参院選 憲法改正問題の見方・読み方

参議院選挙が公示された後の最初の週末、テレビ局では各党幹部が出演して討論が行われた。週明け27日から首都圏では政見放送も始まったが、新興勢力の党派やユーチューバーの候補者も目に付き、ネット時代の選挙を感じる。

与野党の論戦では、ウクライナ情勢などによる物価高騰・経済政策と、日本の防衛力整備のあり方を含む外交・安全保障の2つのテーマに議論が集中している。

一方、参議院選挙の結果によっては、選挙後、憲法改正問題の議論が加速する可能性がある。そこで、今回はこの憲法改正問題をどのように考えたらいいのか、取り上げる。

 改憲勢力「3分の2」82議席が焦点

岸田政権が初めて臨む今回の参議院選挙は、自民、公明両党が改選議席の過半数を獲得できるかどうかが焦点になるが、今の選挙情勢から予想すると達成の可能性は高いとみている。

もう1つの焦点が、憲法改正に前向きな勢力が、参議院の「3分の2」を占めることになるのかどうかだ。この「3分の2」は、憲法改正を国会で発議、提案するために必要な勢力だ。

具体的には、自民党と公明党、日本維新の会、国民民主党の4党が衆議院に続いて、参議院でも3分の2の議席を確保すれば、数の上では憲法改正を発議することが可能になる。

参議院の定数の「3分の2」は166人。憲法改正に前向きな4党の非改選議員と近く自民党に復党する無所属議員1人を加えると84人。その差「82」議席を改憲勢力が獲得すると「3分の2」を確保することになる。

 自民、憲法改正原案早期に提出の意向

6月26日に放送されたNHK日曜討論で、自民党の茂木幹事長は「時代の転換点にあって、新しい時代にふさわしい憲法のあり方を示すのは国の役割だ。この選挙後、できるだけ早いタイミングで、憲法改正原案の国会での可決、発議をめざしたい」と憲法改正を早期に実現したいとの考えを表明した。

これに対し、野党の立憲民主、共産、れいわ、社民の各党の幹事長や書記局長からは強く反対する意見が出される一方、維新や、国民民主からは議論に応じていきたいとの意見が出され、対応が分かれた。

憲法改正をめぐって、安倍政権時代も参議院で3分の2を確保したことはあったが、当時は安倍首相に対する野党の警戒感が強く、憲法改正への動きは進まなかった。

これに対して、岸田政権に代わった先の通常国会では、衆参の憲法審査会が頻繁に開かれ、憲法論議が活発化した。

去年の衆院選で野党第1党の立憲民主党が敗北、憲法改正に積極的な維新や国民民主党が積極的に議論に応じたことが背景にある。

一方、岸田首相は宏池会出身で、ハト派のイメージが強いが、憲法改正には強い意欲を示している。政権運営にあたって最大派閥の安倍派の協力が必要で、選挙後も憲法改正に積極的な姿勢で臨むことが予想される。

このため、今回の選挙結果次第では、憲法改正をめぐる議論が選挙後に加速することがありうる。これを国民の側からみると、今回の参院選がターニング・ポイントになることもありうるので、投票に当たっては、こうした点も念頭に置いておく必要がある。

 憲法のどこを変えるか、各党に温度差

ここまでみてきたように憲法改正をめぐる議論は加速することはありうるが、直ちに改正へと大きく動くかと言えば、そうとも言えない。

というのは、今の憲法をどのように評価するか。また、具体的にどこを変えるのかといった中身の問題になると各党の考え方の違い、温度差が大きいからだ。

例えば、自民党は憲法改正に向けて、自衛隊の明記、緊急事態対応など4項目を提示して、丁寧に説明すると選挙公約で打ち出している。

ところが、同じ与党でも公明党は今の憲法を高く評価しており、自衛隊の明記については「引き続き検討を進める」という表現にとどめている。

この自衛隊の明記をめぐっては、野党側のうち、立憲民主や共産、れいわの各党は反対している一方、維新は賛成、国民民主は議論するとして、対応に違いがある。

このため、国会でこうした違いを調整して改正案をまとめることができるかどうか。そのうえで、国民投票の実施にこぎつけ、多数の賛成を得られるのかどうか、なかなかの難問だ。

 国民が重視する課題、優先順位は

さらに国民は、憲法改正問題をどのように受け止めているか、この点も重要だ。NHKが今月24日から26日に行った世論調査で「選挙で、最も重視する政治課題」を聞いている。

結果は、◇経済政策が最も多く43%。次いで◇社会保障が16%、◇外交安全保障が15%と並び、その後、◇新型コロナ対策、◇憲法改正、◇エネルギー・環境がいずれも5%だった。

つまり、国民が重視する政治課題の中で、憲法改正問題は低い順位に止まっている。政党の側は熱心だが、国民の側には、届いていない。この点を政党、政治家は重く受け止める必要がある。

私事になるが、現役時代の2000年に憲法調査会が国会に設置された当時から憲法問題を取材してきたが、憲法は国民のものであり、絶えず、見直していく必要がある。

そして、憲法改正を行う場合、最終的には国民投票で、国民の多数の賛成を得なければならない。政治の側は、国民が必要としている暮らしや社会が抱える大きな課題を解決できているか、課題の処理能力や優先順位が大きな問題になる。

今回の参院選は、ウクライナ情勢や外交・安全保障のあり方をはじめ、物価高騰や経済政策、人口急減社会への対応、さらには憲法改正問題など大きなテーマを数多く抱えている。

特に政権与党の自民党は、選挙後、早いタイミングで憲法改正原案を提出する考えであるならば、選挙期間中に改正案の内容を掘り下げて説明し、国民に判断材料を提供するよう注文しておきたい。(了)