”泉 立憲民主党”が問われる点

野党第1党・立憲民主党の「新しい顔」に泉健太氏が選ばれた。立憲民主党の代表選挙は30日投開票が行われ、1回目の投票で4人の候補者がいずれも過半数を獲得できず、上位2人による決選投票の結果、泉健太政務調査会長が、逢坂元首相補佐官を抑えて新しい代表に選出された。

泉代表は就任後、最初の記者会見で「根本は、国民に何を届けるかが大事で、国民への発信を強めていきたい」とのべ、自民党と対抗するだけでなく、政策立案型の新たな党運営をめざす考えを表明した。

泉氏の知名度は高いとは言えないが、衆院京都3区選出の当選8回で、47歳。2001年の衆院選挙で、当時の民主党から立候補して29歳で初当選した。その後、国民民主党の国会対策委員長などを歴任、去年9月に立憲民主党との合流に参加し、代表選挙にも立候補した経験もある。

泉氏が選出された背景としては、4人の候補者の中では40代で最も若いことに加えて、政治的には中道に位置することから、来年夏の参院選を控えて、党のイメージの刷新と新たな支持層を拡大して欲しいという党内の期待を集めたことが挙げられる。

こうした一方で、泉代表の前途には、多くの難問が待ち受けている。岸田政権は、コロナ対策などを盛り込んだ大型補正予算案を編成し、早期成立をめざしている。泉代表は、こうした巨大与党にどのように対峙していくのか、野党第1党の立て直しに何が問われているのか探ってみたい。

 国会論戦で存在感、支持率回復は

泉新代表は、さっそく幹事長をはじめとする党役員人事に着手することになるが、代表選に立候補した逢坂、小川、西村の3氏を主要ポストに起用するとともに党役員の半数に女性を充てたい考えだ。その新体制が発足早々、直面するのが4日に召集される臨時国会への対応だ。

岸田政権は、コロナ対策などを盛り込んだ35兆円という過去最大の補正予算案を提出し、岸田首相の所信表明演説と各党の代表質問が行われた後、衆参両院で予算委員会が開かれる。

岸田政権が10月4日に発足して2か月になるが、衆院解散・総選挙が行われたこともあって、衆参両院の予算委員会で本格的な論戦が行われるのは、今回が初めてだ。岸田首相と、泉新代表との直接対決の論戦も交わされる見通しだ。

立憲民主党は2017年の衆院選挙の直前に、当時の新党・希望の党から排除された枝野氏が中心になって結党され、選挙で躍進。その後、去年9月には国民民主党などと合流、ようやく衆院で100人を上回る野党第1党にまで党勢を拡大した。

しかし、この間、政党支持率が10%に乗ったのは数えるほどで、ほとんどが8%から6%の1ケタ台で、30%台の自民党に大差をつけられてきた。

国会の論戦や新代表の発信力などを通じて、政党支持率をかつての野党第1党並みの2ケタ台まで回復し、存在感を発揮できるかどうか、泉新代表が最初に問われる点だ。

 重点政策、コロナ収束後の構想提示を

新代表が問われる2つ目としては、党の重点政策をはっきりさせるとともに、何をめざす政党かの旗印を明確に打ち出すことが不可欠だ。

今回の代表選挙で4人の候補者ともに「どのような社会を目指すのか」、「コロナ対策や、経済の立て直し策」、「共産党などとの野党共闘」のあり方など幅広い課題について議論を交わした。

但し、多くの国民にとって、興味を持つような議論にはならなかったのではないか。立憲民主党が衆院選の期間中に配布していた「政策パンフレット」と同じレベルに止まっているという印象を受けた。

国民は「コロナ収束後にどのような社会をめざしているのか」大きなビジョン、構想を明らかにして欲しいと感じている。また、感染の抑え込みを始め、生活困窮者や打撃を受けている事業者の立て直し策として何をやるのか、知りたい点だ。

ところが、自民、公明両党の政権とはここが違うという具体的な政策や、わかりやすい説明ができていなかった。このため、政権の受け皿としても認められていなかった点に根本的な問題があったのではないか。

また、共産党と閣外協力で合意した問題についても比例代表選挙への影響はあったと思うが、根本の問題は、それ以前の問題、政権交代を目指すための客観的な条件が整っていなかったとみる。

具体的に言えば、国民の多くは政権交代を望んでいなかった点を読み間違っていたのではないか。野党共闘の問題は、政治状況や政権交代の道筋まで踏み込んで議論しないと、問題の核心に迫ることはできないと考える。

 参院選へ野党結集の構想と道筋を

3つ目に問われている点は、来年夏の参院選挙への対応だ。岸田政権は、衆院選に続いて、参院選でも勝利すれば長期政権も視野に入る。これに対し、野党側は、自公政権を過半数割れに追い込む構えで、来年の最大の政治決戦になる。

参院選の焦点は、当選者1人を選ぶ1人区の攻防で、全国で32選挙区にのぼる。野党側がバラバラに候補者を擁立すれば、自民党の1人勝ち、いわゆる消化試合になってしまうので、これまでも候補者調整が行われてきた。

この1人区の戦い方がどうなるか。今回の代表選でも候補者4人とも「1対1の構図は維持したい」とする一方、共産党との閣外からの協力といった合意については、見直す考えを示していた。

今回の衆院選挙で枝野前代表らの対応を見ていると「共産党とは連立を組みたくないが、票は欲しい」というのが本音ではなかったか。このため、政権構想として位置付けているのか、選挙戦術の延長なのか、敢えて曖昧にしていた点に大きな問題があったとみる。

国民の側からみていると、参院選に向けて野党結集の構想と道筋を明らかにすることが野党第1党の役割だ。そして、野党各党や各種団体、国民に説明して、理解を求めるのが本来のあり方ではないか。共産党と連合の間で、右往左往、ヤジロベエのように揺れ動く対応は止めた方がいいと考える。

先の衆院選挙を経て、政界の構図は、自民・公明の政権与党と、野党第1党の立憲民主党や共産党、社民党、れいわ新選組などの勢力、それに日本維新の会が第3極をめざして国民民主党と連携を深めようとしているようにみえる。

こうした構図の中で、野党第1党はどのような役割を果たすのか、参院選にむけて、野党各党の構想、野党結集の枠組みや道筋はどうなるのか。野党第1党の新代表は、早急に基本的な考え方を明らかにすることが必要ではないか。

新たな変異株「オミクロン株」の感染が世界各国へ広がり始めた。日本としては、第6波への備えや、経済・暮らしの立て直しも早急に進める必要がある。そのためにも国会を早期に開いて、政権与党と野党側が新体制できちんとした論戦を行い、緊張感のある政治を取り戻すことが急務だ。       (了)

※参考情報(追記:12月1日21時半)泉代表は、立憲民主党の役員人事について、代表選挙で争った◇西村智奈美氏を幹事長に、◇逢坂氏を代表代行に、◇小川氏を政務調査会長に、それぞれ起用する意向を明らかにした。

また、◇国会対策委員長には馬淵澄夫氏、◇選挙対策委員長に大西健介氏を起用する方針。

この人事案は、2日の両院議員総会に示され、了承される見通し。

※立憲民主党は2日、両院議員総会を開き、泉代表が示した人事案を了承し、新たな執行部が発足した。泉代表は記者会見で「国民のために働く政策立案型」を執行部のカラーとして打ち出したい」とのべた。(追記:12月4日午前11時55分)