新型コロナの”感染爆発”に歯止めがかからない。新規感染者数は28日、東京では初めて4万人を超え、全国でも23万人と過去最多を更新した。
岸田政権は、感染抑制と社会経済活動の両立をめざしてきたが、このところ、感染拡大期に、濃厚接触者の待機期間を短縮するなどチグハグな対応が目立つ。
ここは、やはり感染抑制へブレーキを踏み込む時期ではないか。岸田政権のコロナ対応を緊急点検する。
”フェーズが変わった”日本世界最多
感染状況を振り返っておくと新規感染者数は7月1日時点で、東京で3500人余り、全国では2万3100人台に止まっていた。死者は21人、重症者数は52人と低い水準だった。
ところが、全国の新規感染者数は15日に10万人を突破、20日に15万人、23日には20万人と加速度的に増え、27日には20万9600人で過去最多となった。第6波のピーク時の2倍の水準だ。
東京では28日、1日当たりの感染者数がついに4万406人に達した。今月に入り1か月近くで11倍も増えた。全国では、23万3000人余り、過去最多を更新した。
日本の感染者数は、欧米諸国に比べて格段に少なかったが、WHO=世界貿易機関が27日にまとめた報告書では、24日までの1週間当たりの新規感染者数では、日本は97万人で、世界で最も多くなっている。
アメリカは86万人、ドイツは56万人だ。フェーズが大きく変わり、日本は欧米に比べて感染者数が少ないとは言い切れなくなった。
感染拡大期に緩和”チグハグ対応”
岸田政権のコロナ対応だが、先の参院選挙で自民党が大勝したのを受けて、岸田首相は14日に記者会見し、今後の対応策を明らかにした。
この中で岸田首相は、感染状況について「感染が全国的に拡大しているものの、重症者数や死亡者数は低い水準にある」と説明し、新たな行動制限を行うことは考えていないと表明した。
一方、社会経済活動と感染拡大防止の両立を維持するため、世代ごとにメリハリの効いた感染対策をさらに徹底すると強調した。
具体的には、4回目のワクチン接種について、すべての医療従事者と高齢者施設のスタッフなどおよそ800万人にも対象範囲を拡大し、接種を始めると明らかにした。
そのうえで、岸田首相は22日、後藤厚労相などと協議し、社会経済活動を維持していくため、濃厚接触者に求める待機期間をこれまでの原則7日から5日間に短縮し、さらに2日目と3日目の抗原検査が陰性であれば、3日から待機を解除できることを決めた。
こうした対応をどう評価するか。まず、行動制限を求めないという方針はやむを得ない措置だと思う。仮に緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置を出しても、感染抑制にどこまで効果があるか疑問だからだ。
問題は、政府や自治体の説明では、重症者や死亡者などは低水準との認識だが、状況は厳しくなっている。27日時点で全国の死者は129人、重症者は311人、7月1日と比べると6倍前後も増えて折り、状況認識に甘さを感じる。
また、医療への影響も大きくなっている。28日には「重症確保病床の使用率」が東京都で53%となったほか、「確保病床使用率」も沖縄、神奈川、静岡、大阪、福岡、熊本など20都府県で50%以上の警戒ラインを上回っている。
こうした医療のひっ迫状況を考えると今は感染抑制に向けて、ブレーキをかける局面だ。岸田政権の対応は、感染が急拡大している時に、待機期間短縮の緩和策を打ち出すなどチグハグな対応が目立つ。これでは危機感は伝わらない。
さらに東京では、発熱外来はパンク状態、PCR検査はなかなかできない、抗原検査キットも薬局で手に入らないとの声を身近なところでも数多く聞いた。
検査、診察、自宅療養へのサポートも期待できず、健康管理の仕組みが目詰まり状態だ。政府は最悪の事態を想定して備えを進めていると強調してきたが、実態はこれまでと同じく「後手の対応」を繰り返している。
新たな問題としては、感染や濃厚接触者が増えて、医療、保育だけでなく、JR九州では乗務員の確保ができず列車の運転が休止になったり、郵便局の窓口業務ができなくなったりするなど社会活動に影響が広がり始めた。
岸田首相は、参院選の期間中は、特に経済活動重視の姿勢が感じられたが、この感染爆発の局面では、感染抑制へカジを切った方がいいのではないか。
感染抑制の具体策と首相の実行力
これからのコロナ対策を考えると、今回の感染では、比較的軽症の人が多いのも事実だ。軽症な人は自宅で療養してもらう一方、症状の重い人は入院・治療にアクセスしてもらうなどの取り組みを進める必要がある。
また、抗原検査キットの配布はじめ、自宅療養者への支援体制などはどうするのか、政府と自治体が連携して、具体的な改善策を早急に示してもらいたい。
さらに、高齢者や医療従事者などへのワクチン接種の4回目と、若い世代への3回目のワクチン接種の促進も重要だ。
緊急事態宣言など行動制限を求めないのであれば、症状に応じた具体的な感染抑制対策や、メッセージなどの発信に一段と力を入れて取り組むべきだ。今の岸田政権には、こうした力強さが感じられない。
今回の感染急拡大は、感染危機対応が、岸田政権にとって引き続き最重要課題の1つであることを示している。具体策を早急に打ち出し、感染拡大を押さえ込めるのか、岸田政権の評価を大きく左右することになる。
参院選後の政治は、安倍元首相なき後、岸田首相が独力で主導権を発揮できるのかどうかが焦点だ。コロナ感染急拡大は、岸田首相の実行力と、政権の求心力がどの程度のものかを占う試金石の意味を持っている。(了)