“未完の政権”主要政策の核心先送り

岸田政権は発足から10月4日で、丸2年が経過した。秋の臨時国会を控え、政界では年内解散説もささやかれているが、国民はこの政権をどのように見たらいいのだろうか。

長年、政治取材を続けているが、岸田政治とは何か?”主要政策が完結しないまま、次々に政策課題が提起される政治”という点に大きな特徴があると感じる。端的に言えば”未完の政策が積み残されたままの政権”ということになる。

岸田首相は自民党内に強いライバルが不在で、政権は安定した状況を維持している。反面、報道各社の世論調査でみると国民の評価は低迷した状態にある。

岸田政権のこれまでの政策や政権運営をどのように評価するか、3年目に入った岸田政治は何が問われているのか、探ってみたい。

(★タイトル部分は、原案ではわかりにくいとのご意見をいただきましたので、表現を手直ししました。本文の内容は変わっていません。10月5日追記)

 岸田内閣 政策と実行力に低い評価

まずは、政権発足から2年が経過した岸田政権をどのように見るか。人によって評価はさまざまだが、ここではメデイア、具体的にはNHKの世論調査のデータを基に考えてみたい。

岸田政権が発足した2021年10月の調査では、◇岸田内閣の支持率は49%、不支持率24%でスタートした。それから2年、最新の9月調査によると◇支持率は36%に下がり、不支持率は43%に増えた。支持率と不支持率が逆転し、国民の支持は低迷している。

この間の推移を整理すると、政権発足直後に衆院解散・総選挙に踏み切り、勝利した。続く翌22年7月の参院選挙にも勝利を収め、8月の内閣支持率は59%まで上昇した。

ところが、参院選の最中に安倍元首相が銃撃されて亡くなり、その後、安倍元首相や自民党と旧統一協会との関係が明らかになった。安倍元首相の葬儀を国葬にした問題や、内閣改造後に新閣僚の政治とカネの問題が表面化し、4閣僚が辞任に追い込まれた。今年1月の支持率は政権発足以降、最低の33%まで落ち込んだ。

その後、内閣支持率は徐々に上昇を続け、G7広島サミットが開催された5月には、支持率が46%まで回復したが、長男の首相秘書官が公邸内で忘年会を開いた問題やマイナンバーカードの混乱で再び支持率は急落した。

このように政権前半の1年近くは、コロナ禍の対応に追われながらも国民の評価は高かったが、去年夏の参院選を境に、後半は支持率の低迷状態が続いている。

その後半は、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、岸田首相が日本の防衛力の抜本的強化とその財源確保のために増税策をとりまとめた。続いて、年明けには異次元の少子化対策を打ち出し、政権の立て直しをめざした時期に重なる。

こうした主要政策をめぐる国民の評価は、いずれも賛成より、反対の方が上回って厳しい評価を受けている。

その原因だが、世論調査では「政府の説明が不十分だ」という評価が圧倒的に多い。岸田内閣を支持しない理由としては、◇「政策に期待が持てない」が半数近くを占め、「実行力がないから」が4分の1、両方合わせて7割に達している。

このように岸田政権は、主要政策・看板政策について、国民の多数の評価を得るまでに至っていない。これが支持率低迷の大きな要因であり、政権の弱点だ。

 岸田政治とは?政策の核心部分先送り

それでは、岸田政権の主要政策の決定や政治手法には、どんな特徴や問題点があるのだろうか。

岸田首相に近い政権幹部に聞くと「岸田首相は自らの成果を語らないタイプなので、わかりにくいかもしれない。だが、難題は水面下で首相自らが調整を進めたうえで、幹事長や政調会長などに割り振っている」と首相の指導力を強調する。

例えば、防衛力の抜本強化ではNATO並みのGDP比2%目標や、5年間で防衛費の総額を43兆円とするなどの大枠を示したことで、党内の騒ぎは収まったことなどを挙げる。

別の側近は「安倍元首相や小泉元首相は対立軸をつくり、上手に政権運営を進めた。一方、岸田首相の政治は、政策を複数、同時並行に進め、仕事や権限を移譲する別の政治手法なので、わかりにくいのかもしれない」と釈明する。

これに対し、別の自民党の閣僚経験者は「岸田政権の政策決定は、切羽詰まった段階になって首相が独りで登場、党の主要幹部に掛け合い、何とかまとめ上げているのが実態だ。もっと目標やビジョンを早い段階で打ち出し、党内議論を活発にして政策を決めるべきだ」と注文をつける。

私自身の見方は、後者に近い。例えば、防衛力強化の計画と財源確保に増税する方針は決まったが、増税の実施時期は年末の税制改正まで先送りになった。党内には増税に異論があり、さらに1年先送りになる可能性もある。

今年の年明けには唐突に、異次元の少子化対策が打ち上げられ、その後、児童手当を所得制限なしに拡充するなどの方針が決まった。但し、財源の具体策については、これも年末の予算編成まで先送りになった。

このように政策転換が次々に打ち出されるのだが、肝心の財源の扱いは先送りとなり、政策が完結しないまま、次の政策が積み重なっていく形になっている。

別の表現をすれば「政策の核心部分」があいまいで、全体像がはっきりしない。政権が変われば、政策が白紙に戻ったり、場合によっては国民に負担増となって跳ね返ってきたりすることも起こりうる。

したがって、特に政権の看板政策については、全体像を明確にし、政策を完結させたうえで、国民に説明し理解を求めるべきだ。この点が、岸田政権には欠けている。

 解散より”中期の展望・構想を語れ”

さて、秋の臨時国会が10月20日に召集されることが、ようやく固まった。岸田首相は、10月末までに新たな経済対策をまとめたうえで、裏付けとなる補正予算案を国会に提出する考えを明らかにした。

問題は、その後の展開で、与野党の間では「岸田首相は年内の解散を考えているのではないか」との憶測が消えない。来年秋の自民党総裁選での再選を確実にするため、野党の選挙態勢が整わないうちに選挙を仕掛けるのではないかとの見方だ。

安倍政権時代にも2014年や2017年の「不意打ち解散」「けたぐり解散」といわれた想定外の解散・総選挙はあった。今回もないとは言えないが、可能性としてはかなり低いのではないか。

その理由は、冒頭に触れたように岸田内閣の支持率が低すぎ、国民の信頼を得ていないので、選挙のリスクが大きい。また、仮に解散に踏み切った場合、2014年のように年末選挙となり、新年度の予算編成は越年、予算の成立は4月以降にずれ込む可能性が高い。

国民の関心は、1年以上も続く物価高騰や、実質賃金の目減りが16か月も続く中で、家計をいかに守っていくかにある。そうした時期に解散に踏みきり、国民の多数の支持を得るのは難しい。手痛いしっぺ返しや鉄槌を下されるのではないか。

岸田首相は、解散より他にやるべきことは多い。まずは、補正予算案の編成のねらい・目的をはっきりさせて欲しい。コロナも落ち着き、選挙目当ての大盤振る舞いをするようなときではない。

それよりも1ドル150円寸前の円安が続く中で、いつまで金融緩和政策を続けるのか。実質賃金をプラスに転換するために今後の経済・財政運営の大方針を明確に示すことが求められている。

さらに岸田首相には「中期の政策の展望や目標」を語って欲しい。政権発足時に掲げた「新しい資本主義」はどうなったのか。首相として、何をやりたいのか、目標を明確にしてもらいたい。

まずは、今月20日に召集される臨時国会の冒頭で、岸田首相が3年目に入った政権の目標と道筋を明確に打ち出せるのかどうかを注視していきたい。(了)