岸田首相の後継を選ぶ自民党総裁選は19日が折り返し点で、20日から後半戦に入った。情勢は当初、石破、小泉両氏の争いと見られていたが、高市氏が勢いを増し、石破、小泉、高市3氏の三つ巴の戦いになっているようだ。
総裁選の予測は中々、難しい。個人的な経験でも2012年の総裁選は当時、最多の5人が立候補し、私はNHK日曜討論、日本記者クラブの討論会の司会を担当したので鮮明に覚えているが、多くのメデイアの事前の予想は外れることになった。
総裁選が幕を開ける前は、幹事長の石原伸晃氏がトップとの予想が多かったが、選挙戦に入ると失速。最終的には、3位か4位と見られていた安倍元首相が決選投票に残り石破氏を逆転、新総裁に返り咲いた。現職の総理・総裁が立候補を断念し、新人候補などが名乗りを上げる総裁選は波乱が起きやすい。
そこで、今回はなぜ、三つ巴になっているのか。最後に誰が抜け出しそうなのか、そのカギは何かといった点を中心に選挙情勢を探ってみたい。
2強から3強、三つ巴へ情勢変化
総裁選の第1回投票では、議員票368票(離党した堀井学議員の後任の繰り上げ当選が決まったため、議員票、党員票ともに1票ずつ増えた。党員票も368票になる)については、立候補者が過去最多の9人になったため、大きな差がつきにくく、代わって党員票の比重が高くなった。
その党員票は、報道各社の世論調査で「次の総裁としてふさわしいのは誰か」という質問に対して、告示前の時点では石破茂元幹事長と小泉進次郎氏の2人が他の候補を大きくリードしていた。
ところが、選挙戦が始まり、論戦が本格化した以降の調査では、石破氏、小泉氏、高市氏の3人がリードする形へと変化している。告示前は2強だったのが、選挙戦突入後は3強へと変わったのが大きな特徴だ。
但し、3人の強弱については、報道各社の調査でもバラツキがみられる。今の時点では「誰が最終的に勝ち抜くのか、わからない混沌とした情勢にある」というのが現時点の結論だ。
報道各社の調査結果をみてみたい。◆朝日新聞が行った調査(9月14~15日)のうち、自民支持層では①石破32%、②小泉24%、③高市17%となっている。◆共同通信の自民支持層の調査(9月15~16日)では、①高市27.7%、②石破23.7%、③小泉19.1%と順位も異なる。
読売新聞の調査(9月14~15日)では「党員を対象に絞った調査」をしているので、その結果を最も注目していた。①石破26%、②高市25%、③小泉16%。高市氏の伸びが大きく、小泉氏は3位に後退している。
こうした調査結果について、自民党の関係者に見方を聞いた。「石破、高市、小泉3氏が優位」との見方は妥当だ。但し、「3人の順位については、優劣をつけるまで至っていないのではないか」との見方をしている。
また、この関係者は「これまでの総裁選では、自民支持層と、自民党員を対象にした調査ともに、ほぼ同じ傾向が現れていた。今回は、その関係も異なりバラツキがみられる」「選挙情勢は、固まっていないのではないか」との見方だ。
一方、別の自民党の閣僚経験者に聞いてみると「高市氏に勢いが見られる一方、小泉氏には当初の勢いに陰りが生じつつある」との見方を示す。
その理由として「小泉氏は、選択的夫婦別姓の容認や解雇規制緩和などの政策を打ち出したが、党員の支持離れを引き起こしている。逆に高市氏の主張や政策に支持が広がった。論戦の影響が反映しているのではないか」と指摘する。
以上のような点から党員票については、上位3位の順位をつけるのは難しく、今後の動きを見極める必要があると考える。投開票まで、まだ1週間もある”長期戦”だ。
議員票も投票行動を読み切れず
次に議員票について見ていきた。368票のうち、◆40票余りを固め、先行しているのが小泉氏と小林氏だ。◆30票余りが林氏、茂木氏。◆20票台が高市氏、石破氏、河野氏、上川氏、加藤氏と続いているものとみられる。残りの90票余りをめぐって、9つの陣営が獲得にしのぎを削っているとみられる。
以上の議員票、党員票を合わせても過半数に達する候補者はいない見通しだ。このため、第1回投票では決まらず、上位2人の決選投票に持ち込まれる公算が大きい。その決選投票では、党員票は47都道府県の47票に縮小するため、今度は議員票の368票の方が大きなウエイトを占めることになる。
さて、その議員票がどのようになるか。立候補者9人のうち、3人は順番は別にして石破、高市、小泉の3氏だろう。この中から、決選投票に進出する2人に絞り込み、さらに最後の総裁の座を獲得するのは誰かとなると今の時点では、読み切るのは困難だ。
それに各候補ともにそれぞれ弱点を抱えている。小泉氏は党内で最も高い人気を保っているが、論戦の際の即応力、説明能力の危うさを指摘する声が多い。加えて「憲政史上最も若い43歳の総理・総裁の誕生を想像すると、経験や修行をもう少し積んだ後がふさわしい」といった評価を聞く。
高市氏については、前回総裁選で後ろ盾になった安倍元首相が亡くなっても、立候補にこぎ着けた力を評価する見方は多い。反面、「総理・総裁として、多くの議員を束ねていくだけの力量、指導力があるとは思えない」。「超保守の岩盤支持層が支えるのは強みかもしれないが、右寄りの姿勢が前面に出すぎると特に対米、対中関係などが危うくなるのではないか」と懸念する見方は根強い。
石破氏については、安倍首相の政敵として辛酸をなめながらも5回目の挑戦にこぎ着けたことと、「裏金問題をめぐる国民の政治不信が頂点に達している中で、信頼回復に取り組むリーダーとして適任」との声は根強いものがある。一方で、「何年経っても党内で仲間が増えず、政権を安定的に運営できる体制を作れるか大きな課題を抱えている」と危惧する声も聞く。
今回は、岸田首相が派閥解散を宣言した後、初めて行われる総裁選挙だ。派閥が全面的に復活するような動きはないにしても、決選投票では旧派閥の意向が働くのではないかとの見方は残る。具体的には、麻生派、旧岸田派、旧茂木派について、指摘されるような動きがないか、注視していく必要がある。
一方、高市氏の陣営が「国政レポート」という文書を党員に郵送した問題が明るみになり、他の陣営から「カネのかからない選挙にするため、党員向け文書の配布は行わない申し合わせに反する」と強い批判が出された。逢沢一郎選管委員長が口答で高市氏を注意したが、高市氏陣営が反発するといった動きが続いている。
このほか、朝日新聞が17日、安倍元首相と旧統一教会会長が2013年の参議院選挙直前に自民党本部の総裁応接室で面談していたとみられる写真を報道した。一昨年、この問題が表面化した際、自民党は個別議員の問題とは別に「一切の組織的関係は無い」という見解を示した。
朝日新聞の報道が事実であれば、この見解に反する可能性があり、説明が必要だ。党関係者に聞くと「安倍元総理の問題であり、総裁選に直接影響する可能性は小さい」との見方を示すが、次の衆院選挙などへの影響は出てくるのではないかとみている。
立民、野田氏先行、枝野氏追う展開
立憲民主党の代表選挙は、報道各社の世論調査でも野田元首相が先行、枝野前代表が追う展開で、泉代表、吉田晴美氏は支持の広がりが見られないという構図だ。
立憲民主党関係者に聞いても「議員票、党員・サポーター票ともに野田氏が、枝野氏を上回るのではないか」との見方している。最終的には、野田氏が新代表に選出される公算が大きいものとみられる。
自民党総裁選の投開票日は27日なので、野党第1党の新代表が決まったのを受けて、新しい総理・総裁を選ぶことになる。まず、決選投票に残る2人はどうなるのか。順位は別にして「石破、小泉」「石破、高市」「小泉、高市」の組み合わせが想定され、さらに最終的に誰を選ぶのかを決めることになる。
自民党長老に総裁選びはどこがポイントになるかを聞いてみた。「自民党議員の多く、特に中堅・若手は、旧派閥との関係よりも自分の選挙を考え、『選挙の顔』を意識するだろう。その際には、単に人気というよりも、第1回投票で示された党員票1位の候補を選ぶ議員が多くなるのではないか」との見方だ。
折り返し点を過ぎて終盤戦に向かうが、投票日まで1週間もある。選挙情勢もまだ動く可能性がある。当面の選挙乗り切りの発想ではなく、総理・総裁としてふさわしい候補は誰かを基準に選出してもらいたい。ほとんどの国民は、この後、予想される衆院解散・総選挙で適否を判断することになる。(了)