“つまずき”目立つ岸田政権  

政権発足から2か月半が経過した岸田政権は、コロナ感染対策の全体像を打ち出したり、過去最大規模の補正予算を編成したり順調な運営を続けてきたが、ここにきて、人事の混乱や主要政策の方針変換といった”つまずき”が目立ち始めた。

旧友の石原伸晃元自民党幹事長を内閣官房参与に起用したが、雇用調整助成金を受給していた問題が明らかになり、わずか1週間で辞任に追い込まれた。

また、政権の目玉政策である18歳以下に10万円相当の給付についても自治体側の強い反発を受け、全額現金一括給付の容認へ方針転換することになった。

与党内には、今の短期の国会は何とか乗り切れるが、年明け長丁場の通常国会の運営を危ぶむ声も聞かれる。岸田首相の政権運営、どこに問題があるのか探ってみたい。

 ”旧友優遇”と首相の任命責任

岸田首相が就任して以降、初めて開かれた13日の衆議院予算委員会で、岸田首相は、内閣官房参与に起用したばかりの石原伸晃元幹事長が辞職した問題を追及され、「混乱は否めなく、申し訳ない」と陳謝に追い込まれた。

岸田首相と石原元幹事長は20年余の盟友関係にあることは政界では有名で、岸田首相は今月3日、先の衆院選挙で落選した石原元幹事長を内閣官房参与に起用したが、さっそく「旧友優遇、救済人事」といった批判が聞かれた。

その石原元幹事長は、自らが代表を務める党支部が60万円余りの雇用調整助成金を受け取っていたことが批判を浴び、就任後わずか1週間で辞職に追い込まれた。

また、大岡敏孝環境副大臣も雇用調整助成金30万円を受け取っていたことが明らかになったが、岸田首相は、進退は本人の判断に委ねる考えを示した。

雇用調整助成金は、コロナ感染で売り上げが大幅に落ちた民間事業者などを守るのが本来の目的だ。政党の支部は、企業献金や政党助成金を主な収入源にしており、政党支部が助成金を受領するのは違法ではないとされるが、国民の理解を得られるとは思えない。

また、任命権者としての首相の対応をみると元幹事長は辞職に対して、現職の副大臣はそのまま続投と処置は異なる。現職の副大臣であれば、事実関係の説明を徹底させるとか、政治的道義的な責任をとらせるべきではないかと個人的には考える。

一方、旧友の石原元幹事長の人事をめぐっては、岸田元首相も”安倍元首相や菅元首相のお友達人事、身内優遇”と変わらないではないかといった世論の側の受け止め方もあったのではないか。今後、内閣支持率などに影響があるのかどうか、注意してみていきたい。

 スピード決着、制度設計に甘さ

次に18歳以下の子どもを対象に1人10万円相当を給付する政策については、大きな動きがみられた。

政府は、これまで10万円相当のうち、年内に現金5万円を支給、残り5万円相当はクーポンで支給することを原則にしてきた。

ところが、クーポンの発行には1000億円近い事務経費がかかることに加え、地方自治体からは、ワクチン接種などで多忙な時期にさらに労力などの負担がかかると強い反発を招いた。

こうした自治体や野党の批判を受けて、岸田首相は13日、年内に全額現金で一括給付することも容認する考えを明らかにした。2回に分けて現金を給付する場合も含め、自治体に条件も設けないとしており、これまでの方針変換に踏み切った。

今回の方針転換をどうみるか。11月上旬に自民、公明両党の幹事長が3日間の協議で大枠が決着、10日には岸田首相と山口代表のトップ会談で、最終合意が図られた。こうしたスピード決着の結果、クーポン支給などの制度設計の詰めが甘かったのではないか。

また、自治体や国民の要望・ニーズを把握しないまま、政府が政治決着した仕組みを押し通したことも影響したのではないか。

自治体や野党の中には、岸田首相の決断で、年内の現金全額給付が可能になったことを評価する意見が出ている。

一方、土壇場になって、ようやく方針転換が図られるのは、政権の意思決定が遅すぎるし、制度設計能力の改善も進んでいないと見ることもできる。

岸田首相は「聞く力」と「スピード」を重視しているが、「迅速な決断力」と「実行力」も問われていると言えそうだ。

 内閣支持率低下、通常国会に不安

このほか、岸田政権としても判断が問われるのは、毎月100万円が支給される「文書交通滞在費」の問題がある。10月末に初当選した議員がわずか1日で、1か月分の100万円の手当を受け、見直しを提起している問題だ。

野党第1党の立憲民主党は、日割り計算に改めることと、返金できる仕組み、それに使いみちの公開の3点セットの改善を提案している。

自民党は、日割り変更には応じるものの、使いみちの公開には難色を示しており、今国会での合意・実現のメドはついていない。

岸田政権は内閣官房参与人事や、10万円相当の給付に代表されるように、このところ政権運営のブレやつまずきが目立ち始めている。

NHKが今月10日から12日にかけて行った世論調査では、岸田内閣の支持率は50%で、前の月から3ポイント減少した。一方、不支持は27%で、1ポイント増えている。

「オミクロン株」の水際対策として、政府が外国人の新規の入国を原則停止とした対応を「評価する」との意見が81%と高かった。これに対し、目玉政策の10万円給付は「評価する」が33%に対し、「評価しない」が64%と多い。

つまり、内閣支持率は50%と高い水準を維持しているが、先月から低下傾向が表れている点を注意しておく必要がある。

岸田政権にとって最初の予算員会の審議をみていると、コロナ対策の山際経済再生担当相と、後藤厚労相、堀内ワクチン担当相の答弁や連携は、前政権に比べて不慣れな面が目につく。

自民党関係者に聞くと「今の臨時国会は短期間なので、乗り切れるが、年明け長丁場の通常国会は大丈夫か不安だ」と漏らす。岸田政権の”つまずき”が収まっていくのか、不安定の始まりになるのか、今の臨時国会が試金石になる。