揺らぐ岸田政権”世論の強烈な逆風”

長丁場の通常国会は会期末が23日に迫る中で、自民党派閥の裏金事件を受けた政治資金規正法の改正をめぐる与野党の攻防が、大詰めの段階を迎えている。

こうした中でNHKが行った世論調査で、岸田内閣の支持率は21%と20%割れ寸前まで下落したほか、自民党の政党支持率も25.5%まで急落した。いずれも2012年に自民党が政権復帰して以降、最低の水準にまで落ち込んだことになる。

これまで内閣支持率が急落した場合でも、自民党の支持率は高い水準を維持してきた。今回のように内閣支持率と自民党支持率がそろって下落するのは異例で、2009年の麻生政権以来の現象だ。世論調査のデータを基に「揺らぐ岸田政権」の背景を探ってみたい。

岸田内閣の支持率下落 政権末期状態

さっそく、今月10日に公表されたNHKの世論調査(6月7日から9日)のデータからみていきたい。

岸田内閣の支持率は、5月の調査に比べて3ポイント下がって21%となった一方、不支持率は60%で、5月調査より5ポイント増えた。

今月の内閣支持率21%は、岸田内閣が発足した2021年10月以降、最も低くなった。また、2012年に自民党が政権に復帰した以降でも最低の水準になる。

一方、不支持率60%は岸田内閣発足以降、最も高い水準だ。安倍政権や菅政権の不支持率は、政権末期でも50%前後に止まっていた。

歴代の自民党政権を調べてみると麻生政権の2009年当時、70%台に上昇したことがあり、それ以来だ。その後の民主党政権下の3つの内閣でも政権末期の不支持率は60%台に達していた。

このようにみてくると岸田内閣の支持率は、政権末期とも言える水準にある。支持と不支持率の割合はおよそ1対3なので、仮に国民4人がいると3人が不支持という危機的状況にあることがわかる。

自民支持率 下野直前の水準まで下落

次に、自民党の政党支持率をみてみたい。今月の自民支持率は25.5%で、5月調査から2.0ポイントも下落した。2021年10月の岸田内閣発足当時、自民支持率は41.2%だったので、実に15.7ポイントも下落したことになる。岸田内閣発足以降、最も低くなった。

自民党が政権に復帰した2012年以降、自民支持率は安倍政権で30%台半ばから40%台前半、菅政権でも40%から30%台前半を維持してきた。この10年余りの期間で、今回が最も低い水準にまで落ち込んだ。

自民支持率が30%ラインを割り込んだのは、自民党政権下では麻生政権以来だ。下野する衆院選直前の2009年8月は26.6%だったので、今回はその水準も下回ったことになる。また、今回は内閣支持率だけでなく、自民支持率もそろって下落しているのが特徴だ。

ここで、野党の支持率もみておきたい。◆立憲民主党は9.5%で、先月から2ポイント上昇した。2020年8月に旧民主党勢力が合流して以降、最も高くなった。◆日本維新の会は3.6%で、0.9ポイント下落。◆共産党は3.0%、◆国民民主党は1.1%で、いずれも先月と同じだった。野党は3つの傾向に分かれた。

一方、◆公明党は2.4%で、5月より0.9ポイント下がった。自民党がまとめた政治資金規正法改正案に衆院段階で賛成した自民、公明、維新はいずれも先月に比べて支持率を下げたことになる。

政権に逆風、世論の強い不信と不満

さて、岸田内閣の支持率と自民支持率はなぜ、相次いで下落しているのか、その理由、背景には何があるのか分析を進めたい。

今月の世論調査では、裏金事件を受けた政治資金規正法改正案の評価を尋ねている。法案は、自民党と公明党、日本維新の会などの賛成多数可決されて衆議院を通過し、参議院で審議が続いている。

◆「大いに評価する」3%、「ある程度評価する」30%、合わせて「評価する」が33%。これに対して◆「あまり評価しない」32%、「まったく評価しない」28%で、合わせて「評価しない」が59%(四捨五入の関係)に上り、大幅に上回った。

また、法案の内容に関連して、現在は使いみちの公開が義務づけられていない政策活動費について「10年後に領収書を公開するとしている」点について、評価を尋ねた。

◆「妥当だ」は13%に止まり、「妥当ではない」が75%に達した。

このほか、政治資金パーテイー券の購入者を公開する基準額を、現在の「20万円を超える」から「5万円を超える」に引き下げた点や、今回の改正案には企業・団体献金の禁止が盛り込まれていないことの是非についても尋ねた。いずれも改正案を「評価する」意見は少数に止まっている。

このように、自民党が公明、維新両党の主張を取り入れてまとめた政治資金規正法の改正案について、国民の評価は低い。その理由としては、政治資金の抜け穴を塞ぐ対策が十分にとられていないのではないかという強い疑念や、不信感が拭えないことが影響してているとみられる。

また、これまでの世論調査では、自民党が行ってきた党の裏金問題の調査や関係議員の処分、さらには再発防止策のとりまとめについても、内容が不十分で、対応も後手に回っているなどとして、厳しい評価が続いてきた。

こうした国民の不信や不満が、強烈な逆風となって岸田政権と自民党に吹きつけている状況を読み取ることができる。

カギは、裏金の実態解明と制度設計

それでは、これからの終盤国会や今後の政治の展開はどこがポイントになるのか、みておきたい。

政界の一部には、会期末に野党が内閣不信任決議案を提出するのをとらえて、岸田首相が乾坤一擲の大勝負に出て、衆院解散に踏み切るのではないかとの説が繰り返し流されてきた。

しかし、今の岸田政権には、解散・総選挙に打って出てるような状況にはないようにみえる。今月の世論調査でも、自民支持層の中で岸田内閣を支持する割合は52%で、半数程度に止まっている。

最も大きな集団である無党派層では、岸田内閣の支持率は10%にすぎない。自民党の長老も「勝算のない戦を党内が許すはずがない。6月解散はあり得ない」と強調する。

そうすると今後のカギは、この半年余り続いてきた裏金事件の実態解明と、政治資金規正法改正に区切りをつけることに絞られてくるのではないか。その役割をどの政党が中心になって果たしていけるのかに集約されるのでないかと思う。

自民党内では「国会を早く店じまいして、秋の総裁選挙で新しい顔を選んで、総選挙で出直しだ」といった声も聞かれる。だが、裏金問題を中途半端なまま「選挙の顔」だけ代えても、再び裏金対応を質され、国民の信頼を失う事態が予想される。

一方、野党側も自民党を批判するだけで、新たな仕組みをどこまで本気で迫っていくのか、野党の力量も問われる。形だけの追及でお茶を濁していると国会終了とともに支持者が離れていくことになりかねない。

つまるところ、政権、与野党が「新たな政治資金の制度設計」と「実態解明の道筋」をつけられるのかどうか。そうした取り組みで「政治の信頼回復の手掛かり」が多少とも残せるのかどうかにかかっているのではないかと思う。

但し、こうしたこともできないと、例えば岸田首相は、秋の総裁選に臨んでも再選への道は極めて厳しいことが世論調査からも読み取ることができる。最終盤の国会で、岸田首相や与野党がどのような対応をとるのか、次の総選挙への備えとしてもしっかり、見届けたい。(了)