統一地方選挙の前半戦が終わり、各党とも4月23日投開票の後半戦と衆参5つの補欠選挙に向けて、激しい選挙戦に突入している。
永田町では先月下旬以降、春の解散風が吹き始め、一部に岸田首相は通常国会の会期末に早期解散に打って出るのではないかとの観測も聞かれる。
その根拠の1つとして、岸田首相のウクライナ電撃訪問をきっかけに岸田内閣の支持率回復を上げる関係者が多い。
果たして、本当に岸田内閣の支持率は回復しているのかどうか、今週NHKと朝日新聞の世論調査がまとまったので、そのデータを基に分析してみたい。
上昇から横ばい、電撃訪問効果は限定的
さっそく、岸田内閣の支持率からみていこう。NHK世論調査(7日から9日実施)によると◆支持率は42%で先月の調査から1ポイント増、◆不支持率は35%で、5ポイント減少した。
不支持率が5ポイント減少したが、「わからない」との回答が5ポイント増えているので、支持率が好転したわけではない。
一方、朝日新聞の調査(8日、9日実施)によると◆支持率は38%で先月から2ポイント減、◆不支持率は45%で5ポイント減少した。
2つの調査とも3月と比べて、支持率は1~2ポイントわずかに増えたが、誤差の範囲で、横ばいという点で共通している。
次に、世論は岸田首相のウクライナ電撃訪問をどのように評価しているか。NHKの調査では「評価する」が58%で、「評価しない」の34%を上回った。
朝日の調査は「ロシアによるウクライナ侵攻について、岸田首相の対応を評価するか」と設問の表現は異なるが、「評価する」が47%で、「評価しない」の39%より多かった。
つまり、2つの調査とも「評価する」が上回ったが、岸田内閣の支持率は横ばいのままだ。
岸田首相の電撃訪問は先月21日。2週間後の世論調査では、内閣支持率の押し上げ効果は限定的といえる。外交面で内閣支持率を上げるのは、昔から中々、難しい。
過去最低の投票率と政治離れの重さ
それでは、国民は衆議院の解散・総選挙をどのようにみているのか。朝日の調査では、「できるだけ早く衆議院を解散して総選挙を実施すべきだと思いますか」と尋ねている。
◆「できるだけ早く実施すべきだ」22%に対し、◆「急ぐ必要はない」67%だった。3人に2人が「急ぐ必要はない」と答えている。
この調査が行われた同じ9日には、9つの道府県知事選挙と41道府県議会の議員選挙などが行われた。平均投票率は、知事選挙が46.78%、道府県議選が41.85%で、いずれも50%にも達せず、戦後最低を更新という惨憺たる状況だ。
つまり、最も身近な選挙ですら、有権者の関心を引きつけることができず、衆参の国政選挙もこの10年、ワースト記録が相次いでいる。
与野党双方とも水面下で、早期解散をめぐる神経戦を繰り広げているが、国民の半数は政治への関心や期待感を失い、投票所にも足を運ばなくなっている状況を深刻に重く受け止め、何らかの対応策を早急に打ち出す必要がある。
5補選と少子化対策の財源がカギ
そのうえで、衆議院の解散・総選挙の条件や実現可能性を考えると、どういうことになるか。岸田首相が仮に解散に踏み切ろうとする場合、まず、今月23日に投票が行われる衆参5つの補欠選挙を乗り切る必要がある。
自民党閣僚経験者に聞くと「山口の2つは勝てる感触を得ているが、野党乱立で勝てる公算が大きい千葉5区は、地域に浸透できていない。和歌山1区も勢いに乗る維新の勢いを前に苦戦が続いている。参院大分選挙区は、野党共闘の実績のある土地柄で、最も厳しい選挙になっている」と歯切れが悪い。
与野党の関係者の話を総合すると自民候補の5戦全勝もありうるが、3勝2敗、場合によっては、野党が3勝2敗と勝ち越すこともありうる大混戦の状況が続いている。これが、最初のハードルだ。
2つ目のハードルは、岸田政権が最重要課題と位置づける「異次元の少子化対策の財源問題」だ。児童手当の所得制限の撤廃などを実現するためには、数兆円単位の財源が必要だが、そのメドが立っていない。
NHK世論調査で、財源確保の方法を聞いている。◆「(少子化対策以外の)ほかの予算を削る」が最も多く56%、◆「社会保険料負担の見直し」17%、◆「増税」8%、◆「国債の発行」8%となっている。
政府・与党内では、増税は理解が得られないとして、医療費などの社会保険料の上乗せ案が検討されている。これに対して、世論の大半は、予算の組み替えで財源を生み出すべきだとの考え方が主流で、社会保険料の負担増は少数派だ。
仮に政府・与党が社会保険料の負担上乗せ案を打ち出せば、世論の強い反発を受け、内閣支持率を直撃することが予想される。
岸田政権は、防衛増税の実施時期も先送りにしており、6月の骨太方針で、防衛と少子化対策の財源確保について、明確な方針を打ち出し、国民を説得できるかどうかが最大の課題といえる。
3つ目のハードルとして、与党の選挙関係者は「自民支持層のうち、岸田内閣を支持する人の割合が上昇することが必須の条件だ」と指摘する。
自民支持層の岸田内閣の支持率は、4月は60%台後半で、3月とほぼ同じ水準で、こちらも横ばいのまま止まっている。岸田政権の発足当初は、8割から7割台を維持してきた。ところが、去年の秋以降、自民支持層の支持もつるべ落とし、3割台の危機的状況が続いてきた。
ようやく今年に入り、6割に戻し最悪期は脱しつつあるものの、まだ6割台に止まっている。与党の選挙関係者は、せめて7割から8割台に回復しないと安定した選挙戦を展開するのは難しいと判断しているわけだ。
以上、みてきたように衆議院の解散・総選挙の時期やこれからの政局は、岸田政権が当面、3つのハードルを乗り越えられるかどうかが焦点になる。
そして、まずは、今月23日に迫った衆参5つの補欠選挙に向けて、与野党がどんな論戦を戦わせるのか。そして世論が「岸田政権の中間評価」として、どのような判断を示すのか、それによって今年後半の政治が動き出すことになる。(了)