「緊急宣言」迷走 菅政権”危険水域”へ

新型コロナ感染拡大に対する「緊急事態宣言」をめぐって、政府は13日、大阪、愛知、福岡など7府県を追加する方針を決定した。先の1都3県と合わせて、宣言の対象地域は11都府県に拡大した。

一方、NHKの世論調査によると菅内閣の支持率は、不支持が支持を上回って、初めて逆転した。政権発足から4か月目で、早くも支持・不支持が逆転したことになる。コロナ対応の迷走と合わせて、菅政権は危険水域に近づきつつある。今回の緊急事態宣言をめぐる政権の対応と、世論の反応を分析する。

「宣言」急拡大 後追い・迷走

菅首相は今月7日、東京など1都3県に緊急事態を宣言し、飲食店の営業の時間短縮に重点を置いたコロナ対策に乗り出したが、1週間も経たないうちに宣言対象地域の拡大に追い込まれたことになる。1週間前には、大阪などへの宣言発出は必要はないとの考えを示していた。

また、この間、大阪府や愛知県の知事からは、政府に対して宣言要請の意向が伝えられていたが、ズルズルと延ばしているうちに感染が拡大。結局、大阪・兵庫、京都の関西3府県、愛知・岐阜の東海2県、福岡、栃木の7府県の追加に広がった。

緊急事態宣言をめぐって、菅首相は年末の時点では、宣言自体に否定的な考えを示していた。しかし、大晦日に感染者が急増、東京など1都3県の知事から宣言の検討を求められ、宣言発出へ大きく方針転換を迫られた。

このように今回の菅政権の対応は、知事の側の要請の後追いや、対応のブレ・迷走が目立った。その背景には、感染状況の把握や予測をはじめ、感染抑止の具体策づくり、検査の拡充や病床の確保などの医療提供体制の整備、さらには国と地方自治体との連携・調整など危機管理機能が十分改善されていないことが浮き彫りになったといえるのではないか。

 内閣支持・不支持が逆転、発足4か月

その菅内閣の支持率だが、NHKの1月の世論調査によると◆支持が40%に対して、◆不支持が41%、支持と不支持が逆転した。先月との比較では、支持が2ポイント減少、不支持が5ポイント増えた。支持と不支持が逆転したのは、今回が初めてだ。(調査は1/9~11日、有効回答59%、データはNHK WEB NEWSから)

支持・不支持が逆転した要因の1つは「緊急事態宣言」だ。「適切だ」は12%と少なく、「遅すぎた」が79%、実に8割にも達している。

また、コロナ対策をめぐる「政府の対応」については、「評価する」が38%に対して、「評価しない」は58%で、6割に達している。「コロナ対応の評価の低下」が、内閣支持率全体を下げる大きな原因になっている。

さらに緊急事態宣言の期限の2月7日までに宣言が解除できるかどうか。「できると思う」はわずか6%、「できないと思う」が88%。菅首相は「1か月後には、必ず事態を改善させる」と強調するが、世論の多数は信用していない。

さて、菅内閣の支持・不支持逆転は、9月の政権発足から4か月目。9月の支持率は62%だったので、22ポイントの大幅な下落。「支持の3分の1」がはがれ落ちた。逆に不支持は、9月の13%から3倍以上も増えたことになる。

歴代政権の支持率逆転の時期を調べてみると◆麻生政権は政権発足から3か月目。◆福田康夫政権も同じく3か月目だった。麻生、福田両政権ともその後、支持率が回復したことはなかった。支持率が一旦、急落すると回復・復元は極めて厳しいことを物語っている。

  政権”危険水域” 今後のカギは?

菅首相は13日夜の記者会見で「緊急事態宣言の対象地域を大都市圏に拡大したことで、全国の感染拡大の防止に効果が期待できる」と強調するとともに、重ねて政府の対策に国民の協力を呼びかけた。また、11の国と地域で実施しているビジネス関係者らの往来を停止して、水際対策を強化する方針を示した。

しかし、感染拡大を防ぐための対策については、飲食店の営業時間短縮を重点に進めるなど従来の方針の説明に止まり、ひっ迫する病床確保についても具体策は示されなかった。

緊急事態宣言が東京など1都3県に出された後もビッグデータによる調査では、人出は思ったほど減らず、新規感染者数や重症者数も高止まりの状況が続いている。政権の当面の最大の課題であるコロナ対策が思うような成果を上げることができておらず、世論の支持離れと合わせると、菅政権の政権運営は”危険水域”に近づきつつあるとみている。

さらに18日からは通常国会が召集され、野党側の厳しい追及も予想される。コロナ対策については、政府・与党は、第3次補正予算とコロナ対策のための特別措置法の改正案を先行して成立させ、主導権を確保したい考えだ。

しかし、特別措置法は仮に2月初めまでに成立したとしても、周知期間などが必要で、実施は2月中旬以降とみられる。つまり、2月7日の緊急事態宣言の期限切れには間に合わないので、今後、新たな緊急の対策を打ち出すかどうか問題になるのではないか。

緊急事態宣言が1か月後に解除できないとなると宣言が長期化し、経済や社会への影響はさらに大きくなる。菅首相の政治責任を問う意見が強まることも予想される。

通常国会では、政治とカネの問題、安倍前首相の「桜を見る会」前夜祭や、吉川元農相の事件もあるが、最大の焦点は、コロナ対策。緊急事態宣言の期限内に効果をあげることができるかどうか。その結果は、菅政権の政権運営や政局のゆくえを大きく左右することになる。