”無党派・政治不信旋風”首都決戦

過去最多の56人が立候補した東京都知事選挙は7日投開票が行われ、小池知事が大勝し3選を果たした。次点は、広島県安芸高田市・前市長の石丸伸二氏、3位は前参院議員の蓮舫氏という事前の予想とは異なる結果となった。

一方、同じ7日に投開票となった東京都議補欠選挙で自民党は、9選挙区中8人の候補者を擁立したが、当選は2人に止まり、裏金問題の逆風が収まっていないことがはっきりした。

今度の都知事選と都議補選の首都決戦から、何が読み取れるのか?結論を先に言えば”無党派層の投票者が増え、既成政党に対する不信と批判が現れた選挙”ではないか。なぜ、こうした見方をするのか、以下、説明したい。

多数の無党派層投票 選挙結果を左右

まず、東京都知事選挙の構図については当初、小池知事が先行し、蓮舫氏と、石丸氏が追う展開と予想していた。終盤、石丸氏が急速に追い上げているとの見方もあったが、立憲民主党や共産党などの支援を受ける蓮舫氏が逃げ切るのではないかと個人的にはみていた。

結果は、冒頭に触れたように小池氏、石丸氏、蓮舫氏という順番で、決着がついた。小池氏先行というのは現職の立場に加えて、自主支援を打ち出した自民、公明両党支持層からの分厚い支持が想定され、小池氏優勢は妥当な判断だろう。

一方、蓮舫氏と石丸氏の順位が入れ替わったのはなぜかという点だが、これは、投票者を対象にしたNHKの出口調査のデータをみると、理由がわかる。それが今回の選挙の大きな特徴でもある。

今回の都知事選で、投票した有権者の「ふだんの政党支持」をみると、自民支持は25%、立憲民主党支持は10%などと続いている。これに対して、特に支持している政党はない、いわゆる無党派層は48%だった。

大都市・東京は無党派層が多いといわれてきたが、今回は自民支持層の倍近い規模だ。立憲民主党支持層との比較では、5倍にも達する。投票者に占める無党派の比率がここまで伸びたことはなかったのではないか。

つまり、投票所に足を運んだ有権者のおよそ半数が、無党派層。この無党派層から最も多く獲得したのが石丸氏で30%余り、次いで小池氏30%余りだった。これに対し、蓮舫氏は20%に止まった。「無党派層の獲得率」の違いが、勝敗と順位を大きく左右する。これが今回選挙の第1の特徴だ。

 既成政党への不信、批判が鮮明に

次に、都議補選をみると今回は、品川区、中野区、八王子市など9つの選挙区で行われた。自民党は8つの選挙区で候補者を擁立したが、獲得議席は2つに止まった。2勝6敗、選挙前の5議席からは3議席を失ったことになる。

議席を獲得したのは、小池知事が率いる地域政党「都民ファースト」が3議席、無所属が3議席、立憲民主党1議席となった。立憲民主党以外いずれも小規模な政治団体、または個人だ。

自民党は都民ファーストや無所属候補らと競り合ったが、最終的に競り負けた。自民党の選挙関係者に聞くと「自民党に対する不信や批判は厳しかった。但し、それは自民党だけでなく、立憲民主党にも向かった。無党派層を中心に、既成政党に対する姿勢が強烈に現れた選挙だった」と語る。

「そうした批判票が、石丸氏に最も多く流れた。小池知事でもなく、蓮舫氏でもない、批判票の受け皿に石丸候補がなった」との見方を示す。石丸氏は、無党派層を主要ターゲットにSNSを徹底して活用したことが功を奏した。

さて、自民党の評価だが、都知事選では独自候補を擁立できなかったものの、小池知事を自主的に支援することで敗北は免れる形になった。しかし、重視していた都議補選で思うような結果は出せなかった。裏金問題に対する有権者の厳しい評価は、変わっていないことが明らかになったと言える。

一方、立憲民主党については、蓮舫氏が3位に沈んで党内に衝撃が走った。立憲民主党は、4月の衆院3補選で連勝、5月の静岡県知事選でも勝利を重ねた。今度の都知事選で勝利すれば、次の衆院選に向けて弾みになると期待していただけに打撃は大きい。

蓮舫氏の対応をみていると、準備不足やちぐはぐな対応が次々に露わになった。立候補表明時には「反自民、非小池都政」との立場を鮮明に打ち出したが、「都政に、国政の対立を持ち込むな」といった批判を浴び、トーンダウンした。

一方で、幅広い都民の支持を得るとして、立憲民主党を離党したが、選挙運動では共産党が前面に出て活動したことから、無党派層や保守層が警戒して引いてしまったとの指摘も聞く。

さらに根本的な問題としては「小池知事との争点の設定」が明確ではなかったのではないか。小池知事側が候補者同士の討論を避けたとの情報も耳にしたが、都政のどこを変えていくのか、都民に強く訴えることができなかった。

その結果、無党派層へ浸透していく迫力がなく、既成政党批判の波に飲み込まれてしまったようにみえる。

 岸田政権、今後の政治への影響は

それでは、都知事選や都議補選が、岸田首相の今後の政権運営や、政治の動きにどんな影響を及ぼすだろうか。

都知事選の結果は、小池氏自身が現職の強みを発揮したことが大きい。自民党が自主的な支援に回ったからといって、党の評価が好転するといったことはないだろう。したがって、都知事選の国政への影響はほとんどないとみている。

一方、都議補選の敗北をめぐっては、さっそく東京選出の議員から「このままでは次の衆院選は勝てない」として、岸田首相の辞任を求める声が公然と出された。9月の自民党総裁選に向けて、今後、尾を引くことなりそうだ。

これに対して、岸田首相は、外交日程などをこなす一方、「先送りできない課題に1つずつ、結論を出していく」として、政権継続に強い意欲をにじませている。総裁選の選挙日程が固まる8月下旬頃には、首相の去就を含め総裁選の対応が大きなヤマ場を迎える見通しだ。

一方、立憲民主党は、都知事選の敗因などの分析を進めるとしている。党内から、共産党との連携のあり方を見直すべきだという意見も聞く。9月の代表選挙とも絡んで、党の路線問題も議論になりそうだ。

立憲民主党は前身の民主党時代から、党の足腰の弱さが課題になってきた。また、政権交代で何を重点的に取り組むのか、旗印を明確に打ち出すべきだといった意見も聞かれる。このため、路線問題だけでなく、政権構想を具体的に打ち出したりしなければ国民の支持は広がらないだろう。

自民党総裁選挙の後、年内に次の衆院選挙が行われる可能性が高いという見方が広がりつつある。衆院選は、都知事選挙のような首長1人を選ぶ選挙と違い、政党本位の選挙だ。自民・公明対、非自民・野党各党の戦いが基本になる。首都決戦で変化を巻き起こした「無党派・政党不信旋風」はどこに向かうかのか、注目していきたい。(了)