臨時国会は間もなく終盤戦に入り、ヤマ場を迎えるが、岸田内閣の支持率が続落している。報道各社の世論調査の中には、内閣支持率が自民党の支持率を下回って”危険水域”といわれる30%に近づきつつある調査結果もみられる。
岸田首相は、東南アジアで開かれている一連の外交日程をこなしている。これに先立って、財政支出の総額で39兆円にのぼる総合経済対策をとりまとめたが、支持率回復の効果は見られない。
支持率続落の原因については、相次ぐ閣僚の辞任と岸田首相の決断の遅れを指摘する声が多いが、根本は岸田政権の中枢や自民党の体制、構造に問題があるとの指摘も聞く。年末に向けて岸田政権の運営はどうなるか、探ってみる。
自民支持層に”岸田離れ現象”も
報道各社の世論調査で岸田内閣の支持率を見てみると◇読売新聞は支持率36%、不支持率50%(4~6日調査)。◇朝日新聞は支持率37%、不支持率51%(12,13日調査)。◇NHKは支持率33%、不支持率46%(11~13日調査)。
いずれの調査とも岸田内閣の支持率は、去年10月の政権発足以降、最低の水準。支持率を不支持率が上回る”逆転状態”が続いている点でも共通している。
こうした支持率下落の背景としては「死刑のはんこを押す時だけニュースになる地味な役職」などと発言した葉梨法相をめぐって、岸田首相が続投させるとしてきた方針を一転、更迭したことが影響したとみられる。
NHK世論調査では、内閣支持率と政党支持率との関係に新たな特徴が読み取れる。自民党の支持率は37.1%で、7月の参議院選挙以降ほぼ横ばいだ。
これに対し、内閣支持率は33%で、11月の調査で初めて内閣支持率が、自民党の支持率を下回った。これは自民支持層のうち、一定の割合で岸田内閣を支持しない”支持離れ現象”が起きていることを示している。
今の支持率33%は、今後4ポイント以上さらに下落すれば、政権の”危険水域”とされる30%の危険水域ラインを下回ることになる。
岸田政権は物価高騰や円安に対応するため、財政支出の総額で39兆円にのぼる総合経済対策をまとめた。この対策を「評価する」は61%で、「評価しない」の32%を上回ったが、内閣支持率の下落に歯止めをかけるほどの効果はなかったことになる。
政権中枢、自民の体制・構造問題も
それでは、なぜ、岸田政権の支持率がここまで、大幅に下落しているのか。第1に考えられるのが、山際経済再生担当相と葉梨法相の相次ぐ更迭の影響だ。
それに加えて、いずれの閣僚の更迭も、任命権者である岸田首相の判断、決断が遅すぎるという批判が野党だけでなく、与党内からも聞かれた。岸田首相の資質、能力、対応のまずさを指摘する声が相次いだ。
自民党の長老に聞いてみると「第2次安倍政権との比較で言えば、政権中枢の機能、動きに力強さが感じられない。安倍政権当時の今井秘書官、菅官房長官らに相当する存在が見当たらず、真逆の政権だ」と指摘する。
「党の方も高木国会対策委員長と茂木幹事長との連携、全体を取りまとめていく力が感じられない。連立与党の公明党との関係もしっくりいっていないのではないか」と危ぶむ。
総理官邸内の結束力と自民党の統率力、それに双方が支え合う体制に問題ありというのが長老の真意だろう。これが2つ目の問題。
さらに、安倍元首相が銃撃され亡くなって以降、”政権与党の全体を取り仕切る主柱”がなくなったような印象を受ける。それまでは、安倍元首相と岸田首相の2人が一定の距離を置きながら、存在感を発揮し合いながら全体を統率してきた。
ところが、その一方の柱である安倍元首相がなくなり、党内の様相が一変した。その安倍氏が率いてきた最大派閥は、後継の新会長も決められず迷走状態に陥っている。
このように安倍1強体制が崩れ、新たな党内秩序が再構築できず、不安定な構造に陥っているのが根本要因ではないかと思われる。
このため、岸田首相の個人的な資質、求心力の弱さという問題もあるが、根本的には、政権与党の体制と構造に大きな問題を抱えており、政権の立て直しは相当なエネルギーと時間がかかるとみている。
旧統一教会、防衛費まで政権綱渡り
さて、岸田政権の当面の政権運営と国会・政局の先行きをどうみるか。まず、臨時国会は会期の延長が避けられない情勢だ。
政府・与党は、補正予算案の早期成立を最優先で臨む方針だが、この国会は野党ペースで進んでおり、補正予算案の成立は当初の見通しからずれ込み、12月上旬までかかる公算だ。
また、野党側は、政治とカネの問題を抱える寺田総務相に照準を絞って追及を強める方針で、与党側は3人目の閣僚の辞任、辞任ドミノを警戒している。
さらに、大きな焦点は、旧統一教会の被害者救済の新法が成立までこぎ着けられるかどうかだ。世論調査では、今国会での成立を求める意見が7割と圧倒的多数を占めており、この成否は岸田内閣の支持率にも影響を及ぼす。
さらに臨時国会が閉会した後、年末最大の焦点は、防衛力の整備と防衛予算の扱い問題だ。ウクライナ情勢や北朝鮮の相次ぐミサイル発射、中国の習近平・長期1強体制の継続などで、防衛力整備に向けた世論の理解は進んでいるようにみえる。
但し、岸田政権の防衛論議の進め方には批判も多い。有識者会議を設置して議論を委ねる一方、国会答弁では「整備の中身、予算の規模、財源は三位一体で年末の予算編成時に決定する」と繰り返すばかりで、国民的な議論を深める取り組みはほとんど見られない。
これでは、国家防衛戦略3文書の改訂や、防衛力強化に向けて国民の理解が深まらないと危惧する声は根強い。
このほか、来年はアメリカの景気後退が予想される中で、日本経済の再生や円安などの経済運営にどのような方針で臨むのか、中長期の政策も問われる。
このように岸田政権は、臨時国会での旧統一教会の被害者救済新法から、新年度の税制と予算の編成、防衛力整備などの難題を処理できるのかどうか、綱渡りのような対応を迫られることになりそうだ。
そのうえで、世論の支持に思うような回復がみられない場合、岸田首相は政権や自民党の体制を現状のままで年明けの通常国会に臨むのか、それとも体制の見直しに踏み込むのか、決断を迫られることになるのではないか。(了)