”綱渡りのコロナ対策” 菅政権 宣言延長

新型コロナウイルス対策として7日、東京、大阪など4都府県に出されている緊急事態宣言が今月31日まで延長されることが決まった。また、愛知県と福岡県を対象地域に加えることになった。

一方、首都圏3県などに適用されている「まん延防止等重点措置」についても期限を今月31日まで延長するとともに、北海道、岐阜県、三重県を追加し、宮城県は対象から外すことになった。

今回の方針で、宣言の対象は東京、大阪、兵庫、京都、愛知、福岡の6都府県に拡大する。重点措置の適用は、北海道、埼玉、千葉、神奈川、岐阜、三重、愛媛、沖縄の8道県に広がる。

今回の緊急事態宣言、菅首相は「人流減少の目的は達成できた」と成果を強調するが、宣言延長が決まった7日、全国の新規感染者数は6000人を超え、死者は145人で過去最多を記録、感染状況は急速に悪化している。

これに対して、菅政権は”ワクチン接種頼み”が実状で、接種完了までに変異株の猛威を抑え込めるか、”綱渡りのコロナ対策”が続くことになる。菅政権のコロナ対応を探ってみる。

  3度目宣言 “大きな効果見えず”

今回の緊急事態宣言の効果について、菅首相は7日夜の記者会見で「ゴールデンウイークに合わせ、人流を抑える措置が必要と考え、幅広い要請を行った。東京や大阪の人流は4月はじめと比較して、夜間は6割から7割、昼間は5割程度、減少している。人流の減少という初期の目的は達成できた」と宣言効果を強調した。

ところが、大阪、東京などの感染は収まらず、宣言の延長・追加を決めた7日、全国の新規感染者数は6000人を超え、1月16日以来の高い水準になった。重症者数は1131人で過去最多、死者も145人と過去最多、事態は急速に悪化している。

専門家は、宣言の効果は来週にならないとわからないとしながらも、変異株の急拡大に警戒を強めている。新規感染者、重症者、死者はいずれも極めて高い水準で、3度目の緊急事態宣言の対策はこれまでのところ、大きな効果は見えない。

 具体策なく、ワクチン接種頼み

それでは、菅政権は緊急事態宣言を延長・追加して、どんな対策を打ち出そうとしているのか。

7日夜記者会見した菅首相は「大型連休という大きな山を越えた今後は、通常の時期に合わせた高い効果の見込まれる措置を徹底して対策を講じていく」とのべた。但し、「高い効果の見込まれる対策」としては、飲食店における酒の提供や持ち込みを制限する程度で、新たな具体策を打ち出すことはできていない。

菅首相が強い意欲を示しているのが、高齢者のワクチン接種だ。「来週から、全国の自治体でワクチン接種が始まる。今月24日からは、東京、大阪の大規模接種センターでも始まる。1日100万回の接種を目標とし、7月末を念頭に、希望する高齢者に2回の接種を終わらせるよう、政府としてあらゆる手段を尽くして自治体をサポートしていく」と力を込めた。

このワクチン接種、先行接種の医療従事者の接種は、2回接種が終わった人は2割程度で進んでいない。一方、全国の1700余りの市町村では、高齢者向けのワクチン配分量がわからないのと、接種に当たる医師や看護婦の確保に四苦八苦しており、8月以降までかかる自治体もあるとみられている。また、1日に100万回もの接種体制が可能なのかどうか、詰めが必要だ。

さらに高齢者に続いて、一般国民の接種はどうなるか。菅首相は「来月をめどに高齢者接種の見通しがついた市町村から、基礎疾患がある方々を含めて、広く一般の方々にも接種を開始したい」と意欲を示した。但し、一般国民への接種を終える時期の目標については、具体的に言及することは避けた。

このように菅首相のコロナ対応は、ワクチン接種を感染抑制の戦略に位置付けている。一方で、それ以外の対策、例えば変異株対策をはじめ、新規感染者の抑え込み、PCR検査の拡充、入院できない感染者の宿泊・治療提供体制などはどうするのか。

また、休業や時間短縮などの事業者、生活支援をどうするのかも具体策は示されていない。ワクチン頼みで、それ以外の感染抑制対策、医療提供体制改善の内容も乏しく、危うさを感じる。

 東京五輪・パラ開催方針は変えず

コロナ感染拡大との関係で注目されている東京オリンピック・パラリンピックの開催について、菅首相は「心配の声が上がっていることは承知している。選手や大会関係者の感染対策をしっかり行い、国民の命と健康を守っていくことが大事だ」とのべた。

そのうえで、「IOCと協議の結果、各国選手へのワクチン供与が実現することになった。日本の選手についても世界の選手の中の一部として接種をしたい。さらに選手や大会関係者と一般国民が交わらないように滞在先や移動手段を限定したい。選手は毎日検査を行うなど厳格な感染対策を検討している」とのべた。

菅首相は、各国選手のワクチン接種や大会関係者の滞在先の対策を徹底して、開催する方針は変える考えはないようだ。

一方で、海外の感染状況をはじめ、数万人ともいわれる大会関係者を国民と接触できないような管理が疑問だとして、開催の中止や延期を求める意見も内外に根強い。この点についても今後どのような展開になるのか、不確定要素を抱えている。

 衆院選とも関係 コロナ対策論争を

最後に政治との関係を見ておきたい。菅首相は7日、月刊誌のインタビューに答えて注目すべき発言をしている。衆議院の解散・総選挙の時期について、自民党総裁としての任期が満了となる9月末までの間で検討していることを明らかにした。

菅首相のワクチン接種や東京五輪の考え方も、このインタビューと重ね合わせると、わかりやすい。端的に言えば、菅首相の政権戦略・選挙戦略は、感染拡大はワクチン接種で抑え込むとともに、東京五輪・パラリンピックは何としても開催して成功させ、秋の解散・総選挙で勝利したい腹づもりとみられる。

このため、ワクチン接種、東京五輪・パラリンピックは政権の総力をあげ強力に進めるとみられる。一方、私たち国民の側からみると、ワクチン接種が完了するまでにはかなりの時間がかかる。接種完了までにどんな感染対策を進めるのか、変異株対策を含め具体的な対応策を示してもらいたい。

ワクチン接種についても、肝心のワクチン確保量や地方自治体への配分情報は、余りにも少ないし遅い。ワクチン接種計画の詳細版を早急に出すべきである。

そのうえで、感染抑止の総合対策やワクチン接種、経済・社会立て直しをどうするのか。国会で政権与党と野党の双方が真正面から議論して、国民に判断材料を示してもらいたい。