岸田政権と9月政局のゆくえ

岸田政権は来月4日に政権発足から1年を迎えるが、ここにきて内閣支持率が急落し、政権発足以来最低の水準が続いている。

凶弾に倒れた安倍元首相の葬儀を国葬とする政府方針の是非をはじめ、旧統一教会と新たに任命した閣僚など政務三役や自民党議員の関係が次々に明るみなり、世論の厳しい批判を浴びているためだ。

岸田首相は近く自ら国会の閉会中審査に出席し、国葬を決断した理由などについて説明する方針だが、野党側は国葬にかかる費用の全体を明らかにするよう求めるなど対決姿勢を強めている。

こうした岸田首相の説明で、事態を沈静化できないと秋の臨時国会だけでなく、今後の政権運営にも大きな影響が予想される。岸田政権のゆくえを左右する9月の政治の動きを探ってみる。

 9月の政治・外交日程 閉会中審査も

まず、9月の主要な政治・外交日程を見ておきたい。国会の動きでは、◆焦点の安倍元首相の国葬をめぐる閉会中審査を8日以降に行う方向で、与野党の調整が進められている。

◆旧統一教会の問題では、自民党が党所属国会議員に求めていた旧統一教会との関係について、10日までの週内に公表される見通しだ。

◆安倍元首相の国葬は9月27日に行われる予定で、この前後に海外から来日した各国首脳と岸田首相との弔問外交が行われる。

◆一方、秋の国連総会が開幕し9月下旬に岸田首相が演説する。◆29日は、日中国交正常化から50年の節目を迎える。

◆このほか、11日は沖縄県知事選の投開票日で、現職と新人3つ巴の選挙戦に決着がつく。◆25日には、公明党大会で新代表が決まる。◆今月末には、秋の臨時国会が召集される見通しだ。

このように秋の政治が本格的に動き始めるが、今年は、安倍元首相の銃撃事件がさまざまな分野に影響を及ぼしている。

特に安倍元首相の国葬と、銃撃事件をきっかけに急浮上した旧統一教会の問題が岸田政権を直撃しており、この問題が秋の政局を大きく左右する見通しだ。

 旧統一教会問題、自民の点検結果は

国葬と旧統一教会の問題で、岸田首相は厳しい状況が続いている。先月末の記者会見で岸田首相は、閣僚などを含む自民党議員と旧統一教会との関係が明らかになっていることを陳謝し、「旧統一教会との関係を断つよう徹底する」と表明した。

また、国葬については、国会の閉会中審査に自ら出席し、説明する考えを明らかにした。こうした方針は当然と思えるが、決定まで1か月半もかかった。

この問題、野党側は「自民党の対応は、議員個人の点検に委ねており、党の調査としては不十分だ」として、厳しく追及する構えだ。

国葬についても法的な根拠が明確でないことに加え、全体の費用がどの程度になるのかも明らかになっていないとして、批判を強めている。

今後の展開はどのようになるか。自民党の点検結果は、当初6日に公表する予定だったが、遅れている。10日までの週内には公表される見通しだ。

野党側は、最も深く関係していたとされる安倍元首相をはじめ、自民党の萩生田政調会長、山際経済再生担当相をターゲットに追及を強めることにしている。

このように一連の問題をめぐっては、自民党の点検結果で、どこまで事実関係が明らかにされるかが焦点だ。与野党の主張や論点などには隔たりが大きいことから、事態が沈静化する公算は極めて小さいとみられる。

 政権浮揚か、低空飛行政権かの岐路

それでは、岸田政権や政局にどんな影響が出てくるか。岸田内閣の支持率は、NHK世論調査で、参院選の大勝を受けて7月は59%と政権発足以来最高となった。ところが、8月上旬の調査では46%と13ポイントも下落、発足以来最低の水準になった。

続いて、8月10日の内閣改造直後に行われた読売新聞の調査では、前回調査から6ポイント下がって51%で過去最低。8月末の朝日新聞の調査でも前回から10ポイント下落の47%、不支持率は14ポイント増の39%で、発足以来最高となった。

報道各社の世論調査で共通しているのは、8月に入って内閣支持率の急落が続いていること。その理由としては、旧統一教会の問題について、政府や自民党の説明が不十分だと受け止められていることが挙げられる。

安倍元首相の国葬方針についても「賛成」より「反対」が多い点で共通している。岸田首相が政権の浮揚をねらって断行した内閣改造・自民党役員人事は、不発に終わったといえる。

自民党長老に岸田政権の評価を聞いてみると「去年秋の衆院選に続いて、夏の参院選でも大勝し、政権は安定するはずなのに足元が揺らいでいる。旧統一教会の問題もあるが、コロナ感染爆発が起きているのにメッセージすら出せていない。やるべきことができていない」と指摘する。岸田首相の発信力や指導力に問題があるとの厳しい評価だ。

旧統一教会の問題が沈静化できない場合は、秋の臨時国会の本番では、野党側がこの問題を集中的に取り上げ「旧統一教会国会」になるのではないかという見方も聞かれる。

臨時国会では、物価高騰やエネルギー対策、経済・暮らしの立て直しと補正予算案の編成、衆議院の1票の格差是正の「10増10減案」などの懸案が控えている。こうした懸案処理に影響が出てくることも予想される。

このようにみてくると当面の焦点は、岸田首相が旧統一教会や国葬の問題で、国民の疑念を晴らし、信頼回復へこぎつけられるかどうかが、カギになる。

そのためには、国会論戦には逃げの姿勢ではなく、積極的な姿勢で臨み、焦点の旧統一教会の問題には、安倍元首相の関係を含め事実関係を明らかにしていくこと。国葬の問題も全額を国費でまかなう以上、費用全体のメドは明らかにすることは必要ではないか。

そのうえで、コロナ対策や防衛力の整備、経済再生などに向けて、岸田首相自らがやり遂げたい政治課題を明確に打ち出すことが必要ではないかと考える。

旧統一教会など問題は、政治や政権のあり方などに大きな影響を及ぼす。難題を数多く抱える中で、岸田政権は安定した政権運営を取り戻せるのか、それとも国民の失望を買い、内閣支持率が落ち込み、低空飛行を続けることになるのか、岐路に差し掛かっている。岸田首相の判断を注視したい。(了)