自民党の岸田文雄総裁が4日召集された臨時国会で、第100代首相の指名を受けた後、岸田内閣を発足させた。
これに先立って、岸田氏は衆議院の解散・総選挙について、会期末の14日に解散し、19日公示、31日投票で選挙を行う意向を固め、複数の与党幹部に伝えた。
衆院選挙の投票日は、11月7日か14日のいずれかとの見方が強かっただけに与野党に驚きが広がった。岸田首相は4日夜、就任後初めての記者会見で、衆院選挙を19日公示、31日投開票の日程で行う方針を正式に表明した。
大きく揺れている秋の政局、私たち有権者は、新たに発足した岸田新政権をどのようにみるか。また、衆院選では何を基準に選択することになるのか、国民の側の視点で考えてみたい。
党人事は派閥色、閣僚人事に腐心
まず、岸田新政権の人事から見ていきたい。個別の人事については、メディアの現役記者に委ね、ここでは、人事全体の評価を見ていきたい。
自民党役員人事と閣僚人事とでは、評価がかなり異なる。党役員人事は、No2の幹事長に麻生派幹部の甘利氏、政調会長には総裁選で安倍前首相の支援を受けた高市氏、副総裁に麻生前財務相が就任するなど派閥や重鎮に配慮が際立つ人事になった。
これに対して、閣僚人事については、派閥均衡の色彩はあるものの、派閥が長年入閣できなかった議員を押し込む「滞貨一掃」人事はみられない。茂木外相、岸防衛相を再任する一方、新設の経済安全保障担当相に当選3回の小林鷹之氏を起用するなど政策能力が高いとされる若手議員や女性議員を起用しているのが、特徴だ。
但し、人事は全体としてみると派閥や重鎮の存在感が強く、岸田首相の強い指導力を印象付ける布陣にはなっていない。
官房長官、他派閥からの起用の成否
次に、私が最も注目しているのは、内閣の要の官房長官ポストに、自らの派閥からではなく、最大派閥・細田派幹部の松野博一氏を起用した点だ。これが、党内基盤を安定させて吉と出るか。それとも首相と官房長官との一体感が乏しく凶と出るか、この成否が大きなポイントになるのではないかとみている。
こうした人事をめぐっては「安倍前首相が幹事長に高市氏、官房長官に萩生田氏を強力に押し込もうとしたのではないか」などの情報も飛び交っている。自民党関係者に聞いてみると「ガセネタの類としか思えない。宏池会に適任者がいなかったので、松野氏を選んだと聞いている」と否定する。事実関係を詰めて、政治の裏側を確認していく作業が今後も必要だ。
松野氏は、文科相経験者で細田派の事務総長。政調副会長も務め岸田氏とも近いとされる。但し、派閥の領袖出身の首相で、内閣官房長官を他の派閥から起用したケースは少ない。
最も有名なのは、中曽根元首相が政権就任にあたって、当時の最大派閥・田中派の後藤田官房長官を起用したケースだ。当時のメディアは、「田中曽根内閣」などと報じた。
第4派閥のリーダーに止まる中曽根氏は、後藤田氏をいわば人質として取り込むことによって、政権基盤を安定させる戦略が明確だった。
事前に田中角栄元首相と直談判して了解を取り付けたほか、後藤田本人とも以前から、さしの会合で意見交換し、行政改革など政権目標についても両者の考えは一致していたといわれる。
今回の岸田首相の人事も似ているようにも見えるが、当時現場で取材していた者からすると「似て非なるもの」、時の首相の覚悟と戦略が異なるように見える。
政界関係者に聞くと「官邸の仕事は、総理と官房長官の力で決まる」とされる。特に政権が苦境に立たされた時に一体的な対応ができるかどうか、岸田首相が試されることになるのではないかと考える。
衆院選 最大の争点はコロナ対策
次の衆院選挙での最大の争点は「コロナ対策」ということになるだろう。政権の側も安倍首相に続いて、菅首相も感染急拡大と医療危機を防ぐことができず、退陣に追い込まれた。
ところが、2つの政権とも「コロナ対策の総括」を行っていない。両首相とも感染拡大が収まった後、検証を行う考えを示してきたが、検証や総括はなされないまま、首相の座を去ってしまった。
今回の自民党総裁選挙でも4人の候補者はそれぞれ独自の政策を打ち出したが、安倍政権と菅政権のコロナ対策の問題点には踏み込んでおらず、具体的な取り組み方を示すまでには至っていない。
政府・与党側は、これまでのコロナ対策の総括と今後の具体策を明らかにすることが必要だ。これに対して、野党側はどのような対案を打ち出すのか、週明けの国会の代表質問でも激しい議論が交わされることになる。
選挙戦でも感染の抑え込みや、医療提供体制の整備、さらに国民生活や事業者支援のあり方などについて、どの政党が具体的で、実効性のある対策を示しているか、しっかり見極めていきたい。
今度の衆院選挙は、任期満了を超えて4年ぶり選挙になる。それだけに、これまでの安倍・菅政権の実績評価も焦点になる。森友・加計学園の問題をはじめ、財務省の決裁文書の改ざんや、桜を見る会の経費の問題などの真相の解明の仕方や、政治・行政の信頼の回復に向けた取り組み方も問われることになる。
このほか、激化する米中関係の中で、日本の外交・安全保障をどのように進めていくかも大きな論点になる。
このように内外に数多くの課題を抱えている中で、国会の勢力分野はどのような形が望ましいと考えるか。
自民・公明両党を中心とする今の政権の継続か、与野党の政権交代か、さらには与野党の勢力均衡が好ましいと考えるのか。コロナ激変時代の政治の方向を決める重い1票を投じることになる。