や、政治改革の実現へとつなげることができるかどうかも焦点になる。

通常国会が26日から幕を開け、これから半年間、与野党攻防の主な舞台となる。地震対応と、政治とカネ、さらに賃上げや経済政策、外交・防衛など多くの懸案・課題が待ったなしの状態だ。

岸田政権と与野党は、当面の問題については早期に結論を出し、政治が本来、取り組むべき懸案・課題を競い合う、メリハリの効いた政治をみせてもらいたい。(了)