秋の政局 見方・読み方”3つの焦点”

この夏は異常な猛暑が続いているが、暦は9月に入り、今年も残すところ4か月になった。5月のG7広島サミットでは存在感を発揮した岸田首相も今は、内閣支持率が政権発足以降、最低の水準まで落ち込み、厳しい局面が続いている。

さて、秋の政治はどう展開するのか?結論から先に言えば、3つの点がカギを握るとみる。1つは内閣改造・自民党役員人事。2つめは政権が抱える難題処理、3つめが衆院解散・総選挙のゆくえだ。この3つの焦点を軸に秋の政局を読み解きたい。

 内閣改造人事、政権浮揚か空振りか

最初に秋の主な政治日程を駆け足で見ておく。9月は外交日程がたて込んでおり、岸田首相は5日から11日までの日程で、インドネシアで開かれるASEAN関連首脳会議と、引き続いてインドで開催されるG20サミットに出席する。

この後、9月中旬に開幕する国連総会にも出席して演説を予定している。9月末には、自民党役員の任期を迎えるので、外交日程の合間をぬう形で9月中旬か、あるいは月末に内閣改造・自民党役員人事を行う見通しだ。

10月には秋の臨時国会が召集され、物価高と経済対策を盛り込んだ補正予算案が提出される見通しだ。10月22日には、衆議院長崎4区と参議院徳島・高知の統一補欠選挙が行われる。

11月末には、マイナンバーカードのトラブルをめぐって、総点検の完了の期限を迎える。12月は、来年度の税制改正や予算編成作業が本格化する。このように年末に向けて、内外の主要な日程がたて込んでいる。

岸田首相にとって、政治日程でもう1つ大きな意味を持つのは、10月初めで政権発足から丸2年が経過、自民党総裁任期満了まで1年を残すだけとなる。また、衆議院議員の任期の折り返しを迎え、衆議院の解散・総選挙の時期が視野に入ってくる。

以上の政治日程などから、岸田政権としては、9月に内閣改造・自民党役員人事に踏みきり、低迷している内閣支持率を反転させたい考えだ。そのうえで、年内に衆議院の解散・総選挙を断行するタイミングを探り、来年秋の自民党総裁選での再選につなげていくのが基本戦略だ。

そこで、内閣改造・自民党役員人事が政権浮揚につながるかどうか注目される。自民党の閣僚経験者は「岸田政権の運営は手詰まりの状況にあり、思い切った政策とそのための新たな布陣を打ち出せるかがカギだ」と語る。

与党内の関心は、岸田首相が党運営の要である茂木幹事長の交代に踏み切るかどうかだ。岸田首相と茂木幹事長とは、潜在的なライバル関係にあることや、自公関係を安定させるうえで「岸田首相は茂木氏を代えたがっている」との声も聞く。

これに対し、岸田首相は対応に迷っており、「今の岸田派、麻生派、茂木派の主流3派体制を維持してバランスを保つことが、政権の安定につながる」として、最終的には茂木氏の続投を選択するのではないかとの見方も根強い。

内閣の顔ぶれでは「松野官房長官や、林外相、西村経産相など主要閣僚は続投するのではないか」といった見方が強く、「人事の刷新は期待薄」といった声が早くも聞かれる。

自民党の長老に聞くと「岸田首相は、新たな人材も起用して力のある政権をめざしているが、具体的な人材となると適任者が見当たらない。改造で支持率が上がることもあるが、現実には上がらないのではないか」と厳しい見方を示す。

改造人事で、政権浮揚効果は現れるのか、それとも空振りに終わるのか、その結果が秋の政治のゆくえを左右する。

 難題処理の具体策と道筋、実行力は

2つめの焦点は、政治課題の問題だ。今年の5月以降、相次いだマイナンバーカードをめぐるトラブルについて、岸田政権は8月4日に新たな対応策を打ち出した。

焦点の健康保険証の廃止は、来年秋に廃止する方針を当面維持する一方、マイナ保険証を持たない人には、資格証明書の発行で、不安解消に努めるという内容だ。

そして、11月末まで総点検の作業を続け、その結果をみたうえで、健康保険証廃止の方針を改めて判断することにしている。

次に、東京電力福島第1原発の処理水を海に放出する問題については、岸田首相が放出に反対の全漁連の代表と面会するなどの調整を経て、8月24日に処理水の放出を開始した。

これに対して、中国政府は「汚染水」との表現で、こうした放出に強く反発し、日本産海産物の輸入を全面的に停止する措置を打ち出した。

これに対し、政府は、即時撤廃を申し入れたが、中国側は応じる気配がない。政府は、9月上旬に開かれる国際会議の機会を通じて、岸田首相が中国の李強首相や習近平国家主席に働きかけるシナリオを描いているが、めどはついていない。

さらに、ガソリン価格の高騰が続いているのをはじめ、電気やガス料金の負担軽減措置が9月末に切れることから、物価高や経済対策を求める意見が、与野党や国民の間から強まっている。

このほか、岸田政権が打ち出した防衛増税の実施時期や、少子化対策の具体的な財源も先送りになっており、年末の予算編成で結論を出すことが迫られる。

このように岸田政権にとっては、内外の懸案が次々に積み重なる形になっている。いずれも難題で、どのような具体策と道筋で解決していくのか、政権の実行力が問われている。こうした懸案処理に一定の実績を上げないと政権の浮揚は困難だ。

 秋の衆院解散に高いハードル

3つめの焦点は、衆議院の解散・総選挙がどうなるか。ある閣僚経験者は「今のような内閣支持率の低さでは、とても解散を打てる状況にはない」との見方だ。

一方、与党内には「来年になっても政権に有利な材料は見当たらない。それなら、野党の準備が整っていない年内に行った方がいい」との意見も聞かれる。

自民党の長老の見方はどうか。「政権ができて2年になるが、残念ながら目に見える実績がない。政策も完結せず、道半ばだ。さらに政権として何をやりたいのか、国民に伝わっていない」と語り、解散のハードルは高いという見方だ。

岸田首相にとって与党内では、強力なライバルは見当たらず、最大派閥の安倍派も後継会長が決まらないことで、党内の主導権は発揮しやすい状況にある。但し、総選挙となると、国民の判断・反応が大きく影響する。

その世論の反応だが、NHKの8月の世論調査で岸田内閣の支持率は33%で、政権発足以降最低の水準だ。不支持率は44%で、支持を不支持が上回った。自民党の支持率も34%台まで下がり、岸田政権で最も低い水準になっている。

加えて、洋上風力発電をめぐる汚職事件で、外務政務官を務めていた秋本真利衆議院議員が検察当局から事務所の捜索を受けるなどの不祥事が相次いでいる。

岸田首相はこのところ、報道各社のぶら下がり取材に頻繁に応じ、懸案の取り組み方をスライドを用いて説明するなど情報発信を強めている。内閣支持率が低迷し、指導力を発揮していないなどの批判をかわす狙いがあるものとみられる。

これに対して、野党側は、岸田政権は内外の課題に有効に対応できていないとして、臨時国会では、岸田政権との対決姿勢を強める方針だ。

このように秋の政局は、臨時国会を舞台に岸田政権と野党側の攻防が一段と強まる見通しだ。与野党のどちらが主導権を握るのか、それによって年内解散があるのか、それとも来年以降へ先送りになるのか、決まることになる。(了)