“最後に笑う人は?”自民総裁選投開票へ

菅首相の後継を選ぶ自民党総裁選挙は、29日に投開票が迫っているが、党員票で河野規制改革担当相がトップに立っているものの、過半数を獲得することは難しく、上位2人による決選投票にもつれ込むことが確実な情勢となっている。

決選投票を制し、”最後に笑う候補者”は誰になるのか、混戦が続く総裁選のゆくえを探ってみたい。

 1回で決まらず、決選投票が確実

さっそく、総裁選の選挙情勢からみていきたい。知人からも誰が当選するかとの質問が寄せられているので、可能な限りわかりやすく現状を分析してみたい。

混戦が続く今回の総裁選の予測は難しい。総裁選は、全国の党員・党友110万人余りの得票を比例配分する「党員票」382票と、党所属国会議員の「議員票」382票の合計764票で争われる。このうち、党員票の動向は、大手メディアの調査や取材がないと正確な情勢は中々、つかめない。

その際、正確なデータとして最も参考になったのは、読売新聞と共同通信が党員・党友を対象に行った電話調査だ。報道各社も世論調査を行い、自民党支持層の支持動向を分析しているが、自民党支持層と党員の支持動向は一致するとは限らない。

その党員調査によると河野氏がトップに立ったものの、「得票の上限」は50%を超えそうにないことがはっきりした。また、河野氏は議員票で1位になる公算は小さいので、党員票と議員票の合計でも過半数に達しない。つまり、第1回投票では決まらず、決選投票が確実な情勢ということになる。

そうすると決選投票は上位2人に絞って行われるので、河野ー岸田、あるいは、河野ー高市の2つのケースが想定される。第1回投票の予測では、党員投票と議員投票ともに岸田氏が高市氏をリードしているので、決選投票は河野-岸田の両氏の公算が大きいというのが、今の情勢だ。

 決選投票 党内力学・選出過程を注視

さて、決選投票はどうなるか。国会議員票382票と、党員票は47都道府県ごとに上位の候補者に1票ずつ加算されて、合計429票で争われる。党員票の比重が小さくなり、議員票の比重が増すのが特徴だ。

党員票については、47票の多数を河野氏が獲得し、岸田氏は地元広島県や有力議員のいる県に限られる見通しだ。

一方、議員票は、第1回投票の予測では◆岸田氏が3割強で最も多く、ついで◆河野氏が2割台半ばで、◆高市氏が2割で追い、◆野田氏20票程度とみられている。決選投票では、まず、3位の高市氏に投じた票と4位野田氏の票がどう動くか。

高市票の内訳は、最大派閥の細田派や、安倍前首相の影響が大きい若手議員の支持が多いとみられる。こうした票の多くは、安倍氏の意向などから、岸田氏支持へ回るとの見方が強い。派閥間の申し合わせを行うかどうかは別にして、事実上の「2位・3位連合」だ。

また、派閥の中には、1回目は自主投票としたが、決選投票はまとまって投票しようという動きもあり、派閥の動きがどうなるか。

さらに、党内の実力者、具体的には安倍前首相、麻生副総理、二階幹事長、菅前首相などがそれぞれの派閥や議員集団にどのような働きかけをするのか。

このほか、衆参でも温度差があるといわれる。衆議院の若手議員の中には、間近に迫った衆院選を有利に戦うために「選挙の顔」となるリーダーを選ぼうとする傾向が強いとされる。

これに対して、参議院側は、来年夏の参院選を考えると年明け長丁場の通常国会を乗り切れる「安定感」のある総理・総裁を選ぼうとするのではないかといった見方も聞かれる。このようにさまざまな要素が絡み合い、投票箱を開けるまでわからないとも言える。

総裁選で投票権を持っている自民党員は、有権者全体のわずか1.1%。投票権のない国民の1人としては、国会議員が何を重視して1票を投じたのか、派閥や有力者の働きかけなど党内力学がどのように働いたのか、じっくり注視したい。

今の段階で、”決選投票で笑う人”を予測すれば、岸田氏か、河野氏のいずれかというのが、個人的な見方だ。あるいは、結果によっては、候補者の背後にいる実力者の中にも、”笑う人”が現れるかもしれない。

 新首相は前途多難 衆院選が本番

新総裁は10月4日に召集される国会で、第100代の新しい首相に選ばれる運びだが、その前途は多難だ。

まず、懸案のコロナ対策について、政権移行に伴う空白が生じないよう支障なく進めていく体制づくりが求められる。月末に緊急事態宣言が解除になる見通しで、ワクチン接種の促進や、冬場の感染再拡大に備えた医療提供体制の整備を急ぐ必要がある。

最大の課題は、10月21日に任期満了となる衆議院選挙だ。新総裁にとっては、選挙に勝てば問題はないが、議席を大幅に失うような事態になれば、政権は失速する。新総裁にとっては、自民党総裁選に続いて、衆院選挙でも勝てるかどうかが一番のカギを握っている。

したがって、”最後に笑う人”は、実は与党のリーダーか、それとも野党のリーダーになるのか、最終的には秋の政治決戦の結果次第ということになる。

私たち国民の側としては、国会で与野党が、焦点のコロナ対策や日本社会や経済の立て直し策などをめぐって、十分に議論を深め、双方の論点や選択肢をはっきりさせたうえで、選挙戦に入ってもらいたいところだ。

まずは自民党総裁選の投開票をじっくり観察し、秋の衆院選本番に向けて、心構えの準備を始めたい。