菅政権と”コロナ政局”のゆくえ

菅政権が初めて編成した新年度予算が26日、参議院本会議で可決、成立した。菅首相の長男が勤める放送関連会社が、許認可権を持つ総務省幹部を接待していた不祥事が表面化し、総務官僚2人が辞職する異例の展開となったが、何とか年度内の成立にこぎつけた。

予算成立後の政治はどう動くのか。菅首相の自民党総裁任期は9月末まで、衆議院議員の任期は10月21日まで、残された任期はおよそ半年。「政権発足からまだ半年とみるか、残り任期はあと半年しかないとみるか」で、政治の光景は違って見える。コロナ感染と菅政権のゆくえを分析・展望してみたい。

反転攻勢 訪米、五輪、衆院決戦

コロナ対応をめぐって、世論や野党から厳しい批判を浴びてきた菅首相は、4月を「反転攻勢のスタート」にしたい考えだ。アメリカを訪問し、9日にバイデン大統領と会談し、世界の首脳の中で最初に会談したリーダーであることをアピール、政権運営の追い風にしたいねらいもある。

続いて4月12日からは、これまでの医療従事者の先行接種から、いよいよ高齢者を対象にした優先接種が始まる予定だ。また、菅政権の看板政策であるデジタル改革関連法案は、今国会で成立するのは確実な情勢だ。

さらに延期されてきた東京五輪・パラリンピック大会の開催、感染対策を万全にしたうえで、成功させたい考えだ。

こうした内外課題の実績を積み重ねたうえで、菅首相は9月末の自民党総裁選での再選と、衆議院の解散・総選挙をめざす戦略は変わっていないように見える。菅首相にとって、今後の政権運営のメイン・シナリオだ。

但し、このメイン・シナリオ通りに運ぶかどうか、幾つもの難関・ハードルを越えなければならない。

ハードル① 感染抑え込みできるか

第1のハードルが「新型コロナの感染拡大」を抑え込むことができるかどうかだ。首都圏の1都3県に出されていた緊急事態宣言は、3月21日に全面的に解除されたが、感染状況は予断を許さない。

全国の新規感染者数は、27日は2073人、2日連続で2000人台。2月6日以来の高い水準だ。東京、大阪など関西2府1県の大都市圏だけでなく、宮城県、山形県、愛媛県、沖縄県などの地方でも増え始めた。

変異型ウイルスの広がりを含めて、専門家は第4波の始まりではないかと神経をとがらせている。仮に第4波となると”政府の早すぎた宣言解除”に対する世論の批判が強まり、菅内閣の支持率が再び下落することが予想される。

 ワクチン接種の成否と感染対策

こうした中で、菅首相がコロナ対策の決め手と位置づけているのが、ワクチン接種だ。2月17日に医療従事者の先行接種が始まった。

続いて、4月12日からは65歳以上の高齢者の優先接種が始まるが、ワクチン確保量が少ないため、テスト的な実施に止まる見通しだ。但し、河野担当相は「6月末までに高齢者3600万人が2回接種を受けられる分量は確保できる」との見通しを示している。

与党関係者に聞くと「高齢者接種が本格化するのは5月以降」との見方だ。全国1700余りの市区町村単位で接種を行う大作戦だが、地方自治体関係者の間では「いつ、どれだけのワクチンが届くのか肝心の情報があまりにも少なすぎる」と批判が強い。この大作戦が順調に進むのかどうか大きなポイントだ。

政府コロナ対策の尾身茂会長は、国会での質疑で「高齢者の接種が5月か6月に本格化し、7月に終わったと仮定。さらに一般国民の接種に移るが、今年暮れの時点でゼロにはならない」とのべ、収束は来年以降に持ち越す可能性が高いという見通しを示している。

つまり、ワクチン接種へ国民の期待は大きいが、抑制効果が表れるまでには、かなりの時間がかかる。ということは、短期的には今の対策がカギを握っている。5つの柱からなる総合対策を打ち出したが、実効性に大きな疑問が持たれているのが実状だ。

 ②五輪開催 世論の支持は

第2のハードルは、東京五輪・パラリンピック大会開催で、世論の支持が広がるか否かだ。自民党幹部に聞くと「菅首相の関心は、大会を開催するか否かではなく、開催を前提にしてどのように安全・安心の大会にできるかにある」と語る。

一方、報道各社の世論調査をみると、大会を開催するよりも、再延期や中止を求める意見の方が多い。このため、世界や日本の感染状況がどうなるかということに加えて、開催する場合も大会の意味や位置づけを明確にして、国民の合意を広げられるかどうかが大きな課題と言える。

現状のままでは、大会の成功を国民の多くが喜び、政権の評判が上がり、衆院選の盛り上げにつなげたいという与党関係者の思惑通りには運ばないのではないか。

 ③総裁選、衆院選2つの選挙

第3のハードルは、”今年は選挙の年”なので、大きな選挙を勝ち抜けるかどうか。まず、4月25日投票の”トリプル選挙”と、7月4日の東京の都議会議員選挙。それに秋に任期満了となる自民党総裁選と、衆議院選挙が控えている。

”トリプル選挙”は、衆院北海道2区と参院長野選挙区の補選、それに参院広島選挙区の再選挙の3つ。吉川元農水相の収賄事件、河合案里参院議員の選挙違反事件に伴う選挙などのため、自民党にとっては厳しい選挙になる。1勝2敗説、3連敗説なども取りざたされている。

東京都議選は、各党とも国政選挙並みの取り組みになる。前回は、小池百合子・知事率いる”都民ファースト旋風”で、自民党は歴史的な大敗を喫した。今回は、自民、公明の選挙協力が復活し、議席の回復が見込まれるが、国政の問題が選挙の争点になる。次の「衆院選挙の先行指標」、”菅自民党”の先行きが占える。一連の不祥事などの影響がどう出るか。

菅首相にとって政権維持のためには、自民党総裁選と、衆院選の2つの大きな選挙を勝ち抜く必要がある。感染抑止やワクチン接種が順調に進むケースは、現職の総理・総裁として、優位に選挙に臨むことができる。

逆に、コロナ対策やワクチン接種が滞ると強い逆風となる。特に衆院決戦を控えているので、自民党内から「自らの当選が危うくなる」として、リーダーの交代を求める動きが出てくることが予想される。

これから半年の政局の読み方は、◆菅政権はトリプル補選などが不振に終わっても、直ちに政権が揺らぐ可能性は低い。党内では”コロナ禍の難局、火中の栗を拾う動きは出ない。9月まで菅さんにやってもらおう”との見方が根強い。

◆秋が近づいた段階でも内閣支持率が低迷する場合は、”選挙の顔”を代える動きが一気に噴き出す可能性がある。◆政局が大きく動くのは、自民党総裁選が近づいた段階ではないかというのが、今の時点の結論だ。

なお、政界の一部には、5月解散・6月選挙説、あるいは7月都議選との同時選挙説がメディアで盛んに報道されている。この五輪前の解散・総選挙説があるのかどうかを最後に見ておきたい。

 五輪前の解散・総選挙説は?

結論を先に言えば、確率としては極めて低いとみる。理由は、6月選挙、7月初め選挙となると、先に見たようにワクチンの高齢者接種が本格化している時期だ。その時期の解散・総選挙は「政権の自己都合優先」と世論の猛烈な批判を巻き起こし、政権与党惨敗の可能性もあるのではないか。

また、選挙の実務面でも全国の市区町村の負担はたいへんだ。ワクチン接種会場と投票所が重なったり、選挙管理の要員のやりくりなどに忙殺されるだろう。

さらに選挙への影響としては、与党の公明党は都議選を重視しており、選挙の時期が接近すると自民党との選挙協力がうまく機能しないことになる。接戦選挙区の自民党候補は、落選が相次ぐといった事態も予想される。

”選挙大好き人間”と言われる菅首相は、こうした事情は百も承知で、五輪前の解散・総選挙は選択しないとみる。任期満了か、それに近い時期の解散・総選挙を選択するのではないか。

以上、みてきたように、これからの政治は、ワクチン接種を含めたコロナ状況で大きく変わる。従来の伝統的な政局の見方・読み方と大きく異なる点だ。

同時に、この半年余りの間に衆院選挙が確実に行われる。「コロナ激変時代の選挙」の備えが重要だ。自らと家族の生活、将来の経済・社会づくりをどのような勢力、リーダーにゆだねるのか。今から政治の動きをじっくり注視、選挙に備えていただきたい。