岸田内閣支持率最低”秋の解散困難か”

政界は夏休みがまもなく終わり、秋の政局に向けてのが動きが始まる。こうした中で、NHKの8月の世論調査の結果が14日にまとまった。

今回の調査では、2つの点を注目していた。1つは、マイナンバーカードをめぐる問題について、政府が先に打ち出した新たな対応策がどのように評価されたか。2つめは、岸田内閣の支持率で、政権の求心力や体力がどの程度あるかだ。

結論を先に言えば、マイナンバーカードの対応策への評価は低く、岸田内閣の支持率も政権発足以来、最も低い水準となった。

この世論調査のデータを基に予測すると、岸田首相が秋に衆院解散・総選挙に踏み切るのは、かなり難しい情勢にあると言えそうだ。なぜ、こうした結論になるのか、以下、説明したい。

 マイナ新対応策「評価しない」が6割

さっそく、マイナンバーカードをめぐる問題からみていきたい。マイナンバーカードに健康保険証をひもづける問題をめぐっては、他人の情報が誤って登録されるなどのトラブルが相次いだことから、政府は今月8日に総点検の中間報告と新たな対応策を発表した。

11月末までに保険証をはじめ、税や所得など29項目に及ぶすべての個別データについて、総点検を行い、その結果を公表するというのが主な柱だ。

今回の世論調査では、こうした政府の対応策の評価を尋ねている。その結果は、「評価する」は36%に対し、「評価しない」は57%で、大幅に上回った。

また、岸田首相は、来年秋に今の健康保険証を廃止する方針を当面、維持したうえで、マイナンバー保険証を持たない人すべてに「資格確認書」を発行して、国民の不安の払拭に努める。そして、総点検の状況次第では、廃止の延期を含め、必要な対応をとるという考えを明らかにした。

こうした保険証廃止の政府の方針について、世論調査の結果は「予定通り廃止すべき」が20%、「廃止を延期すべき」が34%、「廃止を撤回すべき」が36%となった。「廃止の延期」と「廃止の撤回」を合わせると、廃止反対が7割に達した。

マイナ保険証の問題をめぐって、政府の方針と、国民の評価には大きな開きがあることがはっきりした。国民の側は、今の保険証を来年秋に期限を区切って廃止することに大きな疑問を感じている。

加えて、今の保険証と変わらない「資格確認書」を発行することにどのような意味があるのか、強い不信感を抱いていることも読み取れる。政府の新たな対応策については、国民の支持が得られていないことが改めて浮き彫りになった。

 内閣支持率33% 政権発足以来最低

次に、2つめの注目点である岸田内閣の支持率に話を移したい。8月の内閣支持率は、先月の調査から5ポイント下がって33%だった。これは、去年11月と今年1月の調査と同じで、岸田政権発足後、最も低い水準になった。

一方、不支持率は45%で、先月に比べて5ポイント増えた。支持率を不支持率が上回る逆転現象で、先月に続いて2か月連続となる。

支持率が政権発足以来、最低となった理由としては、冒頭に取り上げたマイナンバーカードをめぐる相次ぐトラブルが大きく影響したものとみられる。

また、洋上風力発電をめぐり賄賂を受け取った疑いで、秋本真利衆議院議員が検察の捜索を受け、外務政務官を辞任し、自民党を離党した。資金提供は6000万円にものぼり、競走馬の購入などの費用にあてた疑いが持たれている。

さらに、自民党の松川るい女性局長がフランスで行った党の研修で、エッフェル塔の前で研修の参加者とポーズを取って映っていた写真をSNSに投稿し、「観光旅行だ」などと批判を浴びて陳謝する出来事も起きた。

こうした相次ぐ不祥事も支持率低下に影響したものとみられる。岸田内閣の支持率は、G7広島サミットが行われた今年5月には46%まで上昇したが、その後3か月連続で減少し、合わせて13ポイントも支持率を落とした。

 自民支持率低下、看板政策も低い評価

岸田内閣の支持率下落に関連して、もう1つ注目すべき点は、自民党の政党支持率低下も並行して減少している点だ。8月の自民党支持率は34.1%で、岸田政権発足以降、最も低い水準になった。

自民党の政党支持率は、安倍政権や菅政権でも30%台後半から40%程度と高い水準を維持してきた。内閣支持率が低下した場合も、自民党支持率は安定した水準を保ってきた。

岸田政権でも同じような傾向が続いていたが、今年1月以降は、自民党の支持率が緩やかながら低下傾向が見られるようになり、今年6月に35%台を切って岸田政権発足以降、最低を記録した。その状態が3か月連続で続いているのである。

つまり、内閣支持率と自民党支持率がともに低下する新たな傾向が表れ始めた。この理由は、世論調査のデータからははっきりしたことはわからないが、政権の求心力が低下しているのは間違いない。

個人的には、最近の自民党は、政府に対して党の存在感を発揮できるような場面がほとんどみられないので、政権の支持率低下にひきづられる形で党の支持率も低下しているとの見方をしている。

そのうえで、岸田内閣の支持層をもう少し、詳しく分析すると最も多い自民支持層のうち、岸田内閣を支持すると答えた人の割合は59%で、6割を下回った。

安倍政権時代は、7割台後半から8割前後の高い水準だったのに比べると、岸田政権では、自民支持層の支持離れが起きている。内閣支持率の低下は、不祥事などの影響もあるが、こうした政権基盤の弱体化が根本的な問題だ。

一方、岸田政権は、最も大きな集団である無党派層の支持が、2割程度と極めて低いのが特徴だ。さらに、70歳以上の高齢世代の支持は比較的高いが、それ以外の60代以下ではいずれの年代も「不支持」が5割に達し、「支持」を上回っている。

こうした無党派層や働き盛りの世代が重視するのは、政策だ。その岸田政権の政策については、防衛増税の実施時期をはじめ、異次元の少子化対策の具体的な財源などが、いつまでたってもはっきりしないことに対する批判が強い。

マイナンバーカードの問題についても今の保険証を廃止するのか、廃止を延期するのか、新たな対応策の方向すらはっきりしないことに不満も聞かれる。

岸田政権の看板政策は「内容が曖昧で、先送りが目立つ」という批判が根強く、こうした政策面の評価の低さが支持率の低下をもたらしている可能性が大きい。それだけに支持率の回復は時間がかかり、政権運営にあたって深刻な問題だ。

 秋の解散・総選挙は大きなリスク

最後に、秋の政局の最大の焦点である衆議院の解散・総選挙に及ぼす影響はどうか。岸田首相や政権与党の執行部は、衆議院議員の任期も10月には折り返し点を迎えることから、秋の解散・総選挙を有力な選択肢として模索するものとみられる。

しかし、これまでみてきたように内閣支持率は発足以降最低の水準で、しかも政権の看板政策について、国民の支持が十分に得られていない。このため、選挙の勝敗面からも、秋の解散・総選挙に踏み切るには極めて大きなリスクを伴うことが、今回の世論調査から読み取ることができる。

岸田首相が今後、どのような解散戦略を描いていくのか。それに対して、与野党がどのように対応していくのか、秋の政局に向けての動きがまもなく始まる。(了)