“揺らぐ岸田政権” 裏金疑惑に強制捜査

自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題で、東京地検特捜部は19日、最大派閥の安倍派と二階派の事務所などを捜索し、強制捜査に乗り出した。

去年までの5年間に安倍派は5億円、二階派は1億円を越えるパーテイー収入を政治資金収支報告書に記載せず、裏金として還流させていた疑いが持たれている。

今後は派閥の会計責任者だけでなく、多額の資金のキックバック・還流を受けていた国会議員や派閥の幹部の責任を問えるかどうかが大きな焦点だ。

一方、今回の裏金疑惑捜査は、岸田政権を直撃するだけでなく、政権与党の自民党に対する国民の批判が一段と強まるきっかけになりそうだ。

党内からも「リクルート事件以来の逆風になるかもしれない」と警戒する声も聞かれる。岸田政権と政界への影響などを探ってみる。

 裏金疑惑の捜査、政治家まで伸びるか

政界関係者が固唾を飲んで見守っているが、検察の捜査が国会議員まで伸びるかどうかだ。

政治資金規正法は、資金の流れを公開し、国民の監視と批判に委ねることを目的にしており、政治資金収支報告書の記載は、会計責任者が責任を負う仕組みになっている。このため、国会議員や派閥幹部の責任を問うのは、ハードルが高いとされてきた。

岸田政権や自民党の党内事情に詳しい関係者に聞いてみた。「岸田官邸は捜査がどこまで広がるか、つかめていないようだ」とのべ、捜査がどこまで展開するか明確に見通せないという。

一方、「検察当局は安倍政権時代、黒川・東京高検検事長の処遇をめぐって検察人事に手を突っ込まれた経緯もあり、その反撃といった意味もあって強い執念で取り組んでいる」として、安倍派の議員や幹部まで捜査が広がる可能性があるとの見方を示す。

検察当局は、安倍派の「5人衆」と呼ばれる幹部などからも詳しい事情を聞くものとみられ、最終的に捜査がどのように決着するのかが最大の焦点だ。

 内閣支持率急落、トリプルパンチ

次に、政界への影響はどうか。岸田政権については、既に内閣支持率が低迷している状況だけに、今回の疑惑捜査はさらなる打撃となりそうだ。

岸田首相は14日、安倍派の裏金疑惑を受けて、松野官房長官ら安倍派の閣僚4人と副大臣5人の大幅交代に踏み切った。

ところが、この直後に行われた報道各社の世論調査によると、岸田内閣の支持率は、読売新聞が25%で横ばい、共同通信が22.3%で6ポイント下落、朝日新聞が23%で2ポイント下落となった。閣僚の交代による政権の立て直し効果は、まったく見られなかった。

いずれの調査とも岸田内閣支持率は20%台前半まで下落している。これは、2012年に自民党が政権復帰して以降、歴代政権の最低の水準だ。今回、裏金疑惑の捜査の影響を考えると、さらなる支持率の下落が予想される。

岸田政権は、10月に新たな経済対策の切り札として「所得税などの定額減税」を打ち出したが、国民には不評で、政策面で厳しい批判を浴びた。

これに加えて、11月は「副大臣3人が相次ぐスキャンダル」で更迭、さらに12月は「裏金疑惑」が重なり、トリプルパンチを浴びる形になっている。国民の信頼が低下し、今後の政権運営にも大きな影響が出ることは避けられない見通しだ。

 自民党も支持率低下、逆風強まるか

裏金疑惑の問題は、内閣支持率だけでなく、これまで30%台後半で比較的高い水準を保ってきた自民党の支持率にも影響を及ぼし始めた。

NHKが12月上旬に行った世論調査で、自民党の政党支持率は、先月より8ポイント余り下がって29.5%。2012年に自民党が政権復帰して以降、初めて30%を割り込んだ。

今月中旬に行った朝日新聞の世論調査でも自民党の支持率は23%で、先月より4ポイント下落、こちらも2012年の政権復帰以後、最低を更新した。

朝日の調査によると◆裏金疑惑をめぐる岸田首相の対応については、「評価しない」が74%、「評価する」が16%だった。◆自民党は「政治とカネ」の問題を繰り返してきた体質を変えられると思うかとの質問に対しては、「変えられない」が78%、「変えられる」は17%だった。

こうしたデータを基に判断すると、自民党は信頼回復に向けた思い切った対応策を打ち出さないと自民党に対する世論の逆風は一段と強まることになるのではないか。

 疑惑対応が後手、国民の信頼回復は?

それでは、これからの政治はどう動くか。岸田首相は、22日に新年度予算案を閣議決定するとともに、萩生田政調会長ら辞任する党役員の後任を決定して、態勢の立て直しを図る方針だ。

そして、来年の春闘で物価上昇を上回る賃金引き上げを実現し、6月の定額減税の実施などで国民生活を安定させ、政局の主導権を回復したい考えだ。

自民党長老に聞くと「岸田政権が、個別政策で実績を上げて政権の浮揚をめざすのはかなり難しい。今や、政権と自民党が一体となって、政治不信を払拭し、国民の信頼を取り戻せるかが急務だ」と指摘する。

また、「岸田首相にとって今のような支持率では、とても解散は打てない。新年度予算案が成立した後は、来年秋の自民党総裁選に向けて『新しい顔』を探す動きが出てくるかもしれない」との見方を示す。

岸田首相は13日の記者会見で「自民党の体質を一新すべく先頭に立って戦っていく」と決意を強調したものの、具体的な対応策は示すことができなかった。

安倍派と二階派の事務所に検察の捜査が入った19日も岸田首相は、記者団に「強い危機感を持って信頼回復に取り組む」と一般論を繰り返すだけに止まった。

また、安倍派の閣僚4人は全員交代させたのに対し、二階派の小泉法相と自見万博担当相は続投させる判断をした理由について、詳しい説明はなされなかった。

このように岸田政権は、国民の多くが求めている疑惑の解明や、こうした事態を招いた原因などについての説明が、後手に回っている。

自民党には、リクルート事件を教訓に党のあり方などを盛り込んだ「政治改革大綱」がとりまとめられているが、岸田首相や党執行部から、こうした原点に立ち返って対応していくといった今後の取り組み方についての言及は聞かれない。

岸田政権には、派閥のあり方などを含めた党改革について、踏み込んだ対応や指導力の発揮が最も問われているようにみえる。そうした取り組みができない場合、党員や国民の支持を失う危機的状況に追い込まれるのではないか。(了)

★(追記=21日21時)東京地検特捜部は、松野官房長官、高木国会対策委員長、萩生田政調会長ら安倍派の複数の幹部に任意の事情聴取を要請した。     ★(追記=25日21時)東京地検特捜部は、安倍派幹部の松野前官房長官、高木前国対委員長、世耕参院幹事長、塩谷元文科相(派閥の座長)から24日までに任意で事情を聞いたことが明らかになった。                    ◆岸田首相は25日、麻生副総裁ら自民党執行部と会談、年明けのできるだけ早い時期に、派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題を受けた改革などを検討するため、新たな組織を立ち上げる考えを示した。                ★(追記=27日23時)東京地検特捜部は27日、安倍派から4000万円を超えるキックバックを受けていたとみられる池田佳隆衆議院議員の事務所などを捜索した。自民党の派閥をめぐる政治資金問題で、議員側が強制捜査を受けるのは初めてだ。                                  ★(追記=28日21時)東京地検特捜部は28日、自民党安倍派の大野泰正参議院議員の事務所などを捜索した。安倍派から5000万円のキックバックを受けていたとされる。                               ◆柿沢前法務副大臣が28日、江東区長選挙をめぐる買収の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。