過去最多の8人が立候補し激戦が続いてきた横浜市長選挙は22日投票が行われ、立憲民主党推薦で、元横浜市立大学教授の山中竹春氏が、初当選を果たした。
前の国家公安委員長で、菅首相が全面的に支援した小此木八郎氏は支持が広がらず、及ばなかった。横浜市長選は菅首相のおひざ元の選挙で、小此木氏は閣僚を辞任しての挑戦、しかも菅首相が全面的に支援してきただけに、敗北の衝撃は大きい。
小此木氏敗北の要因と、秋の政局に及ぼす影響を探ってみる。
小此木氏敗北、3つの要因
横浜市長選は、元横浜市立大学教授の山中竹春氏と、前国家公安委員長の小此木八郎氏が競り合い、4期目をめざす林文子市長が追う構図になっていた。
当初は小此木氏の当選か、候補者乱立による再選挙かといった見方も出ていたが、結果は、山中氏の圧勝に終わった。
山中竹春氏が50万6392票、小此木八郎氏32万5947票、林文子氏19万6926票などで、山中氏が大差をつけて初めての当選を果たした。
父親から政治家の座を引き継ぎ、閣僚まで務めた小此木氏が敗北した要因は何か。地元関係者の話を総合すると、次のような点をあげることができる。
1つは、保守分裂の影響で、小此木氏は自民支持層を固めることができなかったことが大きい。林市長の後継選びが難航の末、小此木氏が立候補に踏み切ったが、カジノを含むIR誘致をめぐる意見の対立から、林市長も立候補して双方が激しい戦いを繰り広げた。
小此木氏を支援する菅首相の陣営も舞台裏で、政権関係者が林氏を支持する企業などの切り崩しを図ったが、思うような効果は上がらなかったとされる。
2つ目は、選挙の争点への対応の問題がある。争点となったカジノ問題について、小此木氏はカジノ誘致反対を打ち出したが、IR推進役の菅首相の支援を受けたことで、当選後に反対姿勢を覆すのではないかとの疑念が地元で広がったという。
また、もう一つの争点になったコロナ対応についても、菅首相の支援を受けたことで、菅政権のコロナ対策に対する有権者の不満や批判の逆風を、小此木氏がまともに受ける形になった。
3つ目は先ほど触れたコロナ対策とも関連するが、菅首相が地元の選挙に自ら全面的に関与することになったことで、有権者側に「菅首相にモノ申したい」という受け止め方が広がり、選挙の流れが変わってしまったという見方がある。
地元関係者に聞くと「小此木氏は当初、運動に勢いがあったが、菅首相が小此木氏と対談、全面的に支援することを明言したというタウンニュースが配られた後、急速に勢いを失っていった」と振り返る。
知名度も高い小此木氏が大差で敗れたことは、候補者個人や陣営の問題というレベルを越えて、小此木氏を支援する菅首相に対する不満や批判が影響したという見方だ。
選挙期間中も感染が拡大し、ワクチン接種の遅れなど政府のコロナ対策に対する有権者側の怒りや、批判が”小此木離れ”を引き起こしたという受け止め方が地元では聞かれた。
一方、当選を果たした元横浜市立大学教授の山中竹春氏は、立憲民主党の推薦に加えて、共産党や社民党の支援を受けたほか、報道各社の出口調査では、無党派層の支持を最も多く獲得したことが勝利に結びついたといえる。
政権運営に打撃、秋の政局激動へ
それでは、今回の選挙結果は、菅政権や秋の政局にどのような影響を及ぼすことになるか。
まず、菅政権への打撃は極めて大きい。政治家にとって、地元の主要選挙で支援候補が敗れることは、有権者の信頼を得ていないと受け止められ、求心力を大きく低下させる。
また、菅政権にとっては、今年4月の衆参3つの選挙で不戦敗を含めて全敗したのをはじめ、地方の主な知事選挙、さらには7月の東京都議選でも過去2番目に少ない獲得議席に終わった。
このため、自民党内には衆院選挙を控えて、菅首相は「選挙の顔」としてふさわしいのかといった不安の声が広がりつつあり、選挙基盤が固まっていない若手議員などから、今後、菅首相交代論が強まることが予想される。
これに対して、安倍前首相や麻生副総理、二階幹事長らの実力者が最後まで菅氏続投を貫くのかどうかが焦点になる。
いずれにしても菅首相としては、続投のためには9月末に任期が切れる自民党総裁選挙と、10月21日に任期満了となる衆院選挙の2つの選挙を連続して勝ち抜かなければならない。
自民党総裁選挙は26日に総裁選管理委員会が開かれ、日程が決まる予定だ。緊急事態宣言の期限が9月12日になっていることや、感染収束のメドが立たっていないことなどから、9月中の衆院解散は難しいとみられる。
そうすると自民党総裁選が先に実施される公算が大きく、今度は、議員投票だけでなく、党員投票が実施され、選挙のゆくえを左右する。
さらに最大の難関は次の衆議院選挙で、コロナ対策を中心に「政権の実績評価」が大きな争点になる見通しだ。菅内閣の支持率は政権発足以来、最低水準が続いてており、政権浮揚につながる材料が今のところ見当たらない。
国政選挙の先行指標と言われる東京都議選に続いて、今回の横浜市長選挙は菅政権にとって、”横浜ショック”と言えるほどの厳しい選挙結果になった。これからの政治の動きは、コロナ対応の評価を中心に世論が主導する形になり、菅首相の退陣も含めて激しく変動する確率が大きいとみている。