“維新 勢力拡大”政権,政局への影響は?

統一地方選挙の前半戦は9日、全国9つの道府県知事選挙と6つの政令指定都市の市長選挙、それに41道府県議選と17政令指定都市議員選の投開票が行われた。

知事選挙では、大阪維新の会が大阪の府知事と市長のダブル選挙をいずれも制した。保守分裂となった奈良県知事選挙でも、日本維新の会の新人が当選するなど維新が勢力を拡大したのが大きな特徴だ。

自民党は、与野党対決の北海道と大分県の知事選挙で推薦候補が勝利したが、大阪のダブル選挙と奈良県知事選挙で維新の攻勢に敗れた。

政党の基礎体力を示す道府県議選の結果と合わせて、前半戦の選挙結果をどのようにみるか。政権や政局にどんな影響を及ぼすのか、後半戦の投票日に合わせて行われる衆参5つの補欠選挙のゆくえを含めて、分析してみる。

 維新は拡大戦略奏功、自民は奈良で敗北

まず、統一地方選挙前半戦の最も大きな特徴は、▲全国政党の日本維新の会が、地域政党の大阪維新の会を含めて、勢力を拡大したことだ。

大阪府知事と大阪市長のダブル選挙のうち、知事選では現職の吉村洋文氏が2回目の当選、市長選では元府議の横山英幸氏が初めての当選を果たした。統一地方選では2回連続、それ以前を含めると4回連続で維新が勝利した。

保守分裂選挙になった奈良県知事選挙でも、日本維新の会の新人で元生駒市長の山下真氏が初めての当選を果たした。大阪府以外で、初めて維新公認の知事が誕生したことになる。

41道府県議選でも維新は、18の道府県で合わせて124議席を獲得、選挙前の59議席から倍以上に増やした。大阪府議会では9議席増の55議席を獲得して過半数を維持したのをはじめ、兵庫県では選挙前の4議席から21議席へ議席を増やしたほか、神奈川では6議席、北海道や福岡県などでも初の議席を獲得した。

維新関係者に聞くと「今度の統一地方選挙では、現有の地方議員400人を1.5倍の600人に増やす目標を立て、徹底した候補者の発掘と擁立の準備を重ねてきた」と話しており、こうした党勢拡大の戦略が功を奏した形になっている。

▲これに対して、政権与党の自民党はどうか。与野党対決型の北海道では、再選をめざす鈴木直道氏を公明党とともに推薦して、立憲民主党の元衆議院議員の候補に圧勝した。大分県知事選挙でも元大分市長の佐藤樹一郎氏を推薦して、共産・社民両党の県組織が支援する前参議院議員の候補者に勝利した。

一方、奈良県知事選挙は、県連会長を務める高市経済安全保障担当相が主導して、総務大臣当時の秘書官を擁立したが、現職が反発して分裂選挙に突入した。

結果は、維新候補が漁夫の利を得る形で当選した。保守王国とされてきた奈良県で維新公認の知事が誕生したことは、今後の国政選挙などで影響が出るのは避けられない。

高市担当相の責任が極めて大きいと批判する声が出ている。一方、自民党は各地の選挙で分裂選挙となるケースが目立っており、党執行部の調整不足に問題があるとの指摘も強い。いずれにしても、この問題は尾を引くことになりそうだ。

一方、41道府県議選について、自民党は合わせて1153人が当選し、総定数2260に占める割合は51%に達した。安倍政権時代の2015年と2019年に続いて、3回連続で過半数を維持したことになる。

議員数は前回・選挙時の1158人とほぼ同じだが、選挙前と比べると86人減らしている。但し、総定数の過半数は維持しているので、岸田政権に代わっても地方組織の力量に大きな変化は現れていないとみられている。

問題は、奈良県知事選挙にみられるように候補者擁立をめぐって地方組織の意見が対立した場合、地方任せで党の執行部が組織全体をまとめ上げる力が弱体化していることを懸念する声は強い。

このほかの各党をみておくと▲立憲民主党は、北海道知事選挙で大敗したほか、各地の知事選では与野党相乗り型が目立ち、野党第1党として与党と対決していく構図を作り上げることができなかった。

一方、道府県議選では185議席を獲得し、選挙前から7議席増やした。今後、野党内で、維新との間で主導権をめぐる確執が強まることが予想される。

▲公明党は道府県議選では169人が当選したが、愛知県で1人が落選し、170人の全員当選は果たせなかった。今後、関西地域で、維新との関係が焦点になる。

▲共産党は75議席で、選挙前から24議席減らした。▲国民民主党は、選挙前と同じ31議席を維持した。

 衆参補選は混戦、政権・政局へ影響も

それでは、今回の選挙結果が岸田政権へ及ぼす影響はどうだろうか。自民党の長老に聞いてみると「道府県議選では、過半数を維持できたので、岸田政権や当面の政局に大きな影響はない。問題は、衆参の補欠選挙のゆくえだ」と語る。

次に、維新がめざしている「大阪の政党から、全国政党をめざす目標」をどのようにみるか。大阪のダブル選挙と奈良県知事選挙で勝利したのをはじめ、大阪府議会に続いて大阪市議会でも初めて過半数を確保、兵庫県議会でも大幅に増やしていることなどから「近畿の政党」へ拡大しているようにみえる。

一方、地盤の近畿以外の関東や愛知など地域では、議員の獲得数はまだ少ない。「全国政党化」の展望が開けたという段階までには至っておらず、足場を築きつつあるというのが、現状ではないか。

政界関係者の中には、今後の維新の存在感が高まれば、政界入りを目指す人材の中には、維新入りをめざす人が増えるなど求心力が増すことも予想されるとの見方もある。

今後の焦点は、統一地方選挙の後半と同じ投票日になる衆参5つの補欠選挙のゆくえだ。衆議院の千葉5区と和歌山1区、山口2区と4区の補欠選挙が11日告示される。既に6日に告示された参議院大分選挙区と合わせて、投票日は統一地方選の後半戦と同じ23日になる。

与野党の関係者の見方を総合すると、山口4区と2区は安倍元首相と岸元防衛相の選挙区で、勝敗面では自民が獲得する可能性が大きいとの見方が多い。

そのほかの3つの選挙区は、混戦、激戦になるのではないか。衆議院千葉5区は、政治とカネの問題で自民党の衆議院議員が辞職したのに伴う選挙だ。自民と、立民、維新、共産、国民などの各党がそれぞれ候補者を擁立するが、いずれも新人で、混戦になる見通しだ。

和歌山1区は、国民民主党議員が県知事戦に転出したのに伴う選挙だ。自民党はこれまで挑戦を続けてきた元衆議院議員を擁立したのに対し、維新は前和歌山市議の女性を擁立し、奈良県知事選の勝利をはずみに総力を上げる構えだ。共産党も候補者を擁立する。

さらに参議院大分選挙区は、野党系無所属議員が県知事選に立候補したのに伴う選挙だ。自民党は公募で飲食店の経営の女性候補を擁立したのに対し、立憲民主党は、前参議院議員を擁立し野党の共闘体制で戦う構えだ。

こうした選挙区の勝敗がどうなるかによって、与党側の5選全勝説から、4勝1敗説、3勝2敗説、逆に野党の3勝2敗説などさまざまなケースが予想される。

この勝敗によって、岸田政権の今後の政権運営や、衆議院の解散・総選挙の時期にも影響を及ぼすことになる。どのケースで決着がつくか、選挙情勢をみていく必要がある。(了)