臨時国会が20日召集され、先月内閣改造を終えた岸田政権と野党側との間で、物価高・経済対策を中心に激しい論戦が交わされる見通しだ。
今度の国会は衆参統一補選の最終盤に召集されるため、岸田首相の所信表明演説は初日の20日ではなく、統一補選の投開票が終わった後の23日に行われる。これに対する各党の代表質問は24日から始まり、会期は12月13日までの55日間だ。
また、細田衆院議長が体調不良で辞任し、後任に額賀元財務相が20日に選ばれる運びだ。このように国会冒頭の日程は、通常とは異なる形になる。
さて、この臨時国会をめぐって与野党の間では年内解散説が消えないが、内外に山積する課題・難題を考えると衆議院を解散して2か月近くも政治空白を作るような状況にはないと思う。
このため、”衆院解散をめぐる駆け引きより、懸案解決に向けた政策論争”を徹底して行ってもらいたい。実際にどのような展開になるか、この国会の焦点を考えてみたい。
新閣僚の資質、政権の政治姿勢は
今度の国会は、岸田首相が9月に行った内閣改造・自民党役員人事の後、初めて開かれる国会だけに、野党側は衆参予算委員会などの場で、初入閣の11人を中心に閣僚としての考え方や資質などを追及していく方針だ。
このうち、加藤鮎子・こども政策担当相は、自らの資金管理団体が法律の上限を超えるパーテイー券250万円を受け取っていたことが明らかになった。同じように「政治とカネの問題」を抱える閣僚がいることから、政治資金や閣僚の資質などをめぐって激しいやり取りが交わされる見通しだ。
また、自民党が去年行った点検(調査)で、旧統一教会と接点があった新閣僚4人がいることから、野党側はこうした点についても取り上げる構えだ。
さらに、木原防衛相が今月15日、衆院長崎4区の補欠選挙の応援で、自衛隊の政治利用とも受け取られる演説を行い、その後、発言の一部を撤回した問題についても取り上げ、責任を追及することにしている。
岸田政権は今月4日に発足から2年が経過したことから、野党側は、岸田首相のこれまでの政権運営や政治姿勢についても質すことにしている。
物価対策と経済全体の基本方針を
次に政策面では、物価高騰が続く中で、物価対策と経済政策をめぐる議論が大きな焦点になる見通しだ。岸田首相は新たな経済対策を10月中にとりまとめるよう指示するとともに、裏付けとなる補正予算案を提出する方針だ。
その経済対策の中では、ガソリンなどの燃料油と電気、ガスの料金を下げる負担軽減措置の継続をはじめ、持続的な賃上げに向けて、賃上げした企業に対する減税制度の拡充、低所得世帯への支援策などが盛り込まれる見通しだ。
一方、岸田首相は「税収増を国民に適切に還元する」との考えを示している。これは「期限付きの所得減税」に踏み切る意向とみられている。経済対策がまとまるのは10月末か11月はじめ、補正予算案を国会に提出するのは11月下旬になる見通しだ。
国民が知りたいのは、当面の物価高対策だけでなく、「経済全体のかじ取り」をどのように行っていくのか、「岸田政権の基本方針」だ。
消費者物価は3%以上の上昇が12か月連続、実質賃金のマイナスは17か月も続いている。1ドル=150円寸前の大幅な円安は物価上昇の要因だが、金融緩和はこのまま続けるのか。大型補正予算を組んだ場合、インフレの加速にならないのか、知りたい点は多い。
国の財政については、コロナ対策もあって補正予算はこの3年間、73兆円、36兆円、31兆円と異例の規模が続いた。コロナ感染が収まった今、補正予算案は通常の数兆円規模に戻すのか、それとも大型補正を続けるのかの問題もある。
さらに、所得減税の実施に踏み切る場合は、年末に結論を出す予定の防衛増税や、少子化対策の負担増との関係はどうなるのか「減税と負担増との関係」がさっぱり、わからない。
つまり、岸田政権の中期の経済運営は、何を重点目標に設定して、どのような政策を組み合わせて実施するのか「経済政策の全体像」を提示してもらいたい。
そのうえで、与野党がそれぞれの党の方針も交えて議論を徹底して行うことが、この国会の役割であり、政治の責任だ。
旧統一教会の財産保全などの懸案も
このほか、去年秋の国会から持ち越してきた懸案も多い。まずは、旧統一教会の問題だ。政府が教団に対する解散命令を請求したのを受けて、立憲民主党や日本維新の会は被害者の救済にあてるため、教団の財産を保全する法案を国会に提出する方針だ。
これに対して、自民、公明の与党側も対応を検討していく考えだ。今後、与野党が協調して法案を国会に提出することも予想され、臨時国会の焦点の1つになる見通しだ。
また、先の通常国会で問題になったマイナンバーカードをめぐるトラブルについて、政府は11月末までに総点検を行い、その結果を12月上旬に報告する予定だ。健康保険証を来年秋に予定通り廃止するのか、それとも廃止の延期を行うのか、議論が再燃することになりそうだ。
解散より、内外の難題に向き合う国会を
この臨時国会をめぐって、与野党の間では「岸田首相は、年内解散を考えているのではないか」との憶測が飛び交った。今でも11月下旬に補正予算を提出、短期間で成立させた後、年末解散があるのではないかとの見方は消えていない。
個人的な見通しを言えば、岸田内閣の支持率と自民党の政党支持率も低迷している今の状況では、勝敗面からも解散の確率は極めて低く、年末解散はないとの見方をしている。
また、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化に加えて、中東のイスラエルとハマスの軍事衝突の激化で、世界の平和と民主主義が危機的状況を迎えているときに、解散・総選挙で政治空白を生むような選択は取るべきではないと考える。
端的に言えば、この臨時国会は「解散よりも、内外の難題に向き合い、一定の結論を出す国会」にすべきだ。こうした視点で国民の多くが、岸田政権と与野党の対応を評価し、近い将来行われる選挙に活かしてもらいたい。(了)