岸田首相の後任を選ぶ自民党の総裁選挙は、9月12日告示、27日投開票とする日程が20日、党の総裁選挙管理委員会で決まった。
一方、立候補に意欲を示す候補者は異例の11人にも上っている。党員投票が導入されて以降、立候補者が最も多かったのは5人だった。候補者数は推薦人20人が確保できるかどうかで絞られるが、混戦の総裁選になるのは確実な情勢だ。
総裁選の日程については、告示日から投票日前日までの期間は15日間となり、今の規定となった1995年以降、最も長くなる。また、告示日まで3週間もあり、これから投開票日まで1か月半近くに及ぶ長期戦になる。
こうした背景には、自民党としては「テレビなどメデイアの露出を増すことができる。また、低迷が続く内閣と自民党の支持率を回復させ、新総裁誕生の勢いに乗って衆院選の勝利にもつなげられる」との思惑があるものとみられる。
だが、世の中、それほど甘くはないのではないか。「総裁選を長期にすることで、議論がだらけないか。今の顔ぶれでは、国民を引きつける議論や討論を成り立たせるのは難しいではないか」とも思える。
総裁選をめぐっては、中堅・若手議員が推す小林鷹之・前経済安保担当相が19日、いち早く立候補を表明した。今週、石破幹事長も名乗りを上げる見通しだが、候補者の顔ぶれがそろうまでには、なお、時間がかかりそうだ。
これから、メデイアが総裁選の論点・争点にどこまで切り込めるか。また、ほぼ同時期に行われる立憲民主党の代表選で、どこまで自民党との対立軸を鮮明に打ち出せるかも大きなポイントになる。
自民総裁選は、私たち国民にとって、どのような意味があり、何が問われているのか考えてみたい。
退陣の最大要因は、裏金問題への対応
今回の総裁選挙は、岸田首相の総裁任期満了に伴うものだが、首相は再選を目指しながらも立候補断念に追い込まれた。
その結果、総裁選の構図が一変し多数の候補が乱立することになったので、岸田政権の3年間、何が最も大きな問題だったのかを手短に確認しておきたい。
岸田政権は2021年10月にスタートしたが、当時は急拡大するコロナ対応に追われた。翌22年にロシアのウクライナ侵攻、安倍元首相が銃撃事件、この事件を契機に旧統一教会と自民党との接点が発覚するなど事件、戦争、パンデミックなどに翻弄された政権でもあった。
こうした中で、退陣へ追い込まれた最大の要因は、自民党派閥の裏金事件への対応で、実態の解明や再発防止策への対応が後手に回った。
これによって国民の政治不信、政権への不信が深まった。内閣支持率は長期にわたって低迷状態が続き、自民党の政党支持率も下落するようになった。今度の総裁選挙や次の衆院選挙で勝てる展望が開けず、退陣に追い込まれたのが実態だった。
したがって、今回の総裁選では「政治不信、政権不信」を本当に払拭できるかのどうかが、最も問われる点だ。
もう1つ、岸田政権が問われる点を挙げると、重要政策の決定にあたって「国民に説明し、説得する姿勢」が乏しかったことだ。
具体的には、国家安全保障戦略など防衛3文書の決定に当たって、敵基地攻撃能力の保有と専守防衛との関係などについて、国会での議論があまりにも少なかった。
防衛予算についても5年間で43兆円、1.6倍に拡大することを決定したが、首相主導で、国民への説明は極めて不十分だった。その財源確保のための防衛増税の実施時期については、未だに先送りしたままだ。
岸田政権は、こうした防衛力の抜本強化などの方針転換にあたって、政府と党の連携が十分とれておらず、首相が独走する形が目立った。政権中枢と自民党、与党との方針決定のあり方も、今後の大きな課題として残された。
政治改革の具体化、実現の道筋が焦点
それでは、今度の総裁選では、具体的に何が問われるか。1つは、政治不信の払拭に向けて何をするかということになる。岸田政権は、改正政治資金規正法を成立させたが、報道各社の調査では、国民の多数は評価していない。
また、改正法の付則には、政治資金を監督する第三者機関の設置や、政策活動費の10年後の領収書公開のあり方をなど検討していくことが盛り込まれているが、自民党内ではその後、検討を行っている動きはない。
今度の総裁選挙でも各候補は、政治の信頼回復に向けて努力する考え方を示すものとみられる。その際、検討項目の結論をいつまでに出して、実現していくのか、具体的な方針を示さないと国民の理解は得られないだろう。政治改革の具体化と、いつまでに実現するのか、その道筋を明らかにできるかどうかが焦点になりそうだ。
2つ目は、物価高騰が続く中で、国民生活の向上と日本経済再生の道筋をどのようにつけるかも問われている。岸田政権は経済政策「新しい資本主義」を掲げ、経済成長と「分配」重視を打ち出し、「アベノミクス」の修正を図ろうとしたが、道半ばで終わってしまった。
円相場や株式市場が大きく変動する中で、大規模な金融緩和策を変更し、どのような金融・経済のかじ取りを行っていくのかも大きな論点になる見通しだ。
3つ目は、自民党はどのような政党をめざすのか、統治の形や運営方法などを具体的に示していく責任がある。裏金問題に関連して派閥の解散を決定したが、今回の総裁選で守られるのかどうか、試される。
また、今後は、派閥解散後の人事、政策の調整、若手議員の育成などをどのように行っていくのか、新生自民党の姿・内容も議論になりそうだ。
ここまで、自民党総裁選で問われる点をみてきたが、最終的に候補者の顔ぶれはどのようになるのか。政策論争は深まるのかどうか、その結果は、新しい総理・総裁の評価に直結する。
私たち国民も、ほぼ同時並行で進められる立憲民主党の代表選と比較しながら、次の時代を担うリーダーや、望ましい政権担当勢力、重点的に取り組むべき政策課題などを考える機会にしたい。(了)