年内解散説は本物か? 高いハードル

通常国会が閉会した後、政府・自民党内では、新型コロナウイルスの感染拡大で自粛していた夜の会合が再開され、内閣改造や自民党役員人事、衆議院の解散時期などをめぐる発言や動きが活発になっている。

気になるのは、このところ「年内解散がありうるのではないか」との発言や容認論が相次いでいること。「年内解散説は本物なのかどうか」、内閣支持率など世論調査のデータなども使いながら分析してみたい。また、これからの政治の動き、何がポイントになるのか探って見たい。

 早期解散説、麻生氏が震源地か

衆議院の解散・総選挙をめぐっては、6月20日、自民党の森山国対委員長が「今年はひょっとしたら衆院選挙があるかもしれない。しっかり備えていかなければならない」と発言し、波紋が広がった。

また、世耕参議院自民党幹事長も「解散は、総理大臣が適切なタイミングで判断することだ。ただ、衆議院議員の任期満了は1年数か月後に迫っており、いつあってもおかしくない」とのべている。

こうした早期解散説について、自民党の関係者に聞くと「麻生副総理が安倍首相に進言しているのではないか」と指摘する。麻生氏は自らの経験を踏まえて、総裁任期をある程度残す中で、解散を断行した方が政権の求心力を高める。

また、”ポスト安倍が混沌状態”になるのは好ましくないので、解散を早期に断行し、安倍首相が総裁を続けた方がいいとの考え方を進言しているのではないかとの見方をしている。

 安倍首相 最終判断決め手は?

安倍首相に近い議員によると、麻生氏の早期解散論に対して、安倍首相は「言質を与えていない」という。安倍首相は18日の記者会見では、「頭の片隅にもないが、さまざまな課題に真正面から取り組んでいく中で、国民に信を問うべき時がくれば、躊躇なく解散を断行する考えに変わりはない」とのべている。

前回、2017年安倍首相が解散・総選挙に踏み切った時は、「党の独自調査で現状維持が可能との報告を確認して決断した」と関係者は解説していた。最終的には、安倍首相が選挙情勢をどのように読むか。”理念の人”というよりも”リアリスト”で、選挙で勝てるかどうかが、解散に踏み切るか否かの決め手になるのではないかとみている。

 世論の風向きは、”最悪水準”

そこで、選挙のゆくえを大きく左右する「世論の風向き」はどうか。22日にまとまったNHK世論調査でみてみたい。(データはNHK NEWS WEB参照)

まず、安倍内閣の支持率6月は「支持する」が36%。「支持しない」が49%。不支持が支持を上回る「逆転状態」が2か月続いている。

安倍内閣の支持率が最低だったのは2017年7月の35%、その時の不支持は48%で最多。今回は、支持率で1ポイント上回るが、不支持も1ポイント高く過去最多。つまり、2017年とほぼ同じ水準、第2次安倍内閣発足以来、”最悪の水準”にあるとみていい。

2017年は、森友学園、加計学園問題が表面化した年で、国会閉会直後の東京都議選で自民党は大惨敗したことをご記憶の方も多いと思う。今回は、去年の秋以降、新入閣の2閣僚の辞任をはじめ、桜を見る会問題、さらに新型コロナウイルス感染拡大の直撃を受けたことが大きい。緊急事態宣言の発令や解除のタイミング、給付金や事業資金給付の遅れや政策変更などで、世論の厳しい批判を浴びたことが大きい。

また、内容面でも安倍政権にとって厳しい材料が多い。◆自民支持層のうち、安倍内閣を支持すると答えた割合は69%で、7割を割り込む。◆与党支持層でも66%、両方とも第2次政権以降の最低に落ち込んでいる。◆女性の支持は3割に対し、不支持が5割近い。◆最も多い無党派層では、支持が19%に対し不支持が62%に上っている。

つまり、従来の与党支持層に加えて、女性、18歳から30代までの若者層、無党派層でいずれも支持離れが進行中。短期間で、支持率回復は極めて難しい情勢だ。選挙では支持・不支持逆転状態が解消されないと議席を大幅に減らす可能性が大きい。

 2017年との違い

ところで、2017年は7月、8月に支持率が下落したが、9月に急上昇。10月に衆院解散・総選挙に踏み切り大勝した。今回も同じことが起きうるのではないかとの質問があるかもしれない。

2017年は、それまでの間、内閣支持率は50%台後半が長く続いたこと。また、北朝鮮のミサイル発射問題で、トランプ大統領と電話会談を頻繁に行うなど外交力を強くアピールできたことが支持率回復につながった。

これに対して、今回は去年8月以来、内閣支持率は一貫して下落傾向が続いており、復元力が弱くなっている。このため、野党側の足並みに大きな乱れなどがない限り、安倍首相は早期解散は選択しないのではないかと個人的にみている。

 年内解散、高いハードル

別の視点で、年内解散の可能性を考える場合、自民党にとっては、連立与党の公明党との選挙協力が重要な条件になる。安倍政権が国政選挙6連勝を飾ることができたのも、自民支持層に加え、公明支持層が上乗せできたことが、野党と競り勝つ上で大きい。

その公明党は、今回、早期解散には慎重な立ち場をとっている。公明党の山口代表は24日、安倍首相と会談し「今はコロナウイルスへの対応が大切だ」と伝え、早期解散に慎重な立ち場を伝えている。この点も2017年と異なる点だ。

さらに、自民党の年内解散のねらいは、新型コロナ第2波の襲来前に選挙をした方が有利との計算なので、事実上10月、11月頃の秋口解散だ。日本経済は、4月-6月のGDP速報が8月中旬に公表されるが、記録的な落ち込みが予想される。その水準から、短期間に急激なV字回復は予想しにくい。このため、早期解散に有利な追い風が吹くとは考えにくく、年内解散のハードルは極めて高いとみている。

 これからの政局のポイント

それでは、これからの政局は何がポイントになるか。◆第1は、新型コロナの収束。◆第2が社会・経済活動の回復。◆第3が国家的事業の東京オリンピック・パラリンピックが開催できるかどうか。◆第4が9月にも予想される内閣改造・自民党役員人事で、ポスト安倍などの絞り込み行われるか。

一方、衆議院議員の任期満了は来年10月21日。それまでの1年4か月の間に、衆院解散・総選挙をどこにセットするか。◆今年秋の臨時国会での解散、◆来年1月通常国会冒頭解散、◆来年秋の任期満了かそれに近い時期の選挙に絞られる。

安倍首相は自民党総裁4選を目指さないと繰り返しているが、側近ほど本音だとみている。そうであれば、総裁選で新しいリーダーを選んだ後、衆院解散・総選挙の道へと進む公算が大きいのではないか。任期満了選挙は与党は避けたいが、物理的な時間が限られている。

但し、オリンピックが開催されない場合は、安倍首相は任期満了を待たずに退陣という別の選択肢も出てくる可能性はあるのではないか。

最後に国民の側から今後の政治の動きをみると、一番の関心は「コロナ時代の激変時代の政治」。具体的には、次のリーダーや政党はどんな社会をめざし、何を最重点に取り組もうとしているのか。自民党の総裁選びや、次の衆院選では、激変時代を乗り切るリーダーの資質を備えているか、政権構想の中身に説得力があるかどうか、これまで以上に問われることになるのではないか。