先の衆院選挙の後、初めての本格的な論戦の舞台となる臨時国会は29日、天皇陛下をお迎えして開会式と石破首相の所信表明演説が行われた。これを受けて、12月2日から各党の代表質問が始まり、政府・与党と野党側との間で活発な議論が戦わされる見通しだ。
この国会は、先の衆議院で自民、公明の両党が15年ぶりに過半数割れしたことで、国会の審議や与野党の攻防も大きく様変わりすることになりそうだ。そこで、この国会はどこをみておくとわかりやすいのか、注目点を3つに絞ってみていきたい。
①政治改革、年内決着つけられるか
最初に国会の日程を確認しておくと29日の石破首相の所信方針演説を受けて、12月2日から4日まで衆参両院で各党の代表質問が行われる。続いて、石破首相にとって就任以来初めての予算委員会が5日、6日の両日行われた後、9日から今年度の補正予算案が審議入りする。会期は21日までの24日間になる。
この臨時国会の注目点の第1は、先の衆院選挙でも大きな争点になった自民党派閥の裏金問題のけじめと政治改革について、国会の場で決着をつけることができるのかどうかだ。
石破首相は政府・与党連絡会議で、政治とカネの問題について「国民の多くが未だに納得していないという事実を重く受け止めている」とのべるとともに「責任政党として、各党との協議を率先して行っていく」とのべ、年内の政治資金規正法の再改正をめざして各党との協議を急ぐ考えを表明した。
自民党は21日の政治改革本部で、政策活動費の廃止などを盛り込んだ政治改革案をまとめ、これを基に各党協議に臨む方針だ。一方、焦点の企業団体献金の見直しについては触れていない。
これに対して、立憲民主党や日本維新の会、国民民主党、共産党など野党7党の国会対策委員長らは28日に会談し、政策活動費や企業団体献金の取り扱いを含む政治改革で成果を上げられるよう協力して取り組んでいく方針を確認した。
政治改革をめぐっては最大の焦点である企業団体献金について、野党側が廃止の方針を打ち出しているのに対し、自民党は存続の考えを変えておらず、双方の意見は対立したままだ。
また、野党間でも立民、維新、共産などの各党は廃止の方針を打ち出しているのに対し、国民民主党は慎重な姿勢をのぞかせるなど温度差があるのも事実だ。
このため、政治改革の具体的な内容や制度設計の問題のほか、企業団体献金の扱いが最後まで残る可能性がある。年内に政治資金規正法の再改正まで進むことができるかどうか見通しはついていないのが実状だ。
②「103万円の壁」引き上げ幅が焦点
注目点の2つ目は「年収103万円の壁」の問題だ。先の衆院選挙で国民民主党が訴え、国民の大きな関心を集めた。そして選挙後、与党側は野党の協力を得るねらいもあって、国民民主党との間で協議を続けてきた。
その結果、自民・公明の両党は20日、国民民主党との間で、政府の新たな経済対策に、所得税がかかる年収の最低額である「103万円の壁」の引き上げを盛り込むことで合意した。これを受けて3党は、税制会長などが引き上げ幅や、財源などについて協議を続けている。
この「年収103万円の壁」について、石破首相は29日に行った所信表明演説で「2025年度税制改正の中で議論し引き上げる」と表明した。政府・与党としては、こうした考えを示すことによって国民民主党が補正予算案に賛成することを期待している。
これに対して、国民民主党の幹部は「一番の問題は非課税枠の引き上げ幅で、178万円までの引き上げを強く求めている。引き上げ幅が不十分な場合は、税制協議などから離脱することもありうる」と強気の姿勢をみせている。
自民、公明両党と国民民主党との協議が最終的に整うのかどうかは、個別の政策面だけでなく、補正予算案の賛否、さらには石破政権の存続そのものにも影響を及ぼすことになる。
一方、立憲民主党は「130万円の壁」、社会保険料の負担の軽減策を求める法案を提出しており、こうした社会保障制度のあり方も含めて活発な議論が交わされる見通しだ。
③ 少数与党国会、新たな政治の模索を
注目点の3つ目は「少数与党政権に転じた石破政権と国会のあり方」の問題だ。まず、石破政権は衆議院では与党過半数の勢力を失ったので、野党の協力を取りつけながら国会や政権を運営せざるをえない。
所信表明演説でも石破首相は「他党にも丁寧に意見を聞き、可能な限り幅広い合意形成が図られるよう真摯に、謙虚に取り組んでいく」との考えを示した。
問題は、こうした姿勢で懸案の処理が進むかどうかだ。これまでの石破首相の政権運営をみていると、自民党内の反応を伺いながら対応していく局面が多かった。
自民党のベテランは「党内基盤が弱く、少数与党政権という厳しい状況はわかるが、政権のトップとして自らの考えを整理して打ち出し、国民に直接訴えていく姿勢が必要ではないか」と指摘する。
懸案の政治改革や「103万円の壁」などで石破首相が自らの考えを示し、党内や国民を説得しながらやり抜く覚悟が必要だというわけだ。
自民党の支持率もNHK世論調査では、衆院選挙後も30%程度に止まり低迷が続いている。衆院選大敗の原因になった「政治とカネの問題」について、未だに自浄能力が発揮できていないと国民に見透かされているからではないか。政権、自民党ともにこうした点の自覚がないと、党の再生は難しいと思う。
一方、国民は野党に対しても今の政治を変えていく意欲や能力があるのか見極めようとしているように見える。先の衆院選で国民は「与党を過半数割れ。但し、比較第1党は自民党」との判断を示した。
与党、自民党に厳しい評価を示す一方で、野党に対しても比較第1党の座を与えなかった。野党の主要な役割は政権をチェックすることだが、それに止まらず、形骸化が目立つ国会審議のあり方などを変えていく意欲や力を持っているのか試そうとしているのではないか。
これまでのところ野党の中では、国民民主党のように与党に接近し、個別の問題で前進を図る動きが出ている。これに対し立憲民主党は、国会の開かれた場で与野党が議論し合意を形成していく道をめざしているようにみえる。
与党が過半数を割り込み、どの党も単独で過半数を獲得する政党がないという新たな政治状況の中で、予算案や重要な政策をどのような形で決定していくのか、その最初の取り組みが今度の臨時国会だ。
少数与党政権自体30年ぶりの事態なので、政権や国会が多少の停滞や混乱を来すのはやむをえないのでないか。試行錯誤を重ねながら、政権与党と野党が国会を舞台に議論を尽くし、できるだけ早期に「新しい政治の仕組みとルール」をつくり出すことが最も必要ではないかと考える。(了) ★追記(12月1日午後1時半)石破首相の所信表明演説部分は既に終了したので、過去形に表現を手直しした。