年の瀬 ”逆風強まる安倍政権”

平成から令和に代わった今年もいよいよ、残りわずかになった。
政治の世界では、これまで高い支持率を維持してきた安倍政権だが、このところ世論の風向きが変化し、逆風が強まりつつある。

最大の要因は、首相主催の「桜を見る会」について、世論の側が、安倍首相や政府側が説明責任を果たしていないのではないかと受けて止めていることだ。

それに加えて、カジノを含むIR=統合型リゾートを巡る汚職事件で、秋元司衆院議員が逮捕されるなど新たな不祥事が重なり、歯止めがかからない状況だ。

報道各社の世論調査のほとんどで、安倍内閣の支持率が大幅に下落し、不支持が支持を上回る調査結果も出始めている。

こうした内閣支持率の下落は、新年の政治の動向にも影響を及ぼすので、2019年の締め括りとして、この1年間の内閣支持率などの推移を含めて詳しく分析してみる。

 内閣支持率、年終盤に失速

最初に安倍内閣の支持率の推移について、NHKの世論調査を基に整理しておく。
2019年の1月は支持率が43%、不支持率が35%でスタートした。4月から6月かけて支持率は40%台後半に上昇。7月の参院選も40%台半ばを維持、与党が勝利を収めた。

参院選後の8月は支持率が今年最高の49%まで上昇、不支持は31%まで下がった。その後は、支持率は徐々に下降線をたどり、12月上旬の調査では支持率が45%まで下がり、不支持は37%まで上昇。その差は8ポイントまで縮まった。

報道各社の調査でも11月中旬の調査から、ほとんどの調査で支持率が5ポイントから7ポイントと大幅に下落した。(共同、産経、読売、日経各11月調査)

さらに最も新しい12月の調査で見ると◇共同通信の調査(14、15日)で支持42.7%、不支持43.0%。◇朝日新聞の調査(21、22日)で支持34%、不支持42%で、不支持が支持を上回った。支持・不支持の水準は各社によって異なるが、支持率が大幅に下落する傾向では一致している。

 「桜を見る会」が最大要因

こうした支持率低下の原因は何か。安倍政権を巡る動きとしては、9月11日に内閣改造が行われたが、早くも10月25日に菅原経産相、31日に河井法相が相次いで辞任に追い込まれた。また、萩生田文科相が大学入学共通テストの英語民間試験を巡る「身の丈発言」で謝罪、その後、民間試験の導入延期に追い込まれた。

11月上旬段階の調査では内閣支持率に大きな変化は見られなかったが、11月中旬の調査を境に内閣支持率の大幅な低下が目立つようになった。

この原因は11月8日の参議院予算委員会で、首相主催の「桜を見る会」が取り上げられたことが影響している。野党側は、安倍首相が自らの後援会員を公式行事に招待するなど公私混同、私物化だと厳しく追及し、安倍首相や政府側の答弁内容が変わり、その後の国会論戦の焦点に浮上していった。

報道各社の調査では「桜を見る会」の安倍首相の説明については、「納得できない」「十分でない」などの受け止め方が、いまだに7割前後にも達している。
また、不支持の理由として「首相が信頼できない」との割合が増加している。
つまり安倍首相は説明責任を果たそうとしていないという不信感・不満が読み取れる。

 不祥事の連鎖、政権運営に変調

安倍政権は、これまでは失言や不祥事が起きた場合、早期に閣僚の交代に踏み切ったり、衆院解散・総選挙で局面を打開したりするなど巧みな政権運営で危機を乗り切ってきた。

ところが、今回は最初の2閣僚の更迭は早かったが、その後の相次ぐ閣僚の失言、不祥事、さらには看板政策の変更・取り消しなどにも追い込まれ、「失態の長期化」に陥っている。
また、世論の批判が集中すると看板政策を中止・取り消しており、内閣支持率を気にしすぎではないかと感じるほどだ。その一方で、肝心の政策変更の理由や今後の対応策の説明が乏しく、以前のようなリスク管理能力が見られない。

具体的には、既に触れた2閣僚の更迭、大学入学共通テストの柱である英語民間試験の導入延期、記述式問題の見送り、「桜を見る会」の来年開催の中止、内閣府がこの行事への招待者名簿を廃棄した措置も批判を招いている。

これに加えて、かんぽ生命の不適切販売に関連して、監督官庁の総務省の現職事務次官が、郵政グループに天下りしている先輩の元事務次官に情報を漏洩、更迭されるという前代未聞の失態も明るみなった。
さらには、元内閣府副大臣でカジノを含むIR担当を務めた秋元司衆院議員が、収賄事件で逮捕されるといった事件も大きな衝撃を与えている。

ここまで不祥事の連鎖が続くと、”この歴代最長政権、どこか変だ”と受け止められ、内閣支持率の大幅低下は避けられない。

 安倍政権の反転攻勢は

こうした世論の逆風に対して、安倍政権の反転攻勢は可能だろうか。
年の瀬の12月26日は第2次安倍内閣が発足してから丸7年、8年目に入った節目の日だ。政権関係者は、IR汚職事件に対しても「秋元議員個人の問題で、政権とは関係ない」と強気な姿勢を崩していない。

野党側や与党の一部には、「桜を見る会」などの追い込まれの事態を打開するため、安倍首相は年明けの通常国会冒頭、大型補正予算案を成立させた後、衆院解散・総選挙に踏み切るのではないかという見方もある。

しかし、内閣支持率がここまで下落している状態では、解散を打てる状況にはないとみるのが普通の感覚だ。ましてや、台風19号や大雨などで大きな被害を受けている人たちが全国各地にいる中で、選挙に打って出られる状況ではない。年明け解散・総選挙は、極めて可能性が低いと見る。

そうすると、政権与党としては、外交面での取り組みを進めるとともに、大型の補正・新年度予算案の早期成立で局面の転換を図る以外、有効な手は限られていると見る。

 野党の支持率上がらず

これに対して、野党側は、先の臨時国会では一連の不祥事の追及で、久しぶりに主導権を発揮し一定の存在感を示したと言えそうだ。さらにその後もIR汚職事件などで、通常国会での追及材料には事欠かない見通しだ。

こうした一方で、野党の政党支持率は、横ばい状態で一向に上昇する気配がない。国民の多くは、野党の追及に一定の理解を認めながらも、追及だけでは野党を支持する気にはならないのではないか。

やはり、野党としての対案を打ち出したり、格差の是正、個人消費の拡大といった国民の共感を得られるような取り組みを進めないと、国民の支持は広がらない。次の通常国会では、政権批判だけでなく、野党としての対案、対立軸を打ち出し国民を引きつけられるかどうか。

また、野党第1党の立憲民主党と第2党の国民民主党とが合流して、新党結成までこぎ着けられるかどうかも問われることになる。

 内閣支持率、低下傾向続くか

それでは、今後、安倍内閣の支持率はどうなるのかという質問があると思う。
内閣支持率にはさまざま要素が絡んでくるので、予測は難しいが、海外情勢の要素を除くと次のような点がポイントになる。

◇仕事納めの12月27日、政府は中東地域への自衛艦などの派遣を閣議決定したが、派遣目的や法的根拠は妥当なのかどうか、数多くの論点を抱えている。
◇金融庁と総務省は、かんぽ保険の不適切な販売問題で郵政グループ各社に対する行政処分を決定、郵政グループ3社の社長が責任を取って辞任した。
但し、総務省の前事務次官の情報漏洩の動機なども明らかにする必要がある。
◇さらに秋元司衆院議員の汚職事件については、中国企業からの資金提供が300万円以外にもあったのかどうかなど全容解明はこれからだ。

このようにこれまでの不祥事に加えて、新たな問題・事態の展開が続いており、通常国会では、野党側の厳しい追及が予想される。このため、内閣支持率はさらに低下する可能性が大きいのではないか。

国民の側からすると、国会では、こうした不祥事に対する真相の究明とともに、新年度予算案の中身の点検、社会保障制度の将来像といった難問への対応、それに国際情勢・外交問題などを巡る論争を徹底して行ってもらいたい。
要は、国民が知りたい点に応える論戦、バランスの取れた政策論争をきちんと行うことを政権与党、野党側の双方に注文しておきたい。

 

◆お知らせ

年内のブログはこれで一区切りとし、新年1月1日に新たなブログを投稿できるよう、これから準備に入ります。
ご多忙な中、当ブログをご覧いただき感謝しています。新年もどうぞ、よろしくお願いします。