”議論なし開催突入の愚”東京五輪

新型コロナウイルスの感染流行が続く中で、東京オリンピック・パラリンピックを開催して大丈夫か。国民の多くが考え、判断に迷っているのではないか。本来は、政治、具体的には国民の代表で構成される国会で、政府が対応策を示し議論する大きなテーマのはずだ。

ところが、菅政権で初めて行われた9日の党首討論では、こうした国民の関心に応える議論にはならなかった。このままでは国会は16日に閉会、20日には緊急事態宣言を解除、そのまま議論が深まらないまま五輪開催へと突入する公算が大きい。

これでは、国会は熟議の場どころか浅慮、議論なしの”愚の骨頂”と言わざるをえない。東京五輪・パラリンピックの開催問題を政治の側から、考えてみたい。

 党首討論 知りたい点に答えず

9日に国会で行われた党首討論は2年ぶりの開催。菅政権になって初めてで、菅首相と野党党首が突っ込んだ議論を交わすのではないかと期待した国民も多かったのではないか。

ところが、結果は、残念ながら期待外れに終わったというのが正直な印象だ。立憲民主党の枝野代表らは「3月の緊急事態宣言の解除が早すぎたのではないか。同じ間違いを繰り返さないために厳しい基準を明確にすべきだ」などと追及した。

これに対して、菅首相は論点をそらしつつ、ワクチン接種について「希望する人すべてが、10月から11月にかけて終えられるよう取り組む考え」を表明した。

また、共産党の志位委員長が、政府分科会の尾身会長の指摘を引用しながら「感染リスクが高くなる中で、なぜ開催するのか」と質したのに対し、菅首相は「国民の命と安全を守るのは私の責務だ」と答え、議論が深まらなかった。

 問題の核心 開催の条件と意義

国民が知りたいのは、世界でコロナパンデミックが続いている中で、東京五輪・パラリンピックを開いて本当に大丈夫なのか。開催する場合、日本の感染状況はどこまで収まっているのか、医療的提供体制はどこまで余裕があるのか、具体的なデータを示しながら説明をして欲しいという点だ。

また、感染危機の中で、国民の多くは大会を開く意義は何か、世界に向けて語る必要があると考えているのではないか。

こうした点について、菅首相の発言は真正面から答える内容には遠かった。前回の東京五輪の思い出を長々、話をするのではなく、日本国民や世界の人たちにどんな大会にしたいかを、自らの言葉で語りかける必要があったのではないか。

このように、今回の党首討論では、問題の核心である東京五輪・パラリンピックの開催意義や、開催のための条件をどう設定するか、依然として大きな宿題として残されたままだ。

 専門家の意見をどう扱うのか

東京五輪・パラリンピックについては、国内の観客を入れるのかどうか。また、メディアを含めた大会関係者の行動管理などの細部も不明な点が多い。

こうした中で、政府分科会の尾身会長は、開催に慎重な考えを示しているほか、開催する場合は規模を最小限にすることなどを求めている。

一方、9日に開かれた厚生労働省の専門家会合で、京都大学の西浦教授は独自に行ったシミュレーションで、7月末までに高齢者へのワクチン接種が完了したとしても、接種が進んでいない50代以下の年代を中心に感染が大きく広がり、8月中に再び重症者病床が不足するような流行になると警告している。

政府は、こうした専門家の意見をどのような形で、方針決定に反映させるかも問われる。緊急事態宣言の判断では専門家に意見を求め、五輪対策では意見を求めないといったご都合主義は止めた方がいい。五輪の開催問題も「科学」で判断すること、具体的なデータに基づいて公正に判断する姿勢で対応してもらいたい。

 政治の劣化 責任の明確化必要

それでは、今後の動きはどうなるか。菅首相は11日から13日までイギリスで開かれるG7の対面式の首脳会議に出席するが、この中で東京五輪・パラリンピック開催支持を取り付けたい考えだ。

16日は国会の会期末だが、政府・与党は会期を延長しない方針だ。これに対して、野党側は内閣不信任決議案を提出、与党側が否決して、国会は去年に続いて早々と”店じまい”となる見通しだ。20日には、東京都などに出されている緊急事態宣言が期限を迎え、この頃、組織委員会がオリ・パラの観客の扱いなどの判断を示す見通しだ。

このようにみてくると、今後、国会で五輪開催の是非などを論じる機会は極めて少ない。これでは、熟議の国会どころか浅慮、国会の議論が乏しい状態が常態化しており、政治の劣化と指摘されても反論は難しいのではないか。

仮に五輪を開催した場合、選手とは別に、通訳、警備、ボランティアなどを含めると要員は30万人規模になるといわれる。このほか、観客の扱いはまだ決まっていないが、現在のイベント規制の基準で計算すると観客数は300万人規模に達するとの見方もある。

こう見てくると仮に開催して感染拡大が起きた場合、その責任は誰が負うのか。曖昧なままにせずに、はっきりさせておく必要がある。

コロナ感染対策とオリンピック開催問題は、7月の東京都議選、10月までに行われる見通しの次の衆院選でも争点の1つになる見通しだ。選挙で判断・審判を下すことになるが、その前に国会の場で議論をしっかり行うことが、最低限必要だと考える。