自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる裏金事件で、東京地検特捜部は19日、政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で、安倍派と二階派の会計責任者を在宅起訴し、岸田派の元会計責任者を略式起訴した。
一方、安倍派の幹部7人や二階元幹事長など派閥の幹部については、会計責任者との共謀は認められないとして、立件を見送る判断をした。これによって、検察の捜査は事実上、終結し、今後は政治の側、国会を舞台に与野党の議論や攻防に焦点が移る見通しだ。
こうした中で、岸田首相は18日夜、自らが会長を務めていた「宏池会」=岸田派でも政治資金収支報告書の不記載があったことから、派閥の解散を検討していることを記者団に明らかにした。
派閥解散の意向は、他の派閥幹部にも伝えられていなかったことから、党内に大きな衝撃をもって広がり、蜂の巣をつついたような状況になった。果たして、岸田首相は主導権を確保できるのか、逆に求心力を失うのか、混沌としている。
さて、私たち国民は、こうした政界の一大スキャンダルをどう受け止め、対応していけばいいのか。大事なことは、問題の核心は何かを見抜くこと。今回は「事件の実態と政治の責任」、特に「政治の責任」に関心を持ち、監視していくことが必要ではないかと考えている。
納得いかない検察処分、どうするか?
今回の東京地検特捜部の処分では、裏金事件を起こした安倍派と二階派、岸田派の主要幹部議員はいずれも立件を逃れる形になった。「刑事処分を受けるのは会計責任者、まさにトカゲの尻尾切り、納得がいかない」と受け止めた国民は多かったのではないか。
東京地検特捜部も派閥幹部の立件に向けて、捜査を尽くしたと思うが、肝心の法律、政治資金規正法がかねてから”ザル法”と呼ばれてきたように、会計責任者が責任を取り、議員の責任は問いづらい立て付けになっている。
このため、会計責任者と派閥幹部の共謀を証明する証拠を集めることが難しかったので、立件を見送らざるをえなかったものとみられる。今後、検察審査会への申し立てが行われれば、捜査が再度、行われる可能性がないわけではないが、立件となる保証はない。
そこで、捜査が十分だったかどうかは検察審査会に委ね、今後は、政治の場、国会での与野党の議論や法改正の内容などを考えた方が生産的だ。政治の信頼を失墜させた責任は大きく、刑事責任を免れても「政治的道義的責任」を問われることは十分ありうる。
その場合、議論の仕分けや進め方の順番をきちんとしておかないと「それぞれの立場の意見の表明や、駆け引きが延々と続き、結局、曖昧なまま先送り」となりかねない。
実態解明と政治責任、順序が重要
それでは、政治の場でどのように取り組みを進めるべきか。結論を先に言えば「実態の解明と政治責任」を明確にしたうえで、「再発防止や改革」を考えていく順番が重要だ。
今回も、各党の再発防止や改革案の中身の議論を急ごうとする動きもあるが、これをやってしまうと、不祥事の実態を踏まえていないので、制度・形だけ整ったが、使い物にならない恐れがある。
「実態の解明」、例えば、安倍派の裏金作りと還流の実態はどうなっていたのか、肝心な点は明らかになっていない。
安倍元首相が首相を辞めて派閥の会長に就任した後、裏金のキックバックの廃止を決めたものの、銃弾に倒れて死去した後、派閥幹部が協議して還流を再開したとされるが、誰が関与したのか。
また、安倍派の参議院議員は、選挙がある年はノルマを上回った分だけでなく、全額キックバックの優遇を受けていたとされるが、どのような経緯で決めたのか。
検察の事情聴取に対し、安倍派の事務総長や経験者らの幹部は「知ってはいたが、『会長案件』で、自分は関与していない」と説明したと伝えられている。自民党関係者から「まさに”死人に口なし”、亡き会長に責任を押しつける情けない対応」と批判の声も聞く。
リクルート事件の際には、中曽根元総理、竹下元総理の証人喚問も行われた。安倍派の幹部7人や、二階派、岸田派の幹部は、国会でどう説明するのか。説明が不十分であれば、参考人招致や証人喚問なども行うべきではないか、野党の力量も問われる。
「事件の実態」を明らかにするため、事実関係の解明を進めること、その上で、原因と問題点を明らかにするとともに「政治責任」をどう果たすのか、けじめをつけることが重要だ。
一方、再発防止や政治改革の中身は、かねてからの懸案で、与野党ともにやるべきことはわかっている。政治資金の透明性を高めること、連座制を導入して議員に対する罰則を問えるようにすることなどが主な柱になるとみられる。
首相の派閥解散方針、問われる指導力
ところで、岸田首相が打ち出した自らの派閥の解散方針が、波紋を広げている。岸田派に続いて、安倍派や二階派も解散する方針を決めた。これに対して、麻生派と茂木派からは反発する声が出ているほか、森山派は様子見の構えだ。
自民党内では「今、国民は自民党の主張に耳を貸さない状態なので、派閥解散という大胆な対応は必要だ」と首相の決断を支持する意見がある。これに対して「事前の説明もなく、政権維持のため国民受けをねらった自己保身の方針だ」と反発する声も聞かれる。
野党からは「真相解明から目をそらすための目くらまし」あるいは、「自民党得意の論点ずらし」などの批判も聞かれる。
国民としては、どうみるか。岸田首相の発言は、メデイアの関心を引きつけ、その結果、低迷する支持率を一時的に引き上げる効果があるかもしれない。但し、最近の国民の目は肥えており、長続きはしないのではないか。
岸田首相は元々、派閥効用論者とみられており、首相就任後も派閥を離脱せず、先月急に会長を辞任した。通常国会を間近に控えて、今回の不祥事をどのような基本方針で乗り切るのか、その覚悟と党内の意見をとりまとめていく指導力が問われている。
自民党は近く政治刷新本部で、派閥の存廃を含めた党改革の議論に入り、26日の通常国会召集日までに中間報告をとりまとめる予定だ。派閥の存廃をめぐって党内に対立を抱えている中で、派閥のあり方について、どこまで踏み込んだ方針を打ち出せるかが焦点だ。
一方、通常国会は、自民党の裏金事件を受けて、今年は召集日当日の26日は開会式だけに止め、29日に先に「政治とカネ」の集中審議を衆参両院で行った後、翌30日に岸田首相の施政方針演説など政府4演説を行う異例の幕開けとなる。
まずは、焦点の「裏金事件の実態」はどうなっていたのか、政党、議員はどのように「政治責任」を果たしていくのかを明確にしたうえで、国民の信頼回復につながる具体策を打ち出せるか、しっかり監視していきたいと考えている。(了)