安倍政権 歴代最長の要因は? 「官邸主導、選挙で連勝」

安倍首相の通算在職日数が、11月20日に戦前の桂太郎元首相を抜いて、憲政史上最長になる。長期政権の要因は何か?

また、今後も自民総裁4選などでさらに任期を伸ばしていくのか、それとも政権の失速、退陣といった事態もあるのか、2回に分けて分析・展望してみたい。

安倍首相が政権復帰を果たした2012年頃からの取材メモなどを読み返してみると歴代の自民党政権と異なる点に気づかされる。

1つは「官邸主導」の徹底。良くも悪くも、安倍首相を中心にした政治家・官僚チームが再結集し、組織的な政権運営を徹底して貫いてきたことがわかる。

もう1つは、「国政選挙の連勝」。政権復帰後、最初の参院選に勝利、衆参ねじれ状態を解消した。また、政権に不利な局面では、衆院解散・総選挙を前倒し。

相撲で言えば、”けたぐり”、”猫だまし”なような手法で勝利。こうした選挙での連勝が、長期政権の大きな要因というのが私の見方だ。
以下、こうした見方・読み方の理由、根拠を具体的に説明したい。

短命政権が多い日本

最初に、日本の総理大臣や政権の特徴を見ておくと「短命政権」が多い。
内閣制度が始まった明治18年・1885年、初代の伊藤博文から、98代の安倍首相まで歴代首相は62人を数える。

このうち、在職日数が4年以上務めた首相は、戦前で2人、戦後は6人しかいない。戦前は、伊藤博文と明治・大正時代の桂太郎、日露戦争当時の首相。戦後は、吉田茂、池田勇人、佐藤栄作、中曽根康弘、小泉純一郎、安倍晋三の6氏しかいない。

安倍首相は、今年8月24日に戦後最長だった佐藤栄作元首相の2798日を抜いたのに続いて、11月20日には桂太郎の2886日を上回り、憲政史上最長となる。

長期政権 多様な要因

さて、本論に入って、安倍政権が長期政権となった理由としては、多くの要因が考えられる。直ぐに頭に浮かぶのは、第2次安倍政権ではデフレ脱却、強い経済を目標に大胆な金融緩和などの経済政策、「3本の矢」を打ち出したこと。

この経済政策はアベノミクスとして人口に膾炙し、当初の段階では、円安、輸出増加、経済成長率の上昇など一定の成果を上げた。雇用情勢も好転した。好調な経済・雇用は政権を持続させる追い風となった。

また、政治情勢としては、当時の民主党政権が党内の対立で行き詰まりを見せており、後継の安倍政権には有利に働いた。
野党が弱体、与党内に強力なライバルが不在だったことも大きな要因だ。

さらに世論との関係でも安倍内閣の支持率は、堅調な状態が続いてきた。
こうした経済情勢、政治環境、世論の支持など多様な要因が長期政権を形作ったのは事実である。

「官邸機能の強化」が原動力

長期政権の理由として、先に見たように多様な要因があるが、政治取材を続けてきた記者・ジャーナリストの立ち場で言わせてもらうと、政権の中枢である「官邸機能の強化」が長期政権の原動力になったと見ている。この点は政治取材に足を踏み入れた1970年代、自民党の派閥全盛”三角大福中”の時代から感じてきた。

わかりやすく表現すれば、日本の政治は新たに総理大臣の指名を受けると”単身で総理官邸に乗り込み、官僚の海に囲まれて執務を行う状態”に置かれる。
総理の周辺にいる身内は、せいぜい官房長官と副長官、政務の秘書官程度だ。こうした政権中枢の不十分な体制が短命政権の要因になっているのではないか。

 “安倍One Team”効果

これに対して、第2次安倍政権発足時の体制を振り返ってみると、安倍首相を、麻生副総理兼財務相、甘利経済再生担当相、菅官房長官の3人が中心になって支えていた。それに官房副長官が加藤勝信衆院議員(現在の厚労相)、世耕弘成参議院議員(現在の参院自民党幹事長)。政務の総理秘書官が経産省出身の今井尚哉氏(現在の総理補佐官)という体制だ。

一方、事務方は、官房副長官の杉田和博氏を筆頭に、総理秘書官の多くが、過去に1年以上、官邸で仕事をした経験者で、安倍首相とも個人的なつながりのある人材を起用していた。

安倍総理を中心に中枢の閣僚4人が話し合い、決まったことを菅官房長官が閣僚などに徹底させていく形で政権運営を行っていた。

また、安倍首相自身、第1次内閣が短命に終わった反省を基に政権運営に当たったと語っているほか、当時の事務方の関係者も「前回を教訓に毎日、顔を合わせ雑談、意思疎通を心がけていた」と話している。今風に言えば、”安倍 One Team”を実践したことが、政権運営に効果を発揮したと言えそうだ。

官邸機能、歴代で最高評価も

別の政権の秘書官経験者を取材しても「今の安倍政権は、首相官邸の調整機能を組織的に回すことができている。官僚機構もうまく回している。これまでの自民党政権でもなかったことではないか」と評価している。
個人的には”行き過ぎ”の感じがしないわけでもないが、政権運営面では歴代政権の中でも高い評価を受けているのも事実だ。

 ”国政選挙6連勝” 効果

長期政権のもう一つの主な要因が、衆参の国政選挙で連勝を続けていることだ。
政権復帰後、最初の2013年の参議院選で勝利し、衆参のねじれ状態を解消した。

2014年の衆院解散・総選挙は、直前の内閣改造で初入閣した女性閣僚2人が「政治とカネの問題」などでダブル辞任に追い込まれたが、翌年の消費増税の先送りを掲げ、解散・総選挙に打って出て勝利した。衆議院議員の任期が2年に達しない段階の解散で、野党側にとっては不意打ちを食らった総選挙になった。

結局、安倍政権は、政権復帰を果たした旧民主党政権下の選挙を含め、衆院選3回、参院選3回の合わせて6戦全勝が続いている。
2015年の統一地方選を含めると、2013年から2019年まで、安倍政権は、大型選挙を毎年1回ペースで行ったことになる。政権を取り巻く情勢が不利になっても、国政選挙で勝利し、局面を打開してきた。

この背景には、野党の多党化・分裂、それに野党の選挙準備不足が大きく影響しているが、野党の弱点を最大限突いて政権基盤を安定させる巧妙な政権運営を行ってきたと言えるのではないか。

長期政権の功罪は?

最後にこうした異例の長期政権の功罪をどう見るか。
一般的には、長期政権自体は、毎年1年で首相が交代するよりは政治が安定し、外交や中長期の課題に取り組めるので評価していい。

但し、安倍政権の場合の問題は、世論調査のデータで見ると「他の政権よりまし」といった消極的な評価が多い。
また、「首相の人柄が信頼できない」といった受け止め方が多い。
つまり、永田町では強い政権だが、世論の支持の度合いは必ずしも強くはないことを認識しておく必要がある。政権が長期化する場合、有権者の”飽き”が大きなハードルとして浮上するのではないか。

このほか、安倍政権の場合、内閣人事局で中央省庁の幹部人事を一括管理するようになり、官邸の意向を忖度する雰囲気が一段と強くなり、官僚機構が変質してきたのではないかと危惧する声も聞く。

政治の基本は、国会と行政が相互にチェックする機能、あるいは、与野党間の政権交代が行われるようにすることで、健全な民主主義を持続させることを考えておく必要がある。
長期政権に対しては、国民がその功罪を認識して、選挙に参加して判断していくことが不可欠だ。そのための判断材料と選択肢を政治の側、メデイアの側が地道に根気よく提供していくことが問われていると考える。

次回は、安倍長期政権の今後を展望します。