先の衆院選挙で少数与党となった石破政権にとって、初めて本格的な論戦の舞台となった臨時国会は24日閉会した。焦点の「政治とカネの問題」のうち、政策活動費の廃止などを盛り込んだ政治改革関連3法はようやく成立にこぎつけた。
最大の焦点だった企業団体献金の廃止をめぐっては、自民党と野党側の主張が対立し結論を来年3月末に持ち越したほか、裏金問題の実態解明は進まなかった。
もう一つの焦点である「103万円の壁」の問題は、与党が123万円に引き上げる方針を示したのに対し、国民民主党は納得せず、来年に持ち越される見通しだ。
臨時国会閉会を受けて石破首相は24日夕方、記者会見し「少数与党の中、他党にも丁寧に意見を聞き、可能な限り幅広い合意形成を図り『熟議の国会』にふさわしいものになった」とのべ、政治改革関連法や補正予算成立の意義を強調した。
だが、少数与党に転じた石破政権は、懸案の多くが来年に先送りになったのをはじめ、主要政策の決定でも主導権を発揮できず、政権運営は五里霧中の状態にあるようにみえる。残りわずかとなった2024年、ここまでの石破政権をどのように見たらいいのか考えてみたい。
政治改革一部実現も、多くの課題が越年
臨時国会は会期末の24日、参議院政治改革特別委員会で、政策活動費の廃止などを盛り込んだ3つの関連法案について採決を行って可決したのに続いて、参議院本会議でも与野党の賛成多数で可決、成立した。
これによって、石破首相がめざした政治資金規正法の再改正については、ようやく実現にこぎ着けた。
一方、最大の焦点になっていた企業団体献金の廃止をめぐっては、与野党の意見が大きく隔たり歩み寄りができなかったため、来年3月末までに結論を出すことになった。
また、裏金問題の実態解明に向けて、不記載議員が衆参両院の政治倫理審査会で弁明を行った。だが、安倍派で安倍元首相が資金還流を取り止める方針を決めた後、安倍氏死去後に還流が復活した経緯などについては、新しい事実は明らかにならなかった。
これに関連して、安倍派の元会計責任者が裁判で「資金還流の復活は幹部議員の会合で再開が決まった」と証言し、安倍派幹部の弁明と食い違うことから、野党側が元会計責任者を参考人招致するよう求め、年明け以降、協議が行われることになった。
このように政治資金関連法の再改正は実現にこぎ着けたものの、新たに設置が決まった第三者機関の制度設計をはじめ、企業団体献金の扱いなど多くの課題は年明け以降に持ち越された。
「103万円の壁」異例の年明け協議へ
もう1つの焦点である「103万円の壁」をめぐって、自民、公明の与党側は、所得税の控除額を123万円に引き上げる方針を決めたのに対し、178万円への引き上げを求める国民民主党と意見が対立したままとなっている。
自民、公明両党と国民民主党の政務調査会長と税制調査会長は24日に会談する予定だったが、出席者の都合がつかず日程を再調整することになった。控除額の取り扱いをめぐる本格的な協議は、異例の年明け以降に持ち越される見通しだ。
3党の関係者によると「税制改正法案が国会に提出されるのは、来年2月上旬以降になることから、それまでに3党協議で結論を出せばよい」との見方がある。
自民党にとっては、来年度予算案と税制改正法案の衆議院通過や成立のためには、野党の一部の賛成を得ることは必要不可欠の条件だ。このため「土壇場で控除額をさらに引き上げることはありうるのではないか」との見方を聞く。
一方、自民党は、日本維新の会との間で教育無償化をめぐる協議を行うことになった。このため、自民党内には「予算案などを成立させるうえで、国民民主の賛成が得られなければ、維新の賛成を得ることを検討してはどうか」といった両天秤にかける見方も聞かれ、年明けの与野党協議は複雑な駆け引きが予想される。
石破首相と自民、問われる覚悟と戦略
そこで、ここまでの石破政権の政権運営をどのようにみるか。少数与党政権に変わった石破政権は発足当初から、政策面で共通点の多い国民民主党を対象に政策協議を進め、補正予算案や主要政策を前進させる方針を固め、交渉を重ねた。
その結果、首相指名選挙で国民民主党は立憲民主党と距離を置き、石破首相は首相指名を受けることができた。難関の補正予算案についても国民民主党に加えて、日本維新の賛成を得て成立にこぎ着けた。
一方で、臨時国会の大きな焦点となった「政治とカネの問題」、政治資金規正法の改正をめぐっては、野党の攻勢にさらされた。自民党は、政策活動費に非公開枠を設けようとしたが、野党各党の強い反発と公明党の賛同も得られずに孤立し、最後は野党7党共同案の丸飲みに追い込まれた。
こうした対応は、国会の攻防だけに止まらず、国民世論にも大きなマイマスイメージを与えた。12月の報道各社の世論調査を見るといずれも石破内閣の支持率は下落し、支持率を不支持率が上回った調査もあった。
自民党の支持率も同時に下落したのが特徴で、内閣、自民党そろって支持率が下がる深刻な状態だ。その主な要因は「政治とカネの問題」に踏み込んだ対応をしようとしない姿勢に世論の多くが不満や失望を感じたためだとみられる。もちろん、物価高や経済政策に対する不満などもあるとみられる。
端的に言えば、石破首相は「政治とカネの問題」については守るべき点は守る一方で、改める点を大胆に打ち出していく対応が必要だった。そうした「覚悟と戦略」がなかった点が政権運営面での最大の弱点ではなかったか。
少数与党政権の石破首相は「謙虚に、真摯に野党の声に耳を傾ける」と強調する。そうした姿勢は重要だが、政権の最高責任者として自らの考えを明確に示し、そのうえで各党との議論を通じて国民を説得し、場合によっては修正する柔軟な姿勢が必要だ。五里霧中の政権運営から脱する方法の1つだと思う。
年明けの通常国会では、持ち越された「103万円の壁」の引き上げや、企業団体献金をはじめとする「政治とカネの問題」への対応が待ったなしの状態だ。
また、来年度予算案の審議が最大の焦点になるほか、国際社会ではアメリカのトランプ次期大統領が再登場し、外交・安全保障面の対応も大きな課題になる。
通常国会の直後には参議院選挙も予定されており、私たち国民にとっても日本の進路と政治のあり方をどのように考えていくのか判断が問われる年になる。(了)