展望なき”宣言”拡大 菅政権

新型コロナウイルスの急激な感染拡大を受けて、政府は17日、緊急事態宣言の対象地域に茨城、静岡、京都、福岡など7府県を追加する方針を決めた。

また、まん延防止等重点措置を宮城、富山、三重、香川、鹿児島など10県に新たに適用する方針だ。期間は、いずれも9月12日までになる。

これによって、緊急事態宣言は13都府県、重点措置は16道県に拡大する。但し、これによって、感染拡大に歯止めをかけることできるかどうか不明だ。

菅首相は先月末の記者会見で「緊急事態宣言が最後となる覚悟」で取り組むと表明していたが、8月末までの感染抑え込みはできず、9月にずれ込むことになる。感染危機は今後、どうなるのか、政権運営などにどんな影響が出てくるのか探ってみたい。

 8月感染危機抑え込みは失敗

まず、今回の緊急事態宣言の追加・拡大の方針をどのようにみるか。

政府は、今月2日緊急事態宣言の対象地域に埼玉、千葉、神奈川、大阪府を追加して6都府県に拡大し、8月31日までの抑え込みをめざしてきた。菅首相は先月末の記者会見で「8月末までの間、今回の宣言が最後となるような覚悟で、政府を挙げて全力で対策を講じる」と決意を表明していた。

ところが、先月末以降、感染が急拡大し、今回、感染対象地域を追加するとともに、期間についても9月12日まで延長することに追い込まれた。端的に言えば、菅首相がめざした8月感染危機抑え込みに失敗したことになる。

問題は、今回の方針で、今後の感染急拡大を抑え込めるかどうかだ。政府は、今回、医療体制の構築、感染防止の徹底、ワクチン接種の3本柱で対策を進めて行くと強調している。

しかし、3本柱の中身を見ると新たな対策といえば、百貨店やショッピングモール、専門店などの大型商業施設について、入場者の整理を徹底することを盛り込んだ程度で、新味に乏しいのが実状だ。

専門家が重視した人出の抑制も、買い物の回数を半分程度にしてもらうよう呼びかけるのが中心で、効果は期待できそうにない。

専門家は「東京の感染状況は制御不能」、医療提供体制も「深刻な機能不全に陥っている」などと警告しているが、残念ながら今回の政府方針で、今の感染爆発を抑え込むのは難しいという見方が多く、展望なき感染対策が続くことになりそうだ。

 感染抑え込みに何が必要か

それでは、感染拡大の抑え込みにどんな取り組みが求められているのだろうか。結論を先に言えば、先に政府分科会の尾身会長が12日に公表した、感染抑制策の強化の提言を基に、具体的な対策を練り上げることが考えられる。

分科会の提言は、感染爆発を防ぐための大目標として、2週間という期限を区切って、人出・人流の5割減少をめざす。そのための、具体策として◇災害時並みの今の医療危機に対応するため、国が自治体と協力し、思い切った対策を取ること。◇医療関係者がいる宿泊療養施設を増設、◇PCR抗原検査の徹底などを、ワクチン接種とは別に早急に打ち出すように求めていた。

政府が今回、示した対応策は「急増している自宅療養患者と必ず連絡がとれるようにする」などの一般論ばかりで、自宅待機・療養患者をどのような仕組みで、いつまでに、どれくらいの人数の改善をめざすのかといった具体策は盛り込まれていない。これでは、感染抑え込みは難しいのではないか。

 ワクチン接種64歳以下の遅れ

政府のワクチン接種の進め方についてもみておきたい。ワクチン接種が感染抑止の切り札になることに異論はないし、接種を加速させることにも賛成だ。

菅首相は17日夜の記者会見でも「10月から11月のできるだけ早い時期に、希望するすべての方へ2回のワクチン接種の完了をめざしていく」との考えを示した。政府関係者もワクチン接種については、7月は1日150万回と目標をはるかに上回るペースで進んだと強調する。

ところが、専門家に聞くと、日本のワクチン接種は遅ればせながらも、高齢者の接種は急速に進んだが、64歳以下の人たちの遅れが、極めて大きな問題だと指摘する。

14日時点のデータをみてみると国民全体では、1回目の接種を終えた人は49%、2回目は37%となっている。このうち、高齢者は1回目が88%、2回目が84%と高い。一方、64歳以下は1回目は22%、2回目は10%に過ぎない。

これでは、感染爆発を防ぐのは難しい。また、50代以下、若い世代については、ワクチン接種の予約を申し込もうとしても、なかなか予約が取れないとの話を聞く。自治体の中にも今月下旬以降、ようやく若い世代の受付を本格化するところもある。ワクチン配分と接種の進み具合をしっかり見ていく必要がある。

 総裁選先行、衆院選の公算も

感染抑え込みが9月にずれ込んだことは、菅政権の解散・総選挙戦略にも大きな影響を及ぼすことになりそうだ。

菅政権の当初のシナリオは、感染拡大を抑え込み、東京オリンピック・パラリンピックを成功させ、その勢いに乗って、9月の早い段階で衆院解散・総選挙を断行、選挙に勝利した後、自民党総裁選を無風で乗り切る戦略だった。

ところが、緊急事態宣言が9月12日まで延長されたので、9月早期の衆院解散は難しい情勢だ。このため、自民党総裁選を先に行い、その後、衆院選挙という可能性が大きくなりつつある。菅首相としては、衆院選の前に、総裁選を勝ち抜くことが必要になる。

もう1つ、8月22日に行われる横浜市長選も絡んでくる。横浜市長選は菅首相のおひざ元の選挙で、前の国家公安委員長の小此木八郎氏が議員を辞職して立候補。現職の林文子市長も立候補して保守分裂の選挙になっている。

8人が立候補して、激戦が続いているが、地元の関係者によると立憲民主党が推薦する山中竹春候補と小此木候補が激しく争い、これを林候補が追う構図とみられている。この選挙結果によっては、首相が次の衆院選を戦う「選挙の顔」としてふさわしいかどうか問われることになるとの見方が出ている。

以上、見てきたように今回の緊急事態宣言の拡大は、来月12日の期限までに感染爆発と医療危機を抑え込むことができるのかどうか。菅首相の政治責任や秋の政局のゆくえにも大きな影響を及ぼすことになりそうだ。