参院選情勢”与党先行、波乱要因も”

夏の参院選挙は、6月22日公示・7月10日投開票日が有力視されている。この日程からすると、投票日まで3か月を切ったことになる。

国民の関心は、ロシアによるウクライナ侵攻と、収まらないコロナ感染のゆくえに集中しているが、これからの日本の進路をどうするのか。参院選では何を基準に選択をするのか、私たち有権者としても考え始める時期ではないか。

そこで、参院選の今の情勢はどうなっているのか。また、何が問われる選挙なのかを考えてみたい。

 選挙情勢、与党”前回以上の勢い”

さっそく、参院選挙に向けた与野党の取り組みからみていきたい。ここでは、参院選の勝敗を左右する、全国で32ある1人区を取り上げる。与野党の構図がわかりやすいからだ。

自民党は1人区については、宮城と山形を除く30の選挙区で候補者の擁立を終えている。宮城は近く公認候補が決まる見通しだ。山形は政府予算に賛成した国民民主党に配慮して、党本部から擁立見送り論が出され調整が行われている。

これに対して、野党側は候補者の擁立が遅れていることに加えて、野党間の候補者調整の枠組みが崩れ始めているようにみえる。

前回と前々回の参院選挙では、野党第1党の立憲民主党や民進党が中心になって、国民民主、共産、社民、れいわなどの各党と、1人区の全ての選挙区で候補者を1本化して選挙に臨んだ。

ところが、今回は立憲民主党が先の衆院選で敗北した”後遺症”もあり、野党結集に主導権を発揮できていない。加えて、国民民主党は独自路線を強め、これに共産党が反発し、候補者調整がどこまで進むかメドが立っていない。

このため、立憲民主党内からは、すべての1人区で候補者1本化は難しく、今回は、限定した形になるのではないかという見方も聞かれる。

こうした1人区の現状は、参院選全体の取り組み方とも共通しており、”与党は着実な体制で先行、野党は共闘体制に乱れ”というのが、今の段階での特徴だ。

次に選挙情勢を見ていきたい。11日にまとまったNHK4月世論調査によると岸田内閣の支持率は先月と変わらず53%、不支持は23%だった。

政党支持率では、自民党は38.9%、公明党3.0%。野党側第1党の立憲民主党は5.2%と低迷、日本維新の会も3.6%と減少が続き、国民民主党1.5%、共産党2.5%、れいわ0.2%、社民党0.4%、無党派36.7%となっている。

岸田政権の支持率をどう読むか。まず、内閣支持率については、政権発足から半年経過した時点でも50%を超えたのは、小泉、第2次安倍、岸田の3つの政権しかないので、高い水準を維持しているといえる。

次に自民党の政党支持率について、過去3回の参院選挙のデータと比較してみると2013年の41.2%より低いが、2016年35.5%、2019年34.2%より高い水準にある。

過去3回の参院選の結果は、2013年は自民単独で、改選議席の過半数を獲得して大勝。2016年と2019年は公明党を合わせた与党で、改選議席の過半数を確保した。

つまり、与党は今の時点では「前回、前々回以上の勢い」がある。但し、「今の水準が今後も続くかどうかはわからない」というのが結論になる。

 波乱要因、コロナ、ウクライナ戦争

さて、参院選挙の予測は”当たる”ことが多いが、予想外の結果となり、政権が倒れることもある。98年橋本龍太郎政権の参院選が代表的なケースで、私も個人的に予測が外れ、苦い思いとして今も残っている。

古い話は横に置いて、参院選の場合、波乱要因は何かを絶えず意識して取材する必要がある。今回の場合は、コロナ感染の再拡大と、ウクライナ危機の影響ということになるのではないか。

自民党の長老に聞くと「ウクライナ戦争をめぐる世論の反応は、ロシアに対する批判が強く、岸田政権に向かう可能性は低いのではないか。やはり、コロナ感染の再拡大。特に入院・医療提供体制にまで影響が及ぶ事態になるかどうかを最も心配している」と語る。

一方、ギクシャクした関係が続く自民、公明関係については「自民党の各候補や県連の多くは、選挙協力では公明党・創価学会に”個別撃破”され、従来の関係に落ち着くのではないか」として、影響は大きくないとの見方をしている。

 外交・防衛、新たな争点になるか?

ここまで与野党の取り組みや選挙情勢などをみてきたが、私たち有権者にとっても「何を基準に政党や候補者を選択するのか」がそろそろ、考え始める時期に入っているのではないか。

判断材料としては岸田政権の政権運営、具体的にはコロナ対応をはじめ、国民生活への支援や日本経済の立て直しの問題がある。ウクライナ関係では、ロシアに対する制裁の評価や、去年秋からの原油高騰、物価高への対策も論点になりそうだ。

一方、今の段階でははっきりしないが、個人的に注目しているのが、日本の外交・安全保障、特に防衛力整備のあり方だ。今度の参院選で、どの程度大きな争点として浮上するのか注視したい。

安倍前首相は「核共有」をめぐる議論の活発化や、防衛費6兆円規模への増強などを盛んに打ち上げている。与野党議員からは「核より通常兵力の整備が先だ」「安倍前首相は、プーチン大統領頼みの日ロ外交の総括を明らかにすべきだ」などの意見も聞かれ、議論は混戦状態だ。

岸田政権は、年末に国家安全保障戦略や、中期防衛力整備計画などを改定する方針だ。敵基地攻撃能力保有の是非や、防衛力の整備の水準や予算規模の扱いも焦点になる。

その際、専守防衛、国連中心主義、アジア重視など戦後日本の外交・防衛の基本方針との関係が、どのように整理されるのか、あるいは方向転換することになるのかどうか。

一方で、国内では、少子高齢化に伴う人口減少と社会保障の設計、停滞の長いトンネルから抜け出せない経済政策、巨額な借金財政への対処方針も先送り状態になっている。

こうした内外の課題・懸案をどうするのか。参院選では、与野党、候補者はバラマキ政策を競うのではなく、懸案に優先順位をつけて基本方針を示す責任がある。そして、私たち選ぶ側も、賢明な選択ができるかどうかが問われることになる。(了)