菅氏圧勝 派閥主導の総裁選び

安倍首相の後任を選ぶ自民党総裁選挙は14日投開票が行われ、本命の菅官房長官が圧勝、新しい総裁に選出された。

菅新総裁は、就任後最初の記者会見に臨み「国民のために働く内閣を作っていきたい」と述べ、新型コロナ対策と経済再生に全力を挙げる考えを強調した。焦点の衆院解散・総選挙については、コロナの収束が見通せない限り難しいと慎重な姿勢を示した。

今回の総裁選の結果をどのように見るか。菅新政権は何をめざしているのか、どんなハードルが待ち受けているのか探ってみる。

 菅氏圧勝の背景 派閥全面支援

総裁選の投票結果は、議員票と各都道府県連に3票ずつ割り振った地方票の合計で、◇菅官房長官が377票で、得票率71%。◇岸田政調会長が89票、17%。◇石破元幹事長が68票、13%となり、菅氏が圧勝した。

菅氏圧勝は予想通りだが、背景としては、党内7派閥のうち5つの派閥が相次いで支持に回ったことが大きい。その結果、国会議員票の73%、圧倒的多数を獲得した。小選挙区制の導入で党執行部の権限が強まり、各派閥とも主流派入りしたい思惑が働いたものとみられる。

地方票は、菅氏が63%を獲得、全国各地で幅広い支持を得た。支持する国会議員が自らの支持党員に働きかけた他、安倍首相の病気による辞任表明で”弔い選挙”に似た様相になり、安倍路線の継承を掲げた菅氏へ追い風になった。

さらに、これまで政治家の2世・3世、世襲議員の総理・総裁が続いてきたことから、地方出身で”たたき上げ”の菅氏に党員の期待が集まった面もある。

閣僚経験のある議員に感想を聞くと「これほど緊張感のない総裁選は初めてだ。2000年小渕首相が緊急入院、5人組が後継総裁候補を決めた時に比べても緊張感は乏しかった」。

別のベテラン議員は「今回の派閥の動きを見ていると、金丸信さん登場かと錯覚、昭和の古い総裁選びを思い出した」と話すなど今回の党員投票の省略や、派閥主導の総裁選びの在り方は問題が多いとの受け止め方は根強い。

 石破、岸田両氏の今後は?

次に、敗れた岸田氏、石破氏の今後はどうなるか。

岸田氏は、石破氏に21票差をつけて2位の座を確保。岸田氏は地方票は10票しか獲得できなかったが、議員票で79票を獲得。岸田派は47人と無派閥の5人が基礎票とみられるので、20数票が積み上がった勘定になる。この票はどこから、どんなねらいがあったのか、さまざなな憶測を呼びそうだ。

石破氏は、地方票では42票を獲得したが、議員票は26票に止まった。派閥19人と無派閥など5人の合計24人が基礎票。4回目の挑戦は、今回も主流派に完全に封じ込められた形だ。

新総裁の任期は、安倍前総裁の残り任期の1年。来年9月の総裁選は、2位の岸田氏が残ったとの受け止め方が政界では強い。但し、石破氏も地方票で30%を獲得、なお挑戦の足がかりは残っているとの見方もある。

 菅新総裁「国民のために働く内閣」

菅新総裁は14日夕方の記者会見で、◇新政権の政治姿勢について「国民のために働く内閣、信頼される内閣をめざす」と強調した。

◇内閣改造・自民党役員人事については「総理大臣が代わるので、私の政策の方向性に沿った、改革意欲のある人を思いきって起用する」とのべ、閣僚の大幅な入れ替えを行いたい考えを示した。一方、二階幹事長、麻生副総理については、続投させたいとの考えを示唆した。

◇衆院の解散・総選挙については、「せっかく新総裁になったので、仕事をしたい。新型コロナウイルス問題を収束して欲しいということと、経済を再生させて欲しいというのが、国民の大きな声だ。専門家が完全に下火になってきたということでなければ、なかなか難しいのではないか」とのべ、早期の解散・総選挙には慎重な姿勢を示したのが印象に残った。

菅新総裁は、安倍前首相のように派手な看板政策を次々に打ち上げるよりも、当面は、コロナ対策や経済・暮らしの立て直しなどに一定の成果や道筋をつける。その上で、国民の信を問う堅実な政権運営をめざす戦略のように見える。

 新政権のハードル 人事と解散時期

その菅新政権の戦略が成功するかどうか。

まずは、自民党役員人事と組閣人事問題が待ち受けている。既に選挙後の人事をめぐって派閥の主導権争いが激しさを増している。派閥の思惑・圧力をはねのけて、菅新総裁の方針が貫徹できるかどうか。

また、秋から冬にかけてコロナウイルスの感染拡大と、インフルエンザの同時流行をいかに防いでいくか。そして、国民生活の安定と経済活動の本格的な再開との両立を図っていけるか、極めて難しい対応が試される。

さらに衆議院議員の任期満了まで残り1年。衆議院の解散・総選挙の時期をどう設定するか。自民党内には、内閣支持率や自民党支持率が上昇傾向にあるので、早期の年内解散を求める動きが強まりつつある。

これに対して、菅新総裁は慎重な姿勢を崩していない。この解散・総選挙をめぐる綱引きをどのように調整するか。無派閥の総理・総裁の新政権が、こうした多くのハードルを乗り越えることができるかどうか。まずは、今週行われる党役員と組閣人事で、一定の判断材料が示されることになる。