岸田首相 退陣表明、自民総裁選びは混迷か

岸田首相は14日昼前、首相官邸で記者会見し、自民党総裁選に立候補せず、退陣する考えを正式に表明した。

この中で、岸田首相は来月の総裁選について「自民党が変わる姿、新生自民党を示すことが必要だ。変わることを示す最もわかりやすい最初の一歩は、私が身をひくことだ」とのべ、総裁選に立候補せず、新総裁選出後に退陣する考えを明らかにした。

自民党内では、岸田首相が「先送りできない課題に1つずつ、結果を出す」と繰り返し表明してきたことから、総裁選で再選をめざす可能性が大きいとの見方が強かった。それだけに、お盆休み中の突然の立候補断念表明は大きな驚きをもって受け止められている。

なぜ、岸田首相は総裁選への立候補を断念することになったのか。また、自民党総裁選の今後の展開はどうなっていくのか、探ってみたい。

 首相、総裁選乗り切り困難と判断か

岸田首相の総裁選への対応をめぐっては「首相が立候補を断念することはあり得ない」との情報が首相周辺から盛んに流される一方で、自民党内では「最終的には、断念に追い込まれる可能性もあるのではないか」との見方もあった。

自民党長老に首相の退陣表明の感想を聞いてみると「自民党議員の多くは、首相には交代してもらいたいというのが本音ではなかったか。総裁選での党員投票を考えると、岸田首相が多数を得るのは難しく、総裁選乗り切りは困難と判断したのではないか」と見方を示している。

こうした自民党内の見方に加えて、岸田内閣の支持率は今月も20%台半ばの低い水準で、これで10か月連続となる。一方、裏金問題をきっかけに自民党の政党支持率も下落し、30%ライン割れが6か月連続となる。いずれも2012年に自民党が政権復帰以降、初めての異例の状態が続いている。

また、岸田政権政治資金規正法の改正についても「評価しない」が多数を占め、その後も政権の支持率が回復する兆しはみられなかった。

さらに、岸田首相を支持してきた旧派閥内でも「岸田首相が立候補した場合、推薦人にはなりたくない」との声が聞かれた。

こうしたことから、岸田首相としても自民党総裁選に立候補しても、勝てないと判断し、最終的に立候補断念を決断したものとみられる。

取材する側からみても、政治とカネをめぐって、世論の政権不信は一向に収まらない。自民党内も「首相が最終的に責任を取るべきだ」として退任を求める意見が根強かった。さらに、世論の記録的な低支持率が改善されない以上、いずれ総裁選からの撤退は避けられないだろうとみていた。したがって、ここまでは想定内の展開と受け止めている。

自民総裁選、後継選びは混戦・混迷か

それでは、自民党の総裁選びは、どのような展開になるだろうか。総裁選の日程は、20日に開かれる総裁選選挙管理委員会の日程で、来月の告示と投開票の日程が決まる運びになっている。

当面の焦点は、まず、誰が立候補するかだ。これまで意欲をにじませる候補は多かったが、立候補を表明した候補は誰もいない。石破元幹事長は14日、「立候補に必要な推薦人20人が整えば、責任を果たしたい」とのべ、立候補する考えを示した。

自民党関係者に聞くと、岸田首相が立候補しない考えを表明したので、茂木幹事長は立候補する可能性が大きいとの見方を示す。小泉元環境相、河野デジタル担当相、高市早苗・経済安保担当相、野田聖子・元子ども政策担当相、中堅・若手の小林鷹之・元経済安保相など多くの候補が名乗りを上げようとするのではないか。

但し、立候補には推薦人20人が必要で、この条件は意外と厳しい。告示直前まで、推薦人確保の動きが続き、最終的に候補者が絞り込まれることになる。

そのうえで、誰が総裁選を勝ち抜くのか?この見通しは、残念ながら今の時点で難しい。自民党が派閥解散を決めたことから、議員票の読みが難しいからだ。

さらに、党内の一部では、麻生副総裁や、菅元首相らが影響力を行使して、総裁選に影響力を及ぼすのではないかとの見方も聞く。一方、自民党ベテラン議員は「派閥の領袖や元首相がキングメーカー然として振る舞ったり、派閥復活とみられるような動きが出たりすると世論の猛烈な反発を招く」と懸念を示している。

自民党の総裁選びは、従来の総裁選とどこまで変わるのか、実際の動きを見てみないと情勢の判断は難しい。従来より多くの立候補者が予想される一方、初めての派閥なき総裁選になるので、情勢がつかみにくく、混戦・混迷の総裁選びになるのではないか。

自民党の長老に聞いてみると「総裁選は各候補が、総理・総裁になったら何をやるかを打ち出すことが一番大事な点だ。今は、そうした動きが全くないのが一番の問題だ。議員も、誰が総裁になれば自分の選挙は有利になるかといった発想が強すぎる」と党の現状に強い危機感を抱いている。

私たち国民も総裁選の勝敗だけでなく、各候補の政権構想や主要政策、国民の信頼回復のための具体的な取り組み方などについて、しっかりみていく必要がある。(了)