”与党優勢、波乱は物価高騰” 参院選

参議院選挙は折り返し点を過ぎて、いよいよ後半戦に入った。G7サミットなどへの出席のため、選挙期間中に異例の海外訪問をしていた岸田首相は帰国し、各党とも最後の追い込みに入っている。

さて、選挙情勢をどうみるか。与野党の関係者の話を総合して予測すると、自民、公明の与党は、改選議席の過半数を固めて優勢といえる。対する野党側は共闘体制が崩れ、焦点の定員1人の「1人区」でも苦戦が続いているのが特徴だ。

一方、岸田内閣の支持率や自民党の支持率に下降傾向が、現れている。政府の物価高騰対策に対する不満が背景にあるものとみられ、選挙に波乱があるとすれば、この物価高騰が要因になることも予想される。

また、猛烈な暑さが続く中で、投票率がどうなるか。前回は、戦後2番目に低い投票率だったが、改善なるか。参院選の情勢や背景を探ってみる。

 与党、改選議席の過半数確保の勢い

さっそく、選挙情勢からみていきたい。自民党関係者に聞くと「想定通りの戦いで、前回・2019年の選挙を下回るような要素はない。前回獲得の57議席以上、60台に乗せるのではないか」と自信をのぞかせる。

選挙全体を左右するといわれる「1人区」をみても32選挙区のうち、27程度で自民党が優勢だ。定員が2人以上の「複数区」でもすべての選挙区で1議席を確保したうえで、北海道、千葉、東京、神奈川では2議席目にメドが立ちつつある。

比例代表選挙は、前回は19議席だったが、今回は1~2議席の上積みが可能だとみている。自民党は58議席以上、60台を確保する勢いをみせている。

公明党は、接戦が続いている選挙区を残しているものの、比例代表と合わせて、前回と同じ14議席が視野に入りつつある。

このため、岸田首相が勝敗ラインとして設定する「非改選を含めて与党で過半数」という56議席はもちろん、「与党で改選議席の過半数」63議席も上回る勢いがある。(橋本聖子参議院議員が近く自民党に復党した場合、56議席→55議席)

 比例・野党第1党、立民と維新の争い

野党側は、カギを握る1人区で候補者を1本化できた選挙区は11で、前回・前々回の3分の1に止まり、苦戦を強いられている。

野党側が今の時点でやや優位にある選挙区は、立憲民主党、国民民主党、無所属候補を含めて、青森、岩手、山形、長野、沖縄の5か所程度に止まっている。

自民党と激しく競り合っている選挙区が5つ程度あり、この激戦区でいくつ上積みできるかが焦点だ。野党系候補が勝利した1人区は、2019年は10,2016年は11あったが、今回はこれを下回り、1ケタ台に落ち込む公算が大きい。

野党側は、野党内で激しく競い合っているのが特徴だ。野党第1党の立憲民主党は改選議席23を上回る目標を掲げているが、改選議席を割り込むことも予想される。

維新は、改選6議席の倍増と比例代表選挙で立憲民主党を上回る得票をめざしている。共同通信の世論調査で、比例代表の投票先として、維新が立民を上回っていたが、最新の調査では逆転しており、比例の野党第1党争いが続く見通しだ。

このほかの党の改選議席は、国民民主党が7、共産党が6、社民党1となっており、各党の勝敗を評価するうえで目安となる。

一方、今回の選挙では、憲法改正に前向きな勢力が改正を発議できる総定数の「3分の2」、166議席に達するかどうかも焦点だ。具体的には、自民、公明、維新、国民の4党で、非改選の84に加えて、今回82議席が必要になる。4党が今の勢いを維持した場合は、届く見通しだ。

 岸田内閣、自民支持率ともに下降傾向

このように選挙戦は与党優勢で推移しているが、ここにきて、岸田内閣の支持率と、自民党の支持率がともに下降傾向を見せ始めた。

読売新聞が6月22・23日に行った調査では、岸田内閣の支持率は57%で、6月上旬の前回調査から7ポイント下落した。自民党の支持率も6ポイント下がって37%、比例代表の投票先も9ポイント下がって36%となった。

NHKが6月中旬から1週間ごとに行っているトレンド調査でも、岸田内閣の最新の支持率は50%で、この2週間に9ポイント下落した。自民党支持率も35.6%で、2週間で4.5ポイント下落した。(最新・投票日2週前調査と、その2週前調査との比較)

NHKの調査では、政府の物価高騰対策について「評価する」が35%に対し「評価しない」が56%と上回っており、物価高騰対策が影響しているものとみられる。

但し、岸田内閣や自民党の支持率は下落しているものの、野党の支持率は上がっていない。こうした批判がどのような投票行動になって現れるか、わからない。

 物価高騰、与野党勢力、投票率がカギ

後半戦の焦点は何か。これまでの議席予想に変化・波乱が起きるとすれば、政府の「物価高騰対策」への批判が強まる場合が考えられる。

厳しい暑さが続き、東京電力管内では「電力需給ひっ迫注意報」が出されてきたことから、エネルギー確保や経済政策を含めた物価高騰対策の論戦がどのような展開をみせるのか焦点になりそうだ。

また、岸田首相がG7サミットやNATO首脳会議に出席したのを受けて、ロシアや中国に対する「日本外交の戦略・対応」や、「防衛力の整備の具体的な内容、予算の規模、財源」をめぐる論戦のゆくえも注目される。

さらに、参議院選挙が終わると衆議院が解散されない場合、向こう3年間、国政選挙がない期間が続くことになる。このため、国民が与野党の勢力はどのような形が望ましいと考えるか。

与党を増やして岸田政権の実行力に期待するのか。与党を増やしすぎると内輪の抗争が激化するとみて、野党を増やす方へ動くのか「与野党の勢力バランス」も判断の要素になりそうだ。

さらに気になるのは「投票率」だ。前回は48.8%、50%を割り込み、戦後2番目に低い投票率になった。今の日本政治が国民の関心を引き付ける力を失っていることの反映だ。

ロシアによるウクライナ侵攻は長期化が予想される中で、日本は国際社会の中でどのような役割を果たすのか。どんな経済・社会を目指すのか、政党のリーダーは構想や目標、道筋をもっと明確に打ち出して議論を深めるべきだ。

私たち国民も政治の側の訴えに耳を傾け、ベストの選択肢がない場合は、よりましな選択を心掛け、1票を投じたい。(了)

★追記(7月1日16時:東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長を務めてきた、参議院議員の橋本聖子氏が組織員会の解散を受けて、1日付で自民党に復党した。これに伴い、自民・公明両党の非改選の議席は、1つ増えて「70」となる。また、自公両党が勝敗ラインとしている参議院全体の過半数を維持するために必要な議席は、56から「55」になる)