参院選 与党優勢、波乱要因は

夏の参議院選挙は、6月22日公示、7月10日投開票の日程で行われる見通しだ。あと1か月余りで選挙戦が始まるが、与野党の選挙関係者に話を聞くと事前の予測は「与党優勢」の見方が多い。

一方、与党幹部に選挙の手ごたえを尋ねると「ベタなぎ状態、逆風は吹いていないが、追い風もない」と国民の関心や反応に戸惑いもみせる。

そこで、今回は、参院選での与党優勢の情勢を変える波乱要因はあるのか、あるとすれば、どのようなリスクなのかを探ってみたい。

 与党の取り組み先行、野党共闘に乱れ

まず、今の時点の選挙情勢をどのようにみているのか、自民党の選挙関係者に聞いてみた。「自民党に追い風が吹いているわけではないが、野党側に比べると候補者の擁立などの取り組みは先行している」として、自民、公明両党で改選議席の過半数を獲得できる勢いがあるとの見方を示している。

具体的には、選挙区選挙のうち、定員が2人以上の選挙区で自民党は最低でも1議席は獲得できること。焦点の1人区についても野党の共闘体制に乱れが生じているので、自民党が過去2回に比べて議席を減らす可能性は低いとみていること。

さらに比例代表選挙で最低でも18議席は確保できると仮定すると自民党は、前回や前々回並みの55議席以上は獲得できるとの見方だ。

公明党は、選挙区と比例を合わせて10数議席の獲得は確実なので、与党で改選議席の過半数63以上は十分、達成可能だと判断している。

これに対して、野党側の取り組みは、前回のブログで取り上げたように与野党の勝敗を左右する1人区で共闘の足並みが乱れている。候補者を1本化できるのは15日現在で、32選挙区のうち11程度と少ない。

さらに、9日にまとまったNHK世論調査で、岸田内閣の支持率は55%と高い水準を維持している。政党支持率でも自民党は39.8%で、野党第1党の立憲民主党の5.0%、第2党の日本維新の会の3.5%を大幅にリードしている。

このようにみてくると参院選挙をめぐる情勢は、候補者擁立などで与党の取り組みが先行しており、与党優勢と言えそうだ。

 波乱要因、ウクライナ、コロナ対応

参議院選挙は、投票日直前の状況の変化などで、選挙結果がガラリと変わった選挙もあった。そこで、今回はどのような変動要因があるのかみていきたい。

直ぐに頭に浮かぶのは「ウクライナ情勢への対応」だ。ロシア軍がウクライナに軍事侵攻を始めて3か月近くなるが、戦争終結の見通しは全くついていない。

岸田政権は、ロシアに対する経済制裁については、G7=主要国と連携して対応することを基本方針にしている。自民党内には、連携ばかりで日本の外交方針がはっきりしないなどの批判も聞くが、党内の大勢にはなっていない。

また、エネルギー分野では、ロシア産の石油や天然ガスの輸入禁止の問題があるが、ヨーロッパ諸国の方が、ロシアへの依存が高いので、日本が直ちに厳しい対応を迫られる公算は小さいとみられる。

このため、政府・与党側は「ウクライナ問題は、G7との連携重視で対応していけば、短期的には大きなリスクは避けられるのではないか」との見方が多い。

2つ目の変動要因は「コロナ対応」だ。ウクライナ危機が起きる前までは、最大の変動要因との見方が強かった。

感染拡大は3月以降、新規感染者数が大幅に減少したことや、3回目のワクチン接種が進んでこともあり、このところ医療のひっ迫状況は改善されている。

帰省や行楽などで人の移動が活発になった5月の大型連休が終わり、感染の再拡大が再び起きるのかどうか、まだはっきりしない。

新規感染者が増えても重症者が少ないことと、医療提供体制が維持されているので、与党関係者は、コロナ対応は、選挙のゆくえを左右する大きな争点にはならないのではないかとの見方をしている。

但し、コロナ感染は、新たな変異株がいつ現れるかわからず、油断大敵だ。個人的には、政治・行政のコロナ感染危機対応は問題が多いとみているので、この3年の検証と評価の議論を大いに深めてもらいたいと考えている。

 物価高騰、円安、経済政策リスク

変動要因の3つ目は、「物価高騰などの経済政策リスク」だ。ウクライナ情勢による原油高で関心を集めているが、去年秋から原油高や物価高が続いている。ウクライナ情勢の影響は、これから秋にかけて大きくなる。

東京23区の4月の消費者物価指数は、生鮮食品を除いた指数で去年の同じ月を1.9%上回り、上昇幅は7年ぶりの大きさになった。東京23区のデータは、全国の先行指標となっており、4月の全国指標はどこまで上昇するのか、5月20日に公表になる。

原油価格の高騰を背景に電気代、ガス代、ガソリン代が上がっているのをはじめ、各種食料品の値上がりも続いている。これに加えて、急激な円安も進んでおり、輸入物価の押し上げにつながる。

与党側にも、こうした物価高が参院選に大きな影響を及ぼすのではないかと懸念している声を聞く。この30年間、国民は大幅な物価上昇の経験をしていないためで、選挙への影響を計りかねているからだ。

政府・与党は、国費で6.2兆円に上る補正予算案を編成する方針を決めたが、物価対策としては、石油価格の高騰を抑えるための補助金の拡充や、低所得世帯の子ども1人あたり5万円の給付などに限られている。

日米の金利差の拡大で円安が急速に進んでいるが、景気が十分に回復していない中で、今の金融緩和策を転換するのは難しく、手詰まりの状態だ。

与党幹部の1人は、岸田首相が掲げる「新しい資本主義」の具体策が未だに示されていないことから、効果的な物価対策や成長戦略を打ち出せないと選挙に大きな影響が出てくるのではないかと警戒している。

 国会最終盤、予算委で骨太な論戦を

ここまで政策面の波乱要因を見てきたが、国会運営面で、もう1つの波乱要因を抱えることになった。それは、物価高対策のため、新年度の補正予算案を編成することになり、衆参両院で予算委員会が開かれることになったことだ。

政府・与党側は、国会の最終盤に予算委員会が開かれ、野党側が政府を厳しく追及する場面が続くと、直後の参院選挙に影響が出てくる恐れがあると神経をとがらせている。6月15日の会期末を控え、与野党の攻防が激しさを増しそうだ。

一方、国民の側から見ると予算委員会の開催は、本格的な論戦の舞台が設定され、活発な論戦が行われることに大きな意味がある。この国会では、論戦らしい論戦がほとんど見られなかった。

3つの変動要因は別の表現をすれば、ウクライナ危機と、コロナ感染危機、それに低迷が続く日本経済と社会をどのように立て直していくのかという問題だ。

こうした内外の懸案に対して、岸田首相をはじめ与野党の党首はどのような方針や対応策で乗り切ろうとしているのか、骨太な論戦を見せてもらいたい。国民にとって、参院選での重要な判断材料になるからだ。(了)