“自民派閥の裏金疑惑”政権中枢を直撃

自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題で、最大派閥の安倍派(清和政策研究会)に所属する松野博一官房長官側が、去年までの5年間に1000万円を超えるキックバックを受け、政治資金収支報告書に記載していない疑いがあることが明らかになった。

これは8日朝、朝日新聞が報道したのに続いて、そのほかの新聞・放送各社の報道で明らかにされたものだ。東京地検特捜部もこうした資金の流れなどについて、実態解明を進めているものとみられる。

一方、NHKは8日夜のニュースで、松野官房長官側のほかにも、安倍派幹部で事務総長を務める高木毅国会対策委員長や、世耕弘成参議院幹事長側も1000万円を超えるキックバックを受けていることが新たにわかったと報道した。

これによって、政治資金パーテイーをめぐる裏金疑惑は、岸田政権の中枢を直撃する可能性が大きくなった。自民党関係者によると、臨時国会閉会後に検察当局が本格的な捜査に着手するとみており、岸田政権は大きく揺らぐことも予想される。

 裏金疑惑、事実関係の確認なされず

自民党の5つの派閥による政治資金パーテイー収入の不記載問題は、急展開した。今月1日には、最大派閥の安倍派では、パーテイー券の販売ノルマを設定し、ノルマを超えて集めた分の収入を議員側に裏金としてキックバックしていたことが明らかになり、その収入は去年までの5年間で数億円に上るものとみられている。

その後、安倍派の複数の議員が、1000万円を超えるキックバックを受けていた疑いが明らかになったほか、派閥側、議員側ともに政治資金収支報告書に記載していなかったものとみられ、裏金として環流していた実態が浮き彫りになった。

さらに冒頭に触れたように8日には、安倍派の事務総長の経験者で、官房長官の松野氏も1000万円を超える裏金を受け取っていたことが報じられた。裏金問題は、岸田政権の中枢を直撃した形になり、与野党に衝撃が広がった。

この問題は、8日に開かれた衆参両院の予算委員会でも取り上げられ、立憲民主党は、事実関係を厳しく追及するとともに松野官房長官に辞任するよう迫った。

これに対し、松野官房長官は「派閥で事実関係の確認が行われている最中であり、刑事告発を受けて捜査が行われている。私の政治団体についても精査して適切に対応していきたい」と同じ答弁を何度も繰り返し、事実関係の確認を避けた。

また、松野官房長官は「引き続き所管する分野の責任を果たして参りたい」とのべ、辞任する考えのないことを強調した。岸田首相も「政府のスポークスマンとして、しっかりと発信してもらう」と更迭する考えのないことを強調した。

岸田首相は一連の裏金疑惑について「自民党全体の問題として危機感を持っており、一致結束して対応していく。その第一歩として、信頼回復への道筋が明らかになるまで、政治資金パーテイーを自粛すること決めた」とのべ、今後の状況をみながら、さらなる対応をとる考えを示した。

このように岸田政権の対応は、危機感を表明するものの、各派閥のパーテイーによる資金集めや収支の実態がどのようになっていたのか、問題の核心に触れる説明はみられなかった。これでは、国民の疑問や疑念に答えることはできない。

 官房長官などの進退、検察の捜査が焦点

問題は、これからの展開はどのようになるかだ。8日の集中審議を受けて、野党側は「松野官房長官は説明責任を果たせていない」として、辞任要求や、証人喚問要求を強めていく方針だ。

与党内からも「今のような答弁では、内閣の要としての役割が果たせていない」などの厳しい意見も聞かれ、辞任は避けられないとの見方も出ている。

また、松野官房長官のほか、高木国対委員長や、世耕参院幹事長などの疑惑が事実であれば政治責任が厳しく問われ、進退問題につながることも予想される。

国民世論の厳しい評価が示されると、閣僚や党役員の一部交代に止まらず、内閣改造が必要になるとの見方もある。

さらに、最も大きな焦点は、検察当局の捜査のゆくえだ。今の臨時国会が13日に閉会すれば、安倍派の会計責任者や、事務総長経験者の幹部、さらには多額の裏金を受領していた議員などの事情聴取が行われ、立件に向けての捜査が本格化するものとみられる。

このため、岸田政権は、政治資金問題への対応に加えて、年末に向けて新年度予算の編成作業も待ったなしの状態だ。この2つの問題をどのように乗り切っていくのか、岸田首相は早急な態勢立て直しを迫られている。(了)

★追記(9日22時)自民党安倍派の政治資金パーテイーをめぐる問題で、新たに安倍派座長の塩谷立・元文科相、萩生田光一・政務調査会長、西村康稔・経産相がパーテイー収入の一部について、キックバックを受けていたとみられることが明らかになった。これで、安倍派の「5人衆」と「座長」の幹部6人は、いずれも派閥から裏金のキックバックを受けながら、政治資金収支報告書に記載していない疑いがあることが明らかになった。