”綱渡りの政権運営”第2次石破政権

先の衆院選挙を受けて11日に召集された特別国会は首相指名選挙が行われ、衆議院では自民・公明両党が過半数を割り込んだことから30年ぶりの決選投票に持ち込まれた。その結果、石破首相が、立憲民主党の野田代表を破って新しい首相に選出された。

参議院では与党が多数を占めることから1回目の投票で石破首相が選出され、第103代の首相に就任した。石破首相は直ちに新しい内閣の組閣人事を行い、衆院選で落選した2人の閣僚と公明党の代表就任に伴う後任の閣僚を決定し、第2次石破内閣を発足させた。

この後、石破首相は記者会見し、先の衆院選に関連して「厳しい結果を受け、あるべき国民政党として生まれ変わらなければならない」とのべ、政策活動費の廃止や旧文通費の使途の公開などについて早期に結論を出す考えを表明した。

第2次石破内閣は衆院選挙での過半数割れで、1994年の羽田内閣以来30年ぶりの少数与党政権となる。石破政権のこれからの政権運営はどのようになるのか、今後の政治のあり方を含めて考えてみたい。

 首相指名選挙 ひとまず乗り切り

先の衆院選で大敗を喫した石破首相にとって政権を維持していくためには、特別国会での首相指名選挙を勝ち抜くことが最優先の案件になっていた。

また、選挙の敗因となった裏金問題と政治改革、それに国民の関心が高い「年収103万円の壁」などの経済対策についても早急に対応策を打ち出す必要に迫られていた。

このうち、首相指名選挙については決選投票になった場合でも、国民民主党や日本維新の会が自らの党首に投票することから、野党側が候補者の一本化ができないことがはっきりしてきた。

また、自民党内でも石破首相や執行部の対応に強い不満を持つ議員やグループはいるものの、直ちに辞任を求める意見はほとんどみられず、首相指名選挙でも自民党内から無効票が投じられるなどの造反はなかった。

こうしたこともあって石破首相は、最初の難関である首相指名選挙をひとまず乗り越えることができた。

もう1つの難問である政治改革や「年収103万円の壁」などの政策について、石破首相は召集日当日の11日午前、立憲民主党の野田代表、国民民主党の玉木代表とそれぞれ個別に首脳会談を行った。維新の馬場代表とは10日に会談を行った。

こうした会談で、石破首相は「野党の皆さんの意見を誠実、謙虚に承りながら、国民に見える形であらゆることを決定していきたい」とのべ、政治改革をはじめ、政策の実現に向けて野党の協力を要請した。

石破首相と自民党執行部は、既に政策面で考え方の近い国民民主党との間で政策協議を行うことで合意しており、政調会長レベルの協議も始まっている。

選挙の大敗で動揺が続いていた石破政権は、野党各党の党首会談にもこぎつけ、ひとまず落ち着きを取り戻すことができたとみていいのではないか。

 綱渡りの政権運営、3つの節目

さて、第2次石破政権は少数与党政権だけに「綱渡りの政権運営」が続くのは確実な情勢だ。野党側の協力がなければ、法案や予算案は成立しないし、野党側が内閣不信任案を提出し可決すれば、内閣総辞職に追い込まれる公算が大きい。

これからの石破政権を展望すると政権運営が難しい局面を迎える「3つの節目」が予想される。第1の節目は、年末の時点で、焦点の裏金問題と政治改革、それに経済政策で野党との協議が一定の成果を生み出せるかどうかだ。

このうち、政治改革については、野党側が政策活動費の廃止、旧文通費の公開、第三者機関の設置、企業団体献金の廃止などを要求しており、石破政権がどこまで受け入れるかが焦点だ。

一方、経済政策では、自民党と国民民主党との間で進められている「年収103万円の壁」をはじめ、ガソリン税の見直しなどで進展がみられるか。今年度の補正予算案や、新年度予算案の内容をめぐっても協議が行われる見通しだ。

こうした協議の結果、国民民主党は、石破政権との政策協議を継続するのかどうか。また、日本維新の会が馬場代表から新たな代表に変わった後、石破政権との関係や政策協議にどのような方針で臨むのかも注目される。

2つ目の節目は、来年1月に召集される通常国会で、新年度予算案の審議をめぐる与野党の攻防だ。今回、衆院の予算委員長ポストは野党が握り、立憲民主党の安住・前国対委員長が務める。特に来年2月下旬以降、予算案の衆院通過をめぐって、予算案の修正が大きな問題になる可能性もある。

3つ目の節目は、新年度予算案が成立する見込みの来年3月末以降、石破政権の求心力がどのようになっているかだ。夏には参議院選挙が控え、内閣支持率が低迷していると自民党内から「石破降ろし」の動きが出てくることも予想される。

このほか、アメリカ大統領選挙でトランプ前大統領が復帰することになったことで、国際情勢が激しく揺れ動くことも予想される。石破首相はトランプ次期大統領と早期の会談を希望しており、今後の日米関係をどのように築いていけるか、国内政治にも影響を及ぼすことになる。

 新しい政治へ与野党の合意形成を

ここまでみてきたように石破政権の今後は、波乱・混乱の道に陥るおそれがある一方、新しい政治を切り開いていける可能性もある。そのためには、先の選挙で示された民意を踏まえて、与野党双方が政策の決定や、国会運営面で合意の形成に向けて踏み出せるかどうかにかかっている。

具体的には、衆院選挙の最大の焦点になった裏金問題と政治改革について、与野党が歩み寄り、年内に政治資金規正法の再改正を実現することができるかどうか。また、年収の壁などの政策についても、与野党が一定の方向性を打ち出すことができるかどうかが試金石だ。

国民の中には「政治に期待しても何も変わらない」「国会議員は自分たちの利益のことしか考えていない」など不信の声が根強くあるのも事実だ。こうした政治不信や民主主義に対する冷笑主義を克服するためにも、次の臨時国会で具体的な成果を挙げることが重要になる。

それだけに石破首相は政権の延命ではなく、懸案の解決に向けて思い切って踏み出すことが必要だ。少数与党政権は国会では少数派なので、国民に訴え、支持を広げていくしか有効な対応策はないのではないか。

一方、野党第1党の立憲民主党や国民民主党は大幅に議席を増やしたが、それだけ大きな責任を負ったことになる。野党が政権交代をめざすのであれば、将来社会の姿や、重点政策の柱を明確に打ち出す必要がある。

私たち国民の側は、与野党双方が政策や構想を競い合うと同時に、国会を舞台に与野党が協議を尽くして結論を出す「新しい政治」を期待している。来月上旬にも予想される次の臨時国会で、その第1歩をみせてもらいたい。(了)