有終の美を飾れるか? 歴代最長の安倍政権

安倍晋三首相の通算在職日数が20日、2887日となり、戦前の桂太郎元首相を抜いて憲政史上最長となった。長期政権の要因については、前回のブログでとりあげた。2回目の今回は、今後の政権運営に焦点を当てて、分析したい。

これまでの長期政権を見ると政権末期に、人心が離れ政権の力が急速に衰えたり、政権運営が迷走したりするケースが目につく。”超長期政権”となった安倍政権は、果たして「有終の美」を飾ることができるのか、探って見たい。

 長期政権 難しい”幕引き”

戦後の歴代首相は34人を数えるが、任期を4年以上務めた首相は6人しかいない。吉田茂、池田勇人、佐藤栄作、中曽根康弘、小泉純一郎、それに安倍晋三の各首相だ。各政権を駆け足で振り返ってみると、次のような特徴がある。

◇敗戦間もない吉田政権は、サンフランシスコ講和条約を締結、占領を終わらせたが、講和後、国民の人気は急降下、造船疑獄などが重なり退陣。

◇所得倍増政策を推し進めてきた池田元首相は、喉頭ガンの病に倒れ、東京オリンピック閉会の翌日、退陣を表明する。

◇佐藤政権は7年8か月の戦後最長政権。沖縄返還を実現、総裁4選も果たしたが、派内の抗争、外交ではニクソンショックの直撃、世論とのズレも目立った。

◇中曽根政権は国鉄などの民営化を実現し、衆参ダブル選挙で大勝。総裁任期1年延長となったが、売上税でつまずいた。

◇小泉政権は郵政民営化に執念を燃やし、衆院解散・総選挙を断行。刺客候補などの小泉劇場を繰り広げて選挙は圧勝。総裁任期の延長は求めずに引退した。

このように見ると比較的順調な形で退場したのは小泉元首相くらいで数少ない。長期政権の幕引きは、意外に難しいことがわかる。

 「政権の総仕上げ」と「次の新政権づくり」

さて、安倍政権のこれからの政権運営はどのようになるか。
まず、安倍政権は「超長期政権」という強みがある。他方、自民党の総裁としての任期は「1期3年、連続3期」という党則があり、再来年2021年9月30日まで。「任期限定政権」という制約がある。再度の総裁任期の延長、4選論もありうるが、やはり党則、世論の反応も考えると難しいと見る。

4選論については安倍首相も否定している。安倍政権としては「政権の総仕上げ」と「次の新政権づくり、バトンタッチ」の2つの使命・責任を果たさなければならない。

 「政治日程は逆に読む」、これからの動き

それでは、これからの政権運営は、どこがポイントになるのか。
「政治日程は逆に読む」。時間の経過を追って見ていくのではなく、最も重視する日程から、逆に読んでいくのが基本だ。

安倍首相が最も重視するのは何か。1つは自民党総裁任期、2021年9月30日。
もう1つは、その3週間後に任期満了となる衆議院議員の任期、10月21日。
ほぼ同時期だ。

つまり、「次の自民党総裁選び」をどうするか。「衆議院の解散・総選挙をいつ設定するか」、2つの根本問題が残されており、最大のポイントだ。

 総裁4選論はあるか?

まず、「次の自民党総裁選び」では、安倍首相の4選論はあるかどうか。
両説あるが、取材の感触を率直に言えば、確率としては低いのではないか。

安倍首相も強い口調で否定している。側近と言われる政治家を取材しても「安倍首相は3期まで務めた後、後継のリーダーに託す考えだ」との見方をしている。

ただ、政治の世界は、現実の動きによって変わることがあり得る。例えば、安倍政権が、重要な内政問題の処理で山場にさしかかった場合、あるいは、来年秋のアメリカ大統領選挙の結果などによっては、安倍首相の続投もないとは言い切れない。但し、現状ではその可能性は低いのではないかと、個人的には見ている。

 年末・年始解散は見送りか?

次に「衆院解散・総選挙」については、断定的なことを言える材料はない。
但し、与党幹部の取材を基に判断すると一時期、盛んに流されていた「年末・年始の解散」の可能性は低く、見送りの公算が大きいのではないか。

その根拠は、秋の台風15号、19号とその後の大雨の被害が大きかったからだ。補正予算案の編成作業が進められており、自民党幹部も「台風災害への対応で、選挙は、とてもムリだ」と認めている。

その後の時期は、さまざまな説がある。予算成立後では◇来年4月19日は、秋篠宮さまの立皇嗣の礼。◇春には、中国の習近平国家主席が国賓として来日予定。
◇東京都知事選が6月18日告示、7月5日投票の日程。◇東京オリンピック・パラリンピックが7月24日、幕を明ける。自治体などの事前準備などを考えると解散・総選挙は、オリンピック後の来年秋以降との見方が強い。

政局のヤマ場は、来年秋か

このように見てくると政局の最大のヤマは、来年秋以降に収れんしてくる。
次の衆院選挙は、誰が断行するのか。安倍首相か、次の新しいリーダーか。そのためには、自民党総裁選をいつ設定するのか。再来年の秋か、それとも前倒しがあるのかといった点も含めて判断する必要がある。

政権与党にとって、任期満了選挙は追い込まれ解散の恐れがあり、避けるとすると、任期満了1年前には、総選挙の時期・段取りを固めておく必要がある。そうすると、ちょうどオリンピック・パラリンピック閉幕時重なってくる。

安倍首相が、自らの総裁4選論、次の総裁選び、衆院選への対応を決断することになるのではないか。その時点の政権の体力、ポスト安倍候補の思惑、それに世論の風向きも含めて、政局は大きく揺れることも予想される。

長期政権、最重点課題は何か?

国民にとって関心があるのは、安倍長期政権は残り2年を切った任期中に、何を最重点課題に設定して取り組むのかという点だ。

去年秋、安倍首相が総裁3選を決めて以降、行った記者会見や国会での所信表明演説などを基に判断すると、最重点課題としては次の3つが考えられる。
1つは「全世代型の社会保障制度改革」の実現。2つ目が「戦後外交の総決算」、日露、日朝関係など。3つ目が「憲法改正問題」だ。

安倍首相の本音は「憲法改正」と思われるが、憲法9条に自衛隊明記を盛り込む改正は、限られた任期内に実現するのは極めて難しいという見方が強い。

安倍首相は引き続き憲法改正を追求していくのか、あるいは、リアルな課題を選択するのか政権の最重点課題の絞り込みを注目して見ていきたい。

 有終の美、最後は政治姿勢がカギ

最後に長期政権の対応が難しいのは、”有権者の政権に対する飽き”を如何に防ぐか。有終の美を飾るためには、最後は、首相の政治姿勢が問われることになる。

安倍政権と有権者の関係は、世論調査の中身を分析すると、内閣支持率は堅調だが、「世論の信頼度」は必ずしも高くない。内閣を支持する理由は「他の内閣より良さそう」という消極的な支持が圧倒的に多い。
支持しない理由としては「首相の人柄が信用できない」という不信感が多いのも特徴だ。

先の内閣改造以降、初入閣の主要閣僚2人が相次いで辞任に追い込まれたのをはじめ、大学入学共通テストへの英語民間試験の導入が来年度延期されることになった。さらには、首相主催の「桜を見る会」を巡る問題も批判を浴びている。

国民の側は、首相の釈明や陳謝が本気かどうかを敏感に見極めようとしている。不祥事に対して”ダメージ・コントロール”といった小手先の発想で対応していると、人心は一気に離れてしまうのが恐ろしいところだ。
長期政権だからこそ、事実関係の説明の徹底。政治家が責任・ケジメをつけ、信頼感を保つことにより一層努める必要がある。

日本の政治は、これまで長期政権の後は、短期政権が続くケースが多かった。
世界は激変時代、日本は難問山積、問題処理の時間は余り残されていない。
それだけに政権与党内で次をめざすリーダー同士の論争、与野党間の建設的な競い合いなど新たな時代の政治につなげる取り組みを是非、みせてもらいたい。