第26回参議院選挙が22日公示され、7月10日の投開票日に向けて18日間の選挙戦が始まった。
政権与党の自民党は堅調な滑り出しをみせているが、「物価高騰とエネルギー対策を含む経済政策」が選挙の波乱要因として浮上してきたように見える。
今回は選挙の構図をはじめ、選挙情勢、今後の焦点を報告する。
選挙の構図一変、野党共闘から競合へ
まず、「立候補状況」を確認しておくと◇選挙区選挙には75の定員に対して367人、◇定員50の比例代表選挙には178人の合わせて545人が、それぞれ立候補した。
前回・3年前の立候補者は、合わせて370人だったので、前回に比べて175人も増えた。これは、選挙区で1人を選ぶ「1人区」で、野党候補の1本化が進まなかったことと、”ミニ政党”が多数の候補者を擁立したためだ。
また、女性候補者が181人で、候補者全体の33%、人数と割合はいずれも過去最高となった。衆院選挙を含めた戦後の国政選挙で初めて3割を超えたが、「候補者男女均等法」の目標には届いていない。
次に「選挙の構図」は、過去2回の選挙と比べると様変わりしたのが特徴だ。特に全国に32ある「1人区」で、与野党の勝敗を左右する選挙区の様相は大きく変化した。
1人区は、自民党が長年議席を維持してきた選挙区が多く、野党側は共闘体制を組んで対抗しようとしてきたが、今回、1本化できたのは、11の選挙区に止まった。
前回、前々回はすべての1人区で候補者を1本化してきた。今回は全体の3分の1に止まったので、野党同士が競合する選挙区が増えたことになる。
自民堅調、波乱要因は物価高騰対策
それでは、与野党の選挙情勢や、勝敗を分けるポイントは何かをみていきたい。
自民党の幹部に聞くと「新型コロナ感染は落ち着いているし、ウクライナ情勢も岸田内閣はG7と連携して対応しており、選挙準備も順調に進んでいる。自民党にとって、不安材料があるとすれば、物価の高騰や円安など経済問題への対応だ」と公示前の時点で語っていた。
その後、党首討論や、公示日の党首第一声などを聞いてみると、この幹部の不安が的中した形になっている。別の幹部も「この30年、国民は物価の高騰を経験したことがなく、対応を誤ると思わぬリスクになる」と神経をとがらせている。
報道機関の世論調査でも◆共同通信が6月11日~13日に行った調査では、岸田内閣の支持率は56.9%と高い水準を保っているが、前回調査から5ポイント近く下落した。岸田首相の物価高対応についても「評価する」は28.1%に対し、「評価しない」が64.1%と大幅に上回った。
◆NHKが6月10日以降1週間ごとに実施しているトレンド調査では、岸田内閣の支持率は59%から、55%へ4ポイント下落した。政府の物価高騰対策についても「評価する」が35%に対し、「評価しない」が56%と上回った。
今回の参院選の論点としては、ウクライナ情勢と外交・安全保障、コロナ対策、憲法改正問題など数多くのテーマを抱えているが、世論や選挙情勢に最も大きな影響を及ぼしているのは「物価高騰対策」であることが浮かび上がってきた。
次に、こうした物価高騰問題は、参院選挙では具体的にどのような形で影響が出てくるのかを探ってみよう。まず、全国が対象の比例代表選挙に比べて、選挙区選挙への影響が大きい。特に1人区のうち、接戦の選挙区だ。
例えば、青森、岩手、宮城、福島の東北各県をはじめ、新潟、山梨、大分、沖縄などの各県は大激戦になりそうだ。こうした激戦区は10余りあり、風向きが変わると勝敗が入れ替わることになる。
与野党の選挙関係者の話を基に判断すると、自民党は「前回・2019年に獲得した57以上の議席の獲得は可能で、60台に届くのではないか」との見方をしている。
これに対して、野党関係者は「1人区では、野党候補の1本化で前回は10議席、前々回は11議席を確保してきた。今回、野党共闘は縮小したが、激戦区では1議席でも競り勝ちたい」と最後の追い込みにかける構えだ。
自民、公明の与党側は、非改選を含めて与党で過半数の確保には、自信を持っている。但し、どこまで議席を上積みできるかは、読み切れていない。1人区の激戦区がカギを握っており、特に10か所近い激戦区の情勢はまだ、流動的だ。
物価・防衛、岸田首相の政治決断は
最後に7月10日の投開票日に向けて、どんな動き、展開が予想されるか。
1つは、週末は各テレビ局で党首レベルの討論が行われるが、これまでと同じ主張をダラダラと繰り返す展開が1つ。選挙の争点が明確にならないのが問題だ。
岸田首相は、26日からドイツで始まるG7の首脳会合、続いて29日からスペインで開かれるNATO首脳会議に初めて出席する。選挙期間中に異例の1週間近くも国内を留守にすることになる。
2つ目は、例えば円安がさらに加速したり、報道各社の世論調査で、岸田内閣の支持率が続落したりして、岸田政権が新たな対策に追い込まれたりするケースも予想される。
3つ目は、岸田首相が打って出る形で、物価高騰や防衛費問題などをめぐって、新たな対策や構想を打ち出すこともありうるのではないか。野党党首もこれに応じて、活発な論戦が戦わされるケースも考えられる。
現実の政治はどうか。1つ目の先送りケースに落ち着く可能性が大きいと思うが、私個人は、3つ目のケースもありうるのではないかと期待している。
というのは、このまま推移すると世論は「岸田政権は、物価高騰などに思い切った手を打てないのか」と落胆や批判が強まり、内閣支持率などが下がる可能性もあるからだ。
また、平時であれば先送りもありうるかもしれないが、今はウクライナ情勢に伴う激動、有事が続いている。大胆でスピーディーな対策が必要だ。
さらに世論は、小手先の給付金や補助金のバラマキを期待しているのではなく、資源高対策としてエネルギー確保にどう取り組むのか。日本の金融政策は、欧米諸国とは正反対の方向で、大胆な金融緩和策を続けて大丈夫なのかといった点を知りたいと考えているのではないか。
端的に言えば、岸田政権としてどんな経済・金融政策を取るのか、明確でわかりやすい説明を世論は催促していると思う。
今回は物価高を中心に取り上げたが、防衛力整備のあり方についても同じ問題を含んでいる。
岸田首相は、防衛力を抜本的に強化する考えを表明する一方、重点的に整備する分野や、予算規模、財源は選挙の後に先送りする方針だ。
しかし、国政選挙のさ中に、防衛力整備の基本的な考え方を明らかにしないのはどう考えても無責任だと言わざるを得ない。
選挙の時に「負担」の話はしないというのは、昔流の政治手法だ。国民の安全にかかわる問題は選挙の時に説明し、国民を説得することは、政治的なリスクを伴うが、民主主義国のリーダーの責務であり、強さでもある。
岸田首相が政治決断をして、踏み込んだ構想を示し、野党党首も受けて立って、中身のある充実した論戦を行えないものか。国民の多くは、政治が変わり、前進することに大きな関心と期待を抱いているのではないか。(了)