政治改革3法案成立へ”意味と影響は”

今の臨時国会の焦点になっている政治資金規正法の再改正をめぐって、政党が幹部議員に支給している政策活動費を全面廃止にするなど3つの政治改革関連法案が衆議院で可決され、参議院へ送られた。今の国会で成立する見通しだ。

一方、最大の焦点になっていた企業団体献金については、与野党の主張が隔たったままで合意点を見いだすことはできず、来年3月末をメドに結論を出すことになった。

いずれも先の衆院選で大きな争点になった問題だが、こうした結果をどう見るか。「不十分な点は多いが、ようやく具体的な改善策が動き出し、一歩前進」との評価を個人的にはしている。なぜ、こうした評価になるのか、今後は何が問われているのか、さまざまな角度で考えてみたい。

政治改革3法案可決、企業献金は越年へ

まず、衆議院の特別委員会と本会議で17日に可決され、衆議院へ送られた法案を確認しておきたい。

1つは、政党から幹部議員などに渡される「政策活動費を全面廃止にする法案」だ。立憲民主党、維新、国民民主、共産など7党が共同で提出した。

2つ目は、「政治資金の支出を監視する第三者機関を国会に設置する法案」だ。公明党と国民民主党が共同で提出した。

3つ目は、「外国人によるパーテイー券の購入禁止や、収支報告書をデータベース化して検索しやすくする制度などを規定した法案」で、自民党が提出した。

このうち政策活動費の廃止をめぐっては、自民党は一部の支出先を非公開にできる「公開方法工夫支出」を設けることを主張したが、野党側の強い反発と与党・公明党からも賛同を得られず、撤回に追い込まれた。

結局、自民党は、野党7党が共同で提出した案を丸飲みする形で賛成に回った。こうした政治改革関連3法案は参議院へ送られ、今の国会で成立する見通しだ。

一方、立憲民主党などが提出した「企業団体献金の禁止を盛り込んだ法案」については、与野党の主張に大きな隔たりがあることから先送りし、来年3月末に結論を得ることを与野党で申し合わせた。リクルート事件以来「30年来の宿題」となっている企業団体献金は今回も年を越すことになった。

 政治改革前進、選挙の民意が後押し

政治とカネの問題をめぐっては、旧文通費=現在の「調査研究広報滞在費」の使い途の公開などを盛り込んだ法案も17日衆議院で可決され、参議院で成立する見通しになっている。3年以上も前からの懸案で、議員1人あたり月100万円・年間1200万円の使い途が来年8月から公開されることになる。

このように見ると企業団体献金は先送りになったものの、政治資金に関連する部分については、一定の範囲ながらも改善策を盛り込んだ法案が成立するメドがついた。

こうした背景には、先の衆院選挙で「裏金問題の実態解明と政治改革」が争点になり、政権与党が過半数を割り込むなど政治状況が大きく変わったことが影響している。選挙後の国会では、与野党双方ともに政治改革の実現を求めた民意を意識して法案成立へと動いた。

一方、国民にとっても選挙で大きな争点になった「103万円の壁」が引き上げられたり、「政治とカネの問題」も改善に向けて動き出したりするなど政治の変化を実感した方も多いのではないか。いずれにしても選挙結果が、政治を動かした数少ないケースだ。

 戦略なき対応、石破政権・自民党

それでは、政治とカネの問題をめぐって石破政権と自民党の対応は、どうだったのだろうか。衆院選挙の結果、30年ぶりの少数与党政権に転じ、石破首相にとっては全く別の世界に立たされた。

石破政権としては、政策面で主導権を発揮する立場にはなく、野党の主張を取り入れながら、譲るべきところは譲り、逆に守り抜く点は国民に訴えながら死守していくしかない難しい対応を迫られた。

その石破首相の対応だが、臨時国会冒頭の所信表明演説では、外交・安全保障政策や、経済対策と補正予算案などの説明に多くの時間を充てた。焦点の政治改革の問題は最後の方で「年内に必要な法整備も含めて、結論をお示しする必要があると考えています」と表明するのに止まった。これでは、政治改革は及び腰と受け取った国民が多かったのではないか。

一方、自民党は政治改革本部で、政治改革案をとりまとめたが、企業団体献金の扱いには踏み込まなかった。各党との協議でこだわったのは、政策活動費の廃止を認める代わりに、支出先を非公開にできる「公開方法工夫支出」の創設だった。

これに対して、野党各党はそろって強く反発し、与党の公明党からも賛同を得られずに孤立して、提案の撤回に追い込まれた。

この時期に行われた報道各社の世論調査ではいずれも、石破内閣の支持率と、自民党の政党支持率がそろって下落した。石破政権と自民党は、政治改革の取り組みが後ろ向きだと受け止められたことが影響したものとみられる。

石破政権は、丸飲みするところは最初から丸飲みする一方、主張すべき点は最後まで譲らないメリハリのとれた対応ができていれば、世論調査の評価も変わっていたかもしれない。

要は、この国会での石破政権と自民党の対応は、新たな政治状況の中でどのような姿勢で臨むのか、戦略が定まっていなかったことが国会で孤立することになった最大の要因ではなかったか。

今回、石破政権は企業団体献金を維持することはできたが、来年3月末に再び結論を出すことを迫られることになる。来年度予算案の成立と合わせて、企業団体献金などの政治改革が与野党の争点として浮上することが予想される。

 野党も責任、政治資金のあり方など

一方、野党側も今後の対応が問われる。特に野党第1党の立憲民主党は、企業団体献金禁止を強く主張し、そのための法案を4党派共同で提出したが、野党全体にまで賛同が広がらなかった。

国民民主党や維新からは「立憲民主党の案では『政治団体からの寄付』が除外されており、業界団体や労働組合からの献金が抜け穴として残されている」との批判が最後まで消えなかった。

この点について、立憲民主党から、明確な説明はなされていない。企業団体献金をめぐっては禁止論が根強くある一方で、政党によっては活動を支える政治資金の基盤に関わる問題でもある。また、政治資金集めのパーテイーの扱いも一定の範囲で認めるのかどうかを明確にしておく必要がある。

そこで、来年の春までに各党は「政治活動と、政治資金の関係の全体像」がわかる議論を行うべきだ。そして与野党が一定の考え方をとりまとめてはどうか。そのうえで、企業団体献金をはじめ、第三者機関の性格や権限など残された課題についても決着をつけてもらいたい。

与党過半数割れという新たな政治状況の中で、政治改革の取り組みでは、不十分な点も多いが、新しい与野党の対応として評価できる点もある。この国会では、「年収103万円の壁」の扱いが残されている。

いずれも先の衆院選挙で争点になったテーマであり、その後の国会で、具体的な対応策が動き出している。こうした前向きの動きが来年の通常国会でも続くのかどうか、そして来年夏の参議院選挙でさらに加速されるのかどうかみていきたいと考えている。(了)