東京都議会議員選挙は4日、投開票が行われ、自民党は第1党の座を獲得したが、議席を大幅に伸ばすことはできなかった。全員当選を果たした公明党と合わせても過半数に達しなかった。
自民党が獲得した33議席は過去2番目に少ない議席数で、”伸び悩み”という評価もあるが、事実上の”敗北”と言える。選挙前の大幅議席増の期待感は吹き飛び、自民党内では、秋までに行われる次の衆院選挙は厳しい結果になりかねないと懸念する声も聞かれる。
一方、投票率は42.93%で、5割を割り込んだ。前回・4年前の選挙より、およそ9ポイント低く、過去2番目に低い投票率になった。
自民党は、これまで低い投票率でも厚い保守地盤を活かして強みを発揮してきた。今回はなぜ、大幅議席増につながらなかったのか。今度の選挙結果の核心であり、次の選挙にも大きく影響するので、自民敗北の理由・背景を分析してみたい。
自民第1党議席回復もワースト2
最初に選挙結果を手短におさらいしておく。選挙前は45議席で第1党だった都民ファーストの会(以下、都民ファ)は、14議席減らして31議席に踏み止まった。選挙前25議席だった自民党は、33議席しか獲得できなかった。公明党は、23人の候補者全員が当選、1993年以降8回連続の全員当選となった。
共産党は選挙前の18議席から1つ増やして19議席。選挙前8議席だった立憲民主党は15議席に伸ばした。日本維新の会と、東京・生活者ネットワークはいずれも選挙前と同じ1議席を獲得した。
自民党の獲得議席については、自民党関係者の間でも「8議席増やしたので、敗北ではない」との声も聞くが、前回4年前の選挙は歴史的惨敗といわれた議席数で、これを基準に党勢を評価するのはどうか。
今回は過去2番目に少ない議席数で、公明党を合わせた与党過半数の低いハードルも超えられなかったので、事実上の”敗北”とみるのが適切だと考える。
”自民支持層の支持離れ”
それでは、自民党は、なぜ、過去2番目に少ない議席数に陥ったのか。自民党長老に聞くと「政府のコロナ対応に対する不満と批判を浴びる形になった。特に選挙直前、ワクチン接種予約に供給が追い付かず、接種予約の停止に追い込まれたことが響いた。先月下旬、選挙の流れがガラリと変わった」と振り返る。
具体的にどういうことか。有権者の投票行動はどうだったのか、メディアの出口調査で分析する。
読売新聞の出口調査では、投票した人にふだんの支持政党を聞くと最多は自民党の33%。立民11%、共産8%、都民ファ6%、公明5%、無党派層28%となっている。NHK、朝日、共同の出口調査も数値は異なるが、似た傾向を示している。
自民党の政党支持率は、前回選挙と比べても大きな変動はない。ということは、自民党の支持層の中で、これまでとは異なる投票行動の質的な変化があったと考えられる。
◆自民支持層のうち、自民候補者に投票した人は57%と少ない。都民ファに投票した人が19%、2割近くに達した。◆朝日と共同のデータでも自民候補者に投票した割合は、どちらも70%と低い水準だ。都民ファには、それぞれ12%程度流れている。
一方、◆無党派層の投票先としては、各社の調査とも都民ファに28%から25%程度と最も多く投票している。自民は10%台前半で、4年前とほぼ同じ割合だ。
以上のことから、自民敗北の要因は「自民支持層の支持離れ」が起きて、投票数が減少したことが考えられる。
自民幹部にこの見方をぶつけてみると「確かに当初、自民党に追い風も感じられ、40台半ばは獲得できるとみていた。ところが、選挙戦に入る直前の6月下旬、急ブレーキがかかったような印象を受けた。ちょうどワクチン職域接種の予約中止が決まった時期で、このことが支持離れにつながったのではないか。自民支持層の一部に意識変化を起こさせた」との見方を示す。
私も選挙取材を40年余り続けているが、自民党が選挙に負ける場合は、自民支持層が政権に不信感を抱き、支持離れを起こしていることが多い。
今の菅政権については、緊急事態宣言延長の繰り返しをはじめ、ワクチン接種計画の見通しの悪さ、さらには、中々、決まらない東京オリパラ開催問題などに対する支持者の嫌気、不満や批判が支持離れをもたらしたのではないかと同じ見方をしている。今後は、支持者への説明、説得ができるかどうかが、カギになる。
都民、共産、立民各党の課題
一方、都民ファーストの会が今回、踏み止まったのはなぜか。既にみてきたように無党派層の支持を得たことが大きい。もちろん、誕生した4年前の選挙の時に比べると、その支持は半減状態だが、各党と比べると支持の比率は最も多い。無党派層からは、改革勢力のイメージを持たれている。
また、小池知事の都民の支持率は6割程度と高く、こうした支持層の支持を都民ファは受けている。さらに、小池知事の緊急入院と投票日前日の候補者支援のパフォーマンス効果もあったかもしれない。
小池知事は、開票翌日の5日、自民党本部に二階幹事長を訪ね会談した。政界では、小池知事は次の衆院選で国政に復帰するのではないかとの見方がくすぶる。五輪閉会後、東京都のトップが任期満了、最後まで仕事をやり遂げるのか有権者としても注視していく必要がある。
一方、共産党と立憲民主党は、1人区と2人区を中心に候補者調整を行った。両党とも議席増につながり、一定の効果は出ている。今後は、次の衆議院選挙に向けて、野党第1党が中心になって政権構想づくりや、小選挙区の候補者調整をどこまで進められるのかどうかが、ポイントになる。
菅首相「選挙の顔」と政治責任
最後に今回の都議選の結果を受けて、政権与党の動きはどうなるか。菅政権発足以降、自民党は4月に行われた衆参3つの選挙で、不戦敗を含めて全敗したのに続いて、千葉県、静岡県の知事選挙で推薦候補の敗北が続いている。
加えて、今回の都議選で大幅な議席回復ができなかったことで、今後、自民党内から、菅首相は「選挙の顔」として通用するのかという声が出てくることが予想される。
自民党長老は「自民党員や世論は、菅首相の二正面作戦が本当に効果をあげるのか、五輪は無事開催できるのか、見極めようとしている。また、特にワクチン接種の計画と見通しなどを的確に説明し、軌道に乗せないと強い反発を招き、自民党内からも菅首相は政治責任を問われる局面が出てくるのではないか」と指摘する。
東京五輪・パラリンピックが無事開催にこぎつけられるのかどうか。感染の抑え込みとワクチン接種は順調に進むのかどうか。秋に向けて、こうした問題は政治に直ちに跳ね返り、政局は一気に緊迫する状況が続くことになりそうだ。