10万円一律給付へ転換「世論の不評に危機感」 

安倍首相は、コロナウイルス対策として打ち出してきた「1世帯30万円の現金給付」の方針を転換し、「1人10万円を所得制限なしで一律給付する考え」を与党・公明党の山口代表に伝えた。

政権与党の公明党からの強い要請と、自民党内の要望を受けて実現へ踏み切ったものだが、既に閣議決定していた緊急経済対策を変更し、補正予算案を組み替えて国会に提出するのは、極めて異例だ。

こうした背景には、政権が目玉政策として打ち出した世帯向け現金給付に対して「世論の評価が極めて厳しいこと」に加えて、「安倍内閣の支持率低下への危機感」が働いているものと見ている。

そこで、今回の安倍政権のコロナ対応と世論の評価を詳しく分析してみたい。

 内閣支持率 軒並み低下

まず、「安倍内閣の支持率」から見ていく。コロナウイルスの感染拡大を受けて、安倍首相が7日、東京や大阪など7都府県を対象に緊急事態宣言を行った後、報道各社の世論調査が10日から12日にかけて実施された。

◆NHKの調査では、支持率は前回より4ポイン減の39%、不支持も3ポイント減の38%で拮抗。支持率が30%台に割り込んだのは、2018年6月以来のことだ。
◆読売新聞の調査では、支持が6ポイント減の42%、不支持が7ポイント増の47%。◆産経新聞は、支持が2.3ポイント減の39.0%、不支持が3.2ポイント増の44.3%。◆共同通信は、支持が5.1ポイント減の40.4%、不支持が4.2ポイント増の43.0%。3社の調査では、いずれも不支持が支持を上回る「逆転状態」へ悪化した。(NHKはニュースWEB、新聞・通信社は各社紙面のデータを使用)

こうした支持率低下の大きな要因と見られるのが、「緊急事態宣言を出したタイミング」の問題だ。「遅すぎた」との評価がNHK調査で75%。共同、読売、産経の調査でも80%~83%に達している。

 世帯30万円給付「不評」目立つ

次に政府が、緊急経済対策の目玉政策として打ち出した「1世帯あたり30万円の現金給付」。世帯主の月収が一定の水準まで落ち込んだ世帯に限って、現金を給付する制度。「非課税や収入半減などの給付条件がわかりにくい」「対象世帯が限られるのではないか」などの不満が聞かれた。

◆NHK「評価する」43%<「評価しない」50%。
◆読売「適切だ」26%<「不十分だ」58%。
◆産経「大幅に減った世帯に給付」39%<「すべての国民に給付」51%。
◆共同「妥当だ」20%<「一律給付」61%。

調査の設問や回答が異なるが、政府案を「評価しない」との意見が多数。国民に一律給付を求める意見が多い。公明党は元々、「1人10万円一律給付」を求めていた。自民党の若手議員からも同様の意見が出されていた。

NHK調査データで、政府案に対する世論の反応を分析すると◇「評価しない」が多いのは40代、50代の働き盛りの世代で、6割を上回る。◇支持層別で「評価しない」は、野党支持層で6割、無党派層でも6割近く、与党支持層でも4割を占めた。◇職業別で「評価しない」は自営業、サラリーマンともに6割程度にのぼった。端的に言えば、全体として「不評」。

 自粛に伴う損失 国が補償が多数

また、感染防止のためにイベントや活動を自粛した事業者の損失に対して、国が補償するかどうかの賛否。NHK調査では「賛成」76%、「反対」11%。政府は補償できないとの立ち場だが、世論は補償を求める意見が多い。

 マスク配付「評価しない」7割

さらに、政府が全ての世帯に布製マスクを2枚配付することについては「評価する」23%、「評価しない」71%。466億円の予算が必要で、”愚策”との厳しい声も聞かれた。

 政府対応、世論とのズレ浮き彫り

コロナ感染防止への対応をめぐっては、「政府対応と世論のズレ」の大きさが浮き彫りになっている。

「現金給付」の仕組みが変わることになるが、必要とする人たちへの支援は十分か。現金が届く時期は、早くなるのかどうかなどの制度設計が問題になる。
また、安倍政権の相次ぐ方針・政策変更と、政権運営のあり方。
さらには、財源確保のための赤字国債発行と借金の返済、財政規律など議論すべき論点・課題は多い。

 コロナ危機、政治の構造にも影響

最後にやや専門的になるが、今回のコロナ危機は、内閣支持率や政党支持率など「政治の構造」にも影響を及ぼしつつあるので、触れておきたい。

◆内閣支持率。与党支持層で安倍内閣の支持割合は73%で大きな変化はない。
◇無党派層では、安倍内閣の支持が減少(3月24%→4月19%)。◇年代別では、これまで高かった「18歳以上20代・30代の若者」の支持が減少(3月48%→4月40%)。◇地域では、緊急宣言の「7都府県」(大都市部)で支持が減少(3月45%→4月37%)などの変化が見られる。◇男女では「女性」は変わらず、元々、低い(4月女性35%<男性43%)。

◆内閣支持率のトレンド。◇去年夏の参院選後8月、内閣支持率は49%でピーク。それ以降、ほぼ一貫して低下。4月は39%、4割を割り込んだ。◇不支持は、去年8月が31%、増え続け40%前後まで増加。◇コロナ対策が大きな成果を上げないと、5月以降、支持・不支持が逆転の可能性がある。

◆政党支持率。◇自民党は低下(3月36.5%→4月33.3%)。特に「18歳以上・20代・30代の若者」の自民支持が急減(3月37%→4月25%)。◇野党第1党の立憲民主党も低下(3月6.3%→4月4.0%)。男女、40代、70歳以上で減少顕著。
◇無党派層は増加が目立つ(3月41.5%→4月45.3%)。70歳以上でも増加。

コロナ危機は、安倍長期政権、自民・立憲の政党支持率にも影響、変化を及ぼしつつある。当面、安倍政権が感染拡大を押さえ込めるか。国民生活、経済対策で一定の成果を上げることができるかが最大のポイント。年後半に衆院選挙を行えるような状況は、今の時点では想定しにくい。(了)