安倍首相の任命・説明責任! 河井前法相夫妻 買収事件 

去年夏の参議院選挙をめぐり、河井克行前法相と妻の案里参議院議員が選挙違反の買収の罪で、8日起訴された。河井夫妻は、地元議員などおよそ100人に票の取りまとめを依頼し、現金およそ2900万円余りを配ったと検察当局はみている。

法務大臣経験者が、大規模な買収事件で逮捕・起訴されるのは前代未聞。国会議員の夫婦がそろって逮捕・起訴されるのも初めてだ。さらには、これほど大量の現金が、100人もの地元有力者などにばらまかれていたことにも驚かされる。

河井夫妻が関係する政党支部には、自民党本部から破格の1億5000万円もの資金が提供されていた。この資金提供の方針を誰が決定したのか、買収の資金はどこから調達されたのかなどは、はっきりしていない。

一方、この事件は、新型コロナ対策で迷走が続いている安倍政権を直撃、国民の政治不信を招き、内閣支持率急落の要因の1つにもなっている。

今回の事件の意味や背景、それに政治のあり方を考えてみたい。次の衆議院選挙は1年3か月以内には行われる。

 買収 ”最も悪質な選挙犯罪”

選挙の買収は、選挙違反の中でも最も悪質な選挙犯罪だ。物品の提供で、本来、自由で公正であるべき選挙、民主主義の基本ルールを歪め、侵害するからだ。

また、自民党には党則に基づいて「自民党規律規約」が規定されている。「党員が汚職、選挙違反事犯により起訴されたときは、党員資格の停止の処分」を行う。そして、禁固以上の有罪判決が確定したときは、除名処分を行うと規定されている。

河井夫婦は、逮捕直前に離党したので、対象から外れたが、党員のままであれば、最も重い「除名」の重い処分の可能性があったことになる。

 政治改革に逆行、政治劣化現象

次に今回の事件の意味はどうか。昭和、平成を通じて、政治とカネの問題、政治改革を積み重ねてきたが、今回の事件は、こうした政治改革に逆行、台無しにしたと言える。

私ごとで恐縮だが、昭和のロッキード事件、リクルート事件、平成の金丸副総裁事件などを政治の側から40年余り取材を続けてきた。不十分との批判もあるが、政治腐敗の根絶をめざして、選挙制度の改革、政党助成金の導入などの改革を積み重ねてきたのも事実だ。これらの改革では、主に政治家や政党へのカネの入り口の改善をめざしてきた。

というのは、選挙の買収などは、明るい選挙などの国民運動で改善が浸透してきたこともあったからだ。

ところが、今回の事件は一昔前にタイムスリップした観がある。参議院選挙の選挙違反事件の推移をみてみると◆昭和25年・1950年と、昭和37年・1962年は、1万2000件台もあったが、◆昭和49年・74年は5200件、その後は急減し、最近は100件台までに減っている。

つまり、選挙買収は、”一昔前の古典的違反”とみられていたのが、今回、醜悪な姿をよみがえらせたとの印象を受ける。このところの”政治劣化現象”とも言えるのではないか。

 政権与党との関係・責任問題

さて、今回の事件をみていると政権与党の責任は、極めて大きいと考える。まず、政治資金の提供の問題。自民党本部から、河井前法相と案里議員の支部宛てに、参議院選挙前に1億5000万円が振り込まれている。別の候補者の10倍にあたる破格の資金提供が行われていた。

買収資金の原資の詳しい内訳は明らかではないが、党本部からの資金の一部が買収資金に回った可能性もある。また、この資金提供は、誰の判断で決定したのか執行部の1人に聞いてみてもわからないと話している。

現職と新人の保守分裂になった選挙で、案里氏の陣営は、自民党本部とのパイプの太さを強調し、選挙期間中、安倍首相や菅官房長官、二階幹事長らが応援にかけつけた。また、安倍首相の事務所の秘書も応援にたびたびかけつけ、地元議員や有力企業回りをしていた。このように、政権与党の関係と責任は大きい。

 安倍首相、政権与党の説明責任

河井克行前法相自身については、2012年に安倍首相が総裁選挙に再挑戦した際に推薦人になったのをはじめ、当選同期の菅官房長官を支える無派閥議員のグループを立ち上げたことでも知られる。自民党内では、こうした安倍首相や菅官房長官との深い関係が、去年秋の内閣改造での初入閣につながったとの見方が強い。

このようにみてくると、政権与党として、河井前法相夫妻への破格の資金提供を誰がどのような目的で決定したのか。また、この資金が選挙買収に回されたことはないのかどうかなど事実関係を明確にする必要がある。

また、河井氏を法相に起用したことの任命責任をどう考えるかなどについても国民に説明することが求められている。

安倍首相は8日夜、「かつて法相に任命した者として責任を痛感する。国民におわび申し上げる」と記者団にのべた。また、党が提供した1億5000万円について「裁判が予定される個別事件についてコメントは差し控えたい」とのべた。

国民の側が、こうした説明に納得するかどうか。報道各社の世論調査では、河井前法相夫妻は「議員辞職すべき」という意見が8割に達している。選挙買収、政治とカネの問題について、最低限、事実関係について明確な説明ができないと政権与党に対する信頼感は取り戻すのは難しいのではないか。

新型コロナ対策や今後の政権運営、さらには来年秋までには確実に行われる衆院解散・総選挙に向けても、大規模買収事件は政権にとって、大きな重荷になりそうだ。