国葬問題 ”政権の調整力不足”

安倍元首相の国葬が27日に迫っているが、国民の理解が広がっていない。報道各社の世論調査によるとほとんどで「賛成」より「反対」が上回っている。

国葬を巡っては、さまざまな論点があるが、岸田政権の野党に対する働きかけや、国民に対する説得など政権の調整力不足が影響しているのではないかと感じる。

報道各社の最新の世論調査のデータを基に、国葬問題と岸田政権の対応について考えてみたい。

 国葬問題 国民の理解広がらず

さっそく報道各社の最新の世論調査の結果から、見ておきたい。◆毎日新聞が17,18両日行った世論調査では、国葬の賛否については「反対」が62%、「賛成」が27%となった。

◆共同通信が同じ日に実施した調査では「反対」が60.8%、「賛成」が38.5%。◆産経新聞の同じ日の調査でも「反対」が62%、「賛成」が32%だった。

国葬の評価をめぐって、NHKの世論調査では7月の調査では「評価する」が49%で、「評価しない」の38%を上回っていた。ところが、8月に逆転、9月は「評価しない」が57%、「評価する」が32%とその差が広がった。

このように安倍元首相の国葬については、国民の理解が広がっていないことが改めて浮き彫りになっている。

 国民への説明、政権の調整機能の弱さ

それでは、なぜ、国葬について、国民の理解が広がらないのか。先の世論調査では「政府の説明が不十分だ」「岸田首相の説明に納得できない」といった点を挙げる人が全体の6割から7割以上に上っている。

岸田首相は8日の国会での閉会中審査で、安倍元首相が憲政史上最長の任期を務めたことなど4項目を挙げて理解を求めたが、世論調査の結果は、こうした説明に国民の多くは納得していないことを示している。

具体的には、岸田首相がいち早く国葬とする方針を決めた理由は何か、歴代首相経験者と同じ「内閣と自民党の合同葬」ではいけないのか。

法的な根拠として、政府は内閣府設置法を挙げているが、国会で与野党の議論を経て決定するのが適切ではないか。国葬の場合、全額国費で賄うが、全体の経費をなぜ早く示せないのかといった点だ。

いずれも7月の時点から問題になっていた点だが、国会の閉会中審査で議論されたのは9月8日、あまりにも対応が遅い。しかも、岸田首相の説明は当初の4項目の繰り返しで、これでは国民の心に響かない。

国民の理解が広がらなければ、さらに追加の議論を深めることが必要だと思うが、そのような対応は行われなかった。

国葬をめぐっては、与野党の意見が対立していることに加えて、国葬への出席をめぐっては、野党内の対応にも違いがある。さらに世論の評価も分かれているのが実情だ。

こうしたときこそ、政治の側、中でも政権の最高責任者が主導権を発揮して調整機能を果たすことが必要だと考えるが、岸田首相はこうした対応を取らなかった。

国葬をめぐる分断は、政権が野党側に働きかけたり、国会での議論を通じて国民を説得したりする調整機能の弱さ、調整力不足が大きな要因というのが、私の見方だ。

 国葬問題、臨時国会で議論・総括を

さて、国葬については、岸田首相は14日の政府与党連絡会議で「案内状を順次発送しており、各国からの敬意と弔意に対し、礼節をもってお応えする」とのべ、粛々と執り行う考えを強調した。

内外から6400人が参加して盛大に営まれる見通しだが、国民の多数が必ずしも賛意を示しているわけではない状況をどう考えればいいのか、複雑な思いだ。秋の臨時国会では、遅ればせながらも国葬の課題や今後の対応などをきちんと議論して総括してもらいたい。

一方、この国葬問題は、旧統一教会を巡る問題とともに、岸田政権の政権運営に影響を及ぼしている。9月の世論調査の特徴は、岸田内閣の支持率が続落しているだけでなく、初めて支持と不支持が逆転した点だ。

◆9月中旬の朝日新聞の調査では、支持率が41%に対し、不支持率は47%で逆転した。◆毎日新聞では、支持率29%、不支持率64%。◆共同通信は、支持率40%、不支持率47%、◆産経は支持率42%、不支持50%となった。

岸田内閣の支持と不支持の逆転は、7月の参院選挙で大勝した岸田政権の状況が一変したことを意味する。10月3日に召集される秋の臨時国会では、与野党の激しい論戦が交わされる見通しだ。

さらに年末に向けては、物価の高騰対策と補正予算案の編成、コロナ感染対策の法整備、さらにはウクライナ情勢を受けて防衛費の増強という難題が控えている。

国葬や旧統一教会の問題で、岸田政権が国民の疑念や不信感を取り除くことができるかどうかは、難題乗り切りと政権の先行きを左右する大きなポイントとして、注目している。(了)