裏金問題 政倫審後の展開は?

自民党の派閥の裏金問題を受けて衆院政治倫理審査会が18日開かれ、安倍派幹部の下村・元政調会長が出席した。下村氏は、焦点の派閥からのキックバックを継続することになった経緯について「本当に知らない」などの説明を繰り返し、新たな内容はなかった。

これで、各派閥の幹部など10人が衆参両院の政治倫理審査会で弁明を行ったが、政治資金規正法違反の裏金問題に派閥幹部がどの程度関与していたのか、どのような経費に使われていたのかといった実態の解明にはほど遠い結果に終わった。

野党側は、証人喚問に切り替えて実態解明を続けるよう自民党に迫る方針だ。これに対して、岸田首相は自民党として関係議員の処分を急ぎ、局面の転換をめざすものとみられる。

政治倫理審査会の審理が一巡した後、裏金問題は今後どのように展開することになるのか、探ってみたい。

 実態解明進まず、取り組み姿勢も疑問

まず、これまでの政治倫理審査会の取り組みについて、整理しておきたい。最大派閥・安倍派の座長を務めた塩谷・元文科相、事務総長経験者の西村・前経産相など幹部6人は、いずれも派閥の政治資金パーテイー収入の会計や運用には「関与していない」「知らされていなかった」などと関与を否定した。

また、派閥会長に就任した安倍元首相が一昨年4月、派閥からのキックバックを取り止める方針を決めたものの、安倍氏死去後、8月の派閥幹部の会合を経て、キックバックが継続されることになった。この経緯についても、各幹部からは「誰がどのような発言をしたのか記憶にない」などあいまいな説明が続き、事実関係は明らかにならなかった。

さらに、参院選挙の年には、改選議員は派閥に収めるノルマが免除され、全額キックバックされる仕組みが続いてきた点についても、世耕・前参院幹事長は「事件が報道されて初めて知った」と説明し、与野党の議員を唖然とさせた。

このように裏金還流がどのような経緯で決定され、運用されてきたのかという核心部分については、今回の政倫審では全く明らかにならなかった。

派閥の会長は強力な権限を持っているのは事実だが、派閥の政治資金集めの意思決定や運用は、すべて会長と事務局長で決まり、派閥幹部は完全に除外されることがありうるのか、派閥取材を行ってきた者として大きな疑問が残ったままだ。

また、仮に派閥幹部がその時点で知らなかったことがあったとしても、個人として派閥の先輩や、事務担当の職員に尋ねるなどの努力があってもいいと思われる。しかし、そうした事実関係を究明しようとする姿勢・行動は質疑からうかがうことはできなかった。

 証人喚問要求、処分のゆくえは

さて、問題はこれから裏金問題は、どのように展開することになるのかという点だ。立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党の野党4党の国会対策委員長は19日に会談し、政倫審では実態解明につながらなかったとして、安倍派幹部6人について、予算委員会で証人喚問を行うよう要求することで一致した。

証人喚問の対象になった6人は、塩谷・元文科相、下村・元政調会長、松野・前官房長官、西村・前経産相、高木・前国対委員長の安倍派幹部と、政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で起訴され、自民党を除名処分となった池田佳隆衆院議員だ。

参議院側は、既に立憲民主党が15日に政倫審に出席した世耕・前参院幹事長ら安倍派の3人について、証人喚問を行うよう自民党に求めている。

また、野党側は、裏金問題に関与した83人の現職のうち、衆参両院の政倫審に出席していない残りの議員は出席して説明するようを求めていく方針だ。

このように野党4党は当面、安倍派に的を絞る形で証人喚問を要求して、与党側に攻勢をかける考えだ。

これに対して、自民党の浜田国会対策委員長は「証人喚問となると、かなりハードルが高い」として、慎重に対応する考えだ。自民党としては、新年度予算案の成立を最優先に対応していくほか、下村氏の政倫審出席を区切りとして、証人喚問には応じない構えだ。

代わって自民党内では、裏金問題の早期の幕引きを図るためにも関係議員の処分を急ぐよう求める声が強まっている。

岸田首相も先の党大会で、茂木幹事長に関係議員の処分を行うための取り組みを進めるよう指示したことを明らかにした。岸田首相としては、来月上旬にも処分を行い、局面の転換を図りたい考えだ。

但し、この処分問題も、関係議員が82人という多数に上ることに加えて、何を基準に処分を行うのか、難しい問題を抱えている。

党の処分には、除名や離党勧告、党員資格停止、選挙における非公認など8つの段階があるが、どの処分を選択するか問題になる。

また、政治資金規正法の不記載の額や、役職、説明責任の果たし方などを基に判断するとしているが、仮に安倍派の事務総長経験者という役職で処分をすると、事務総長を経験していない萩生田・前政調会長が幹部の枠から外れる。

一方で、萩生田氏は不記載額では2700万円余りと上位にいることから、その責任の重さや線引き、バランスをどう判断するかという難しさもある。党内には、処分を早期に実施できるのか疑問視する声も聞かれ、紆余曲折がありそうだ。

 実態解明、処分に指導力発揮できるか

それでは、国民の受け止め方や評価は、どうか。最新の朝日新聞の世論調査(2月17、18日実施)をみると裏金問題について、△派閥幹部の説明は「十分でない」が90%にも上る。△岸田首相の対応は「評価する」が13%、「評価しない」が81%にも達している。△内閣支持率は22%で低迷、不支持率は67%を記録。

このように国民の多くは、派閥幹部の説明や、岸田首相の対応に強い不満や、疑念を抱いていることが読み取れる。国民の政治不信を払拭するためにも実態解明をさらに努める必要があり、国政調査権に基づく証人喚問も検討する必要があると考える。

また、事実関係が明確にならないと自民党は、党の処分を行うにしても判断材料が整わないことになる。リクルート事件の際には中曽根元総理、東京佐川急便事件の際には竹下元総理が証人喚問に応じた先例もある。

こうした実態解明と、政治責任を明確にする処分、それに再発防止策を盛り込んだ政治改革の法整備を実現することが、この国会の大きな責務だ。

ところが、岸田首相と自民党執行部の対応は、実態把握の調査1つをとっても対応が鈍すぎる。政治改革の中身も、与党の公明党と野党各党は既にそれぞれの改革案をとりまとめている。遅れているのが自民党で、早急なとりまとめが必要だ。

そのうえで、岸田首相は、国民の関心が強い実態解明と処分、それに政治改革の法整備について、具体的な時期を含めて政権の基本方針を明らかにすべきだ。

裏金問題をいつまでもダラダラと対応を引き延ばすのではなく、短期集中で方針を決定し、与野党で協議を進めながら、実行の道筋をつけるべきだ。

政治改革以外でも、日銀が19日の金融政策決定会合で、マイナス金利政策を解除し、安倍政権時代からの大規模な金融緩和策の変更を打ち出した。賃金引き上げと日本経済の活性化、子ども子育て政策の進め方など内外の課題は山積している。

岸田政権と与野党は、懸案の政治改革に早急にメドをつけた上で、与野党がそれぞれ重視する政策を打ち出しながら、競い合う政治を一刻も早く取り戻してもらいたい。(了)