失速 安倍政権 国会最終盤

通常国会は、会期末まで残りわずか。6月12日には、新型コロナウイルス対策を盛り込んだ第2次補正予算が、参議院本会議で成立した。一般会計の総額で31兆円、過去最大の巨額補正予算だ。収入が大幅に減った事業主に対する家賃支援や休業中の手当の上限引き上げなどの緊急対策がようやく実施されることになる。

一方、報道各社の世論調査では、安倍内閣の支持率が急落している。国会最終盤での支持率急落の理由・背景をどう見るか。安倍政権の対応、何が問われているのか、分析・展望してみたい。

 支持率急落、”森友・加計”水準

さっそく安倍内閣の支持率から見ていきたい。最近の報道各社の世論調査を整理すると次のようになっている。社名、調査実施日、()は前回調査との比較。

  • NHK 5/15~17 支持37%(- 2)<不支持45%( + 7)
  • 毎日 5/23   支持27%(-13)<不支持64%(+19)
  • 朝日 5/23・24   支持29%(- 4)<不支持52%(+  5)
  • 読売 6/5~7  支持40%(- 2)<不支持50% (+  2)
  • 日経 6/5~7  支持38%(-11)<不支持51%(+  9)

内閣支持率は、最も低いデータで27%、高いところで40%などの違いがあるが、支持を不支持が上回る”逆転状態”である点では、共通している。

また、多くの調査結果は、”2018年の3月から7月時並みの水準”という点でも共通している。森友・加計問題が国会の大きな焦点になった時期にあたる。2012年末に発足した第2次安倍政権は、比較的高い支持率を維持してきたが、およそ2年ぶりの低い水準にまで支持が落ち込んでいる。

 支持離れ、与党、男性、若年層

それでは、具体的にどんな人たちの支持が離れているのか。安倍内閣の支持構造を分析してみる。データは、NHKの世論調査。

安倍内閣の支持率を牽引してきたのは「与党の支持層」、「男性」、「若年層」の高さだったが、こうした層で「支持する」と答えている割合が、いずれも第2次政権発足以来の低い水準に陥っているのが大きな特徴だ。

◆「自民党の支持層」で「安倍内閣を支持する」と答えてきた人は、これまで85%から78%と高い水準にあったが、5月は71%まで減少。公明党なども含めた「与党支持層」でも69%と過去最低の水準だ。

◆「男性」の支持も40%で最低。◆「18歳~20代の若い層」の支持率も5割近い高い水準だったのが、41%まで低下している。

安倍内閣の支持率は、最も多い「無党派層」で不支持の割合が高く、今回も6割に達している。「女性」も不支持が44%と多く、この点も変わっていない。これに加えて、従来の支持基盤である「与党支持層」「男性」「若い層」の支持離れが重なっており、状況は深刻だ。

支持離れをどう見るか

こうした支持率低下の理由は何か。世論調査では、◆新型コロナ感染に対する政府の対応について、「評価しない」が53%、「評価する」44%を上回っている。◆黒川前検事長の定年延長に関連して、検察庁法改正については「反対」が62%に達し、「賛成」の17%を大幅に上回っている。

つまり、10万円の現金給付の遅れ、中小企業に最大200万円を配る持続化給付金が遅れていることの不満。それに安倍政権の検察人事問題が影響しているものと見られる。

それでは、現金給付などが行き渡れば、世論の支持が再び戻るのか。政権の関係者の中には、国会が閉会になれば、国民は政権の問題などは忘れて、支持率も回復するとの見方もあるが、今回はそのようにはならないのではないか。

というのは、国民はコロナ問題を一過性の問題と見ておらず、長期化すると見ていること。

また、経済情勢については、これまでの景気拡大から景気後退へと変わり、失業、倒産が増えるのではないかと警戒。国民の安倍政権に対する見方は、より厳しくなる。短期間で回復することは難しいとの見方をしている。

 実態把握、危機管理体制に問題

さて、政府のコロナ対策に対する国民の見方はどうだろうか。端的に言えば、安倍政権は、方針・対策を華々しく打ち出すが、とにかく実現に時間がかかる、遅すぎるという見方をしていると感じる。その原因としては、現場の「実態把握」に弱点があるのではないか。

例えば、◆感染者の日々の正確な発生状況、空き病床、軽症者の宿泊施設の確保などに遅れが目立った。◆PCRの検査を増やすと打ち上げるが、実施件数は増えない。◆緊急事態宣言を出すタイミング、解除の条件・基準の検討も後手に回ったのではないか。◆政府の対応に遅れがあると指摘された場合、実態の把握と原因の究明が遅く、どこまで改善されたかの説明もないとの指摘が多い。実態把握と説明面に弱点がある。

もう1つ、大きな問題は「政府の危機管理の体制」の問題。司令塔である「首相官邸が一枚岩の体制」になっているのかどうか。

例えば、安倍首相が2月末に打ち出した小中高校の一斉休校。政府の基本方針とは別の方針が突如、打ち出される。担当の萩生田文科相、加藤厚労相、菅官房長官らも事前に知らされていなかったという。

また、国民への現金給付も「1世帯30万円給付」が閣議決定されながら、与党の公明党や自民党の要求で「1人一律10万円給付」に転換される。結果として方針が混乱し、支給が遅れる事態を招いた。

こうした背景には、安倍首相最側近の今井総理補佐官と菅官房長官との確執が影響していると見ている。つまり、一枚岩の体制になっていない。また、現場の関係者や官僚を説得し、動かす力が弱いのではないか。「首相官邸の総合調整機能」を発揮できる体制になっていないという問題がある。

 求心力低下、1強体制の終焉

以上、見てきたように安倍政権は支持率が急落、政権の求心力は低下している。また、1人10万円給付への方針転換をはじめ、検察庁法改正案の先送り、さらに9月入学の見送りなどの政策・方針変更が相次いでいる。首相官邸と与党の関係では党側の力が増し、安倍1強体制は揺らぎの段階から、終焉へと変わりつつある。

安倍政権は、これまでの衆院の解散・総選挙などで、政権の危機的状況を打開してきたが、こうした中央突破路線は難しい。これからは、感染抑制と経済再生の両立、そのための具体的な社会・経済政策、それに実現への道筋を打ち出せるかどうか、険しい道が続くことになる。