順序が逆では! 岸田政権の防衛力整備

新年度予算の編成を控えて、最大の焦点である防衛力の強化と財源確保に向けた動きが、本格化してきた。岸田首相は8日、防衛予算の財源を確保するため、増税の検討に入るよう自民、公明両党に要請した。

岸田首相は、このところ防衛予算の規模や財源をめぐる指示が目立つが、防衛力整備の構想や中身の言及がほとんどみられない。

今回の防衛力整備は、戦後の安全保障政策の大転換となる。そうであれば、防衛力整備の考え方などを明確にしたうえで、予算の規模や財源の検討に入るのが基本ではないか。岸田政権の対応は、順序が逆に見える。防衛力整備の進め方や問題点を考えてみたい。

 歳出改革などと1兆円規模の増税案

まず、岸田首相の最近の対応からみておきたい。岸田首相は先月28日に鈴木財務相と浜田防衛相と会い、2027年度に防衛費と安全保障関連経費を合わせてGDPの2%に達する予算措置を講じるよう指示した。岸田首相が、防衛費の水準について言及したのは、これが初めてだった。

続いて今月5日には、来年度から向こう5年間の防衛費について、総額43兆円を確保する方向で調整を進めるよう踏み込んだ。

さらに8日の政府与党政策懇談会で、岸田首相は「防衛力を安定的に維持するためには、毎年度4兆円の追加財源が必要になる。歳出改革や税外収入などで賄うが、残り1兆円強は、国民の税制でお願いしたい」として、与党に増税を検討するよう要請した。

政府・与党は、増税の開始時期については、来年度の増税を見送り、その後、段階的に税率を引き上げ、2027年度の時点で、年間1兆円の増税をめざす方針だ。その際、個人の所得税は対象から外し、法人税を中心に検討する方針とみられる。

 岸田政権は予算先行、防衛構想提示を

このように岸田政権の方針・対応は、防衛予算の規模や財源確保を先行させているのが特徴だが、これをどのようにみたらいいのだろうか。

岸田首相は今の国会で、与野党双方から防衛力の規模や財源について幾度となく質問されたのに対し、「防衛力の内容、予算の規模、財源を一体的かつ強力に進めていく」と繰り返し、具体的な内容に踏み込むのを避けてきた。

いわゆる3点セット、三位一体で議論し決定するという考え方だが、今の首相の対応は、これまでの国会答弁から外れている。

一方、国民の側からすると、今の中期防衛力整備計画の5年間で27.5兆円の規模を、新たな計画で43兆円へ1.6倍も大幅増額し、どのような分野を強化するのか最も知りたい点だ。

ところが、こうした防衛力の中身や考え方が、首相の口からは一向に語られない。順序が逆で、国民が知りたい、肝心な点がさっぱりわからない。

防衛力整備の基本構想、内容を早急に明確にしたうえで、財源を幅広く検討、最終的な予算の内容を固めていくことが必要だ。

 財源の先送りは止め、責任ある対応を

もう1つの論点は、防衛力整備の財源をどうするかという問題がある。岸田政権の方針に対し、自民党内には、来年の統一地方選挙への影響などを考慮して、増税の議論を急ぐべきではないといった慎重論も出されている。

結論から先に言えば、防衛費を増やす場合、安易に国債・借金に頼って負担の問題を先送りするような対応は取るべきではないと考える。既に借金財政は、1400兆円を上回る。

もちろん直ちに来年から増税とはいかない場合はあると思うが、その場合でも財源については、税目を含めた増税や実施時期を法案に明記すべきだと考える。

また、今回、政府・与党は、5年後の時点で増税規模1兆円という試算を示している。これが事実だとすれば、個人的な予想に比べると負担の規模が小さい印象を受けるが、こうした試算の根拠を詳しく説明してもらいたい。

こうした背景には、コロナ禍からの経済の回復や円安などで法人税が好調で、国の税収が3年連続で過去最高水準が見込まれていること、コロナ対策の剰余金の活用などが想定されているのではないかと思われるが、見通しは正確か。

一方、防衛装備品などは、契約時から実際の納入時期の間に価格が大幅上昇したりするケースが多い。防衛装備の歳入、歳出両面での改善も含めて、国民に十分な説明を願いたい。

これから年末に向けて、国家安全保障戦略など安保関連3文書も改訂される。日本の安全保障の構想・戦略と合わせて、防衛力整備の中身の議論を深めてもらいたい。

防衛費の増額そのものについても国民の賛否が分かれるが、防衛力整備は可能な限り幅広い国民の理解と合意が重要だ。私たち国民も激しい国際情勢の変化の中で、防衛力整備をどう進めるか、政府案の決定をじっくりみていきたい。(了)