岸田内閣の支持率下落に歯止めがかからない。報道機関の世論調査でみると9月の内閣支持率は下落が続き、内閣発足以来、最低の水準に陥っている。
岸田政権は夏の参院選挙で勝利したのを受けて、7月の内閣支持率は政権発足以降、最高を記録したが、わずか2か月で真っ逆さまに急落した。
理由は、はっきりしている。安倍元首相の国葬と、旧統一教会問題への政権の対応に、国民の厳しい評価と批判が集中しているためだ。
あと半月で、政権発足以来1年の節目を迎えるが、今の状態が続くと岸田政権は低空飛行へと転じる可能性がある。世論調査のデータを基に岸田政権の現状と今後を探ってみる。
参院選後、政治資産3分の1失う
最初に、岸田内閣の支持率を見ておきたい。NHKの9月の世論調査によると岸田内閣の支持率は40%で、先月から6ポイント下がり、内閣発足以来最低となった。
不支持率も40%で、先月から12ポイントも増加し、内閣発足以来、最も高い水準になった。岸田内閣の不支持率は、2割台と低いのが特徴だったが、先月から一気に倍増した。
内閣支持率は毎月の数字の変動だけでなく、全体の流れと意味を読み取ることが重要だ。岸田政権は7月の参院選挙で勝利したのを受けて、直後の内閣支持率は59%と発足以来、最高を記録した。
ところが、8月は46%、9月は40%と下落を続け、最低の水準まで落ち込み、ついに支持と不支持が並んだ。
7月の参院選挙を起点にみると岸田内閣の支持率は59%から40%へ、2か月で19ポイントも急降下し、減少幅は32%にもなる。
別の表現をすれば、選挙の勝利などで得た”政治資産”の3分の1を2か月で失ったことになる。
ほぼ同時期に実施した朝日新聞の世論調査では、支持率は発足以来最低の41%、不支持は47%に増え、初めて不支持が支持を上回った。岸田政権をとりまく政治状況は、9月に一変した。
国葬、旧統一教会問題が政権直撃
岸田政権の支持率急落の理由・原因は何か。世論調査の中身をみると安倍元首相の国葬と、旧統一教会の問題が大きく影響したことが読み取れる。
NHK世論調査のデータでは◆国葬を「評価する」は32%に対し、「評価しない」は57%で多数を占めた。7月時点では「評価する」が49%、「評価しない」が38%だったのが、逆転した。
◆政府の国葬の説明については「十分だ」が15%に対し、「不十分だ」が72%にも達する。
◆旧統一教会の問題については、自民党は党所属の国会議員との関係を点検し公表したが、この対応について「十分だ」が22%に対し、「不十分だ」が65%に上った。
内閣改造、首相説明も効果なし
岸田政権の対応はどこに問題があったのか、今後の政権のゆくえを考えるうえでポイントになる。
途中経過は省略して結論を率直に言わせてもらうと、初動から状況の認識や判断に問題がある。同時に、問題があれば直ちに軌道修正すべきだが、機動的な対応ができていない。
国葬問題についていえば、岸田首相は、安倍元首相が凶弾に倒れた6日後の7月14日には、いち早く「国葬」とする方針を表明した。表明する前に、与野党の党首会談を呼び掛けたり、国会の議院運営委員会で状況報告をしたりすることは考えなかったのか。
あるいは、表明後も8月3日に召集された臨時国会の会期を短期間延長して、質疑を行うことはできなかったのか。その後、国葬をめぐる閉会中審査を行うことで与野党は合意したが、実際に行われたのは9月8日、首相の表明から2か月後だ。
旧統一教会をめぐる問題でも政府は8月15日、閣僚ら政務三役との関係について「個人の政治活動に関するもので、調査を行う必要はない」とする答弁書を閣議決定した。
ところが、閣僚ら三役をはじめ、党所属議員の旧統一教会との接点が次々と明るみになり、党所属国会議員の点検結果を取りまとめ、公表することに追い込まれた。
このように対応が後手に回り、対応策を小出しにする手法に問題があるのは事実だが、根本は、問題が発生した時にどの程度広がりを見せるのか、状況の判断ができていない。
また、機動的に対応策を打ち出していく姿勢に欠けている。その結果、国民への説明は、常に後回しになる。
9月の世論調査では、もう1つ大きな問題が浮き彫りになった。岸田政権は内閣支持率の低下を打開するため、お盆休み前の8月10日に内閣改造・自民党役員人事を前倒しして断行した。
続いて、9月に入って、岸田首相が自ら国葬に関する閉会中審査に出席するとともに、自民党が党所属の国会議員の自己点検結果の公表に踏み切った。
ところが、内閣改造後は一時的でも支持率が上昇するが、今回は下落するという異例の事態が起きた。旧統一教会をめぐる自民党の点検結果の公表後でもに「対応が不十分」とする受け止めが65%にも上った。
いずれのカードとも、事態の鎮静化はできず、政権の浮揚も不発に終わったことがはっきりした。
世論の支持離れか、事態打開へ動くか
それでは、岸田政権は今後、どのように対応するのだろうか。このまま、手をこまねいていると、世論の岸田政権離れはさらに進むことが予想される。
もう1つは、遅きに失した感はあるが、国葬問題、旧統一教会問題について、世論の理解を得る取り組みを行うかどうかだ。
そのためには、国民の疑念を晴らす取り組みが必要だ。具体的には、旧統一教会とのつながりが深いとされる安倍元首相はどんな関係にあったのか。
また、細田衆院議長は最大派閥の会長時代に接点があったとされるのになぜ、点検対象にならないのか。議長職でも所属会派からの離脱であれば、離脱前の行動を確認するのに問題はないと考えられる。
さらに、岸田政権の中枢の存在である木原官房副長官は、旧統一教会との関係で報告漏れがあり、追加の報告をした。
このほか、旧統一教会との接点があるのに氏名が公表されていない国会議員の存在も指摘されている。要は、岸田首相が派閥の論理に縛られず、事実関係をきちんと調べ、説明責任を果たす覚悟はあるのか、国民は見極めようとしている。
国葬の問題についても岸田首相は丁寧な説明を強調するが、同じ内容の繰り返しに止まり、与野党の意見の対立を打開する内容を示せないのが大きな問題点だ。
今後、野党側から要求のあった国葬の判断基準を検討したり、首相経験者の葬儀の扱いをどのようにするかなど接点を探る動きが出てくるのか、注目される。
以上、見てきたように岸田政権を取り巻く情勢は厳しさを増しているが、自民党内から”岸田おろし”を求める動きは出ていない。
但し、現状のまま推移すれば、岸田政権は世論の支持離れが進み、低空飛行政権へと変わる公算が大きいのではないか。臨時国会の召集前に岸田政権は、新たな行動を起こすことはあるのかどうか、正念場を迎えている。